9-2
そうして訪れた暑3の月。
少し暑さが和らぎ始めた時期に、この武闘大会は行われる。
「リアーヌ、こちらですわ」
学園内の屋外大訓練場は周囲に観覧席が設営され、既に満員である。ちなみに座席は有償で、マリアンヌが横並びに取ってくれた。割と見やすい席である。
(満員だなぁ)
席は全て埋まっていて立ち見もある。人の熱気に当てられそうだ。中でも、
「あの一角、怖いですわね」
と言うマリアンヌの視線を追うと、真っ白い衣装を身につけた女性の一団があった。みんな「ローラン様」と書かれた扇子を持っており異様な雰囲気を放っている。ーー怖い。
「近づかないようにしましょう」
と答えて、そっと目を逸らした。
やがて開会の時間となり、
「さあ、皆様、お待ちかねの武闘大会の日がやってきました!」
と言う声が、会場中に響き渡った。
拡声魔導具という、広範囲に声を響き渡らせる道具を手にしている司会は二人いる。
そのうちの一人は教師のコルトーで、もう一人はローランの友人レノーだ。
なお、今、司会として進行を務めているのはコルトーである。
「今年の優勝者は誰だ!? ローラン•シャルトルが優勝するのか、はたまた新星が現れるのか!?」
砕けた口調の芝居がかった司会進行は、この大会の性質をよく表している。
参加する側にとっては騎士の名誉や就職先に影響する重大なイベントだが、観戦する者にとっては娯楽である。
「そして何と、今年はとっておきの副賞が用意されております!」
(へぇ……副賞なんてあるんだ)
リアーヌがアンリだった世界では、トロフィーは贈られるものの、それ以外に何も授与されることはなかった。
(まあ、何か金銭的なものでもあれば、それもやる気が出ていいよね)
と部外者の立場で気楽なことを考えていたが。
「優勝者には、今年の非公式投票で学園の女神に輝いたリアーヌ・セネヴィル嬢より、祝福のキスが贈られます!」
会場がどよめいた。
……………。
…………………。
(………は?)
一瞬、頭が真っ白になる。そんなリアーヌの元に一斉に視線が集まった。
(何、それ!?)
祝福のキス? そんなこと、聞いていない。
呆然としているリアーヌに向けられる好奇の視線。羨ましげな視線。憐れむ視線。嫉妬の視線。ーーーー周囲の視線が全身に突き刺さる。
「マリアンヌ、私、ちょっと……」
マリアンヌはリアーヌが居たたまれないことを察してくれたようだ。
同情の表情で、そっとストールを渡してくれたので、ありがたく借りて頭から被って顔を隠し、その場を逃げるようにして離れた。
⭐︎
前回の人生経験のおかげで、気配を消して動くことには慣れている。人の合間を縫い、司会の動きが見える位置で、息を潜めて機会を窺う。
試合は午前中に十五歳未満の1〜3年生の部、午後から十五歳以上の4〜6年生の部が行われる。
下級生の午前の部が終わり司会のコルトーが休憩に立ったところを急襲し、人気のない物陰に連れ込んだ。
「うわっ」
と声を上げようとするコルトーの首根っこを、ぐいっと締め上げる。コルトーは、猛獣でも見るような目つきでリアーヌを見た。
「待て、リアーヌ、待て。話せば分かる!」
何か喚いているが聞く価値はない。
「聞いてないんだけど?」
さらに、ぐいぐい締め上げる。
「うぅっ、締まる、締まってる! 死ぬっ!!」
べしべしと腕を叩かれる。さすがに死にはしないよう加減はしているが、落ちる寸前らしく顔が少し青くなっているので、ちっと舌打ちして仕方なく放してやった。
「チンピラかよ……」
ぜえぜえと荒い息を繰り返すコルトーに、リアーヌは冷たい視線を投げかけた。




