7 一緒に勉強しよう
平穏な日々を望むのであれば、白騎士ローランには、近づかないに限る。
前回の失敗が身に染みているリアーヌは、極力ローランと関わらず、それなりにうまく学生生活を送っていた。
ーーはずだった。
「セネヴィルさん」
午前中の休憩時間に、不意に頭上から名を呼ばれた。
顔を見なくても、声の主が誰かはすぐに分かった。前世で嫌になるほど聞き慣れた、艶のある魅力的なその声はローランのものである。
その時、席について次の授業の準備をしていたリアーヌは、慌てて立ち上がった。ローランが立っているのに自分が座ったままで、万が一、級友たちに「生意気な編入生」だと思われては困る。
「どうなさいましたか、シャルトル様」
不意を突かれ、内心あわあわしていたが、何とか取り繕って落ち着いた声で返す。
(……何? 何の用??)
今まで挨拶程度しか交わしたことがない間柄だ。こんな風に一対一で呼びかけられることは、編入初日以来だった。
こうして改めて相対すると、以前との違いを感じる。アンリより背が低い自分は、前にも増して視線を上げなければならない。
(見下ろされるのって、地味に屈辱……)
すらりと伸びた均整の取れた手足。誰もがため息をつく洗練された立ち姿が、リアーヌにとっては恨めしい。そんな超絶美形が、用件を述べた。
「礼節の課題の提出がまだのようだから。何か、分からないことでもあったのかと思って」
「??」
提出期限は間違いなく明日のはずだが………未提出者には一度、期限前に声をかけるのが慣例なのだろうか。
この学園での生活は二度目だが、詳細はあまり覚えていない。しかし流石は特別クラス。期限間際ぎりぎりに提出など、あり得ないということだろう。
(さっさと出しておけば良かった)
課題自体は、それが出された日に終わっていた。早めに提出していれば、こんな風に、うっかりローランと会話を交わしてしまうことはなかったと思うと悔やまれる。
「まあ、ご親切にありがとうございます。提出期限は明日だと勘違いしていました」
微笑んで答えると、相手も柔らかく微笑んだ。その後、
「いや、確かに期限は明日までだが、礼節の先生は厳しいから早めがいいんだ」
と説明した。その言葉で、はっと思い出す。
(あー、忘れてた)
礼節の課題は早めに、とはレノーからすでに聞いていたことだった。
やらかした、と思っているところを、ローランが少し困ったような表情をして続けた。
「それに君は編入して日も浅い。その……言いにくいが、前回のセネヴィルさんの試験結果は芳しいとは言い難かった。まだ特別クラスに慣れていないだけだと思うから、きっとすぐに要領は掴めると思う。だから君がクラスの課題に慣れるための手伝いをさせてほしい」
え、絶対にイヤだ。
即座に思ったが、声に出すのはギリギリ堪えた。
そもそも、初日に「俺に近づくな」と牽制してきたのはローランの方だろう。一体、何のつもりだろうか。
(最初の試験の結果が悪すぎたからか?)
これは特別クラスの級長として、流石に見過ごせないと思われてしまったのかもしれない。
ともかく、ここはうまく切り抜けなくては。
「あ、いえ……」
シャルトル様のお手を煩わせるのは……などと適当な理由をつけて、やんわりと断ろうとしたが。
「それは素敵なお考えですね。セネヴィルさんが少しでも早くクラスに馴染めるよう、シャルトルさん、よろしくお願いしますね」
副級長のユミナが、横から声をかけてきた。どうやら一部始終を見守っていたようだ。はっと周囲を見やると、他の同級生たちも、うんうんと頷いている。
その優しい眼差しから、彼らが心の底から親切でそう言っていることはリアーヌにも分かる。
ーーー断る断れない雰囲気に、リアーヌは屈した。
「あの……ありがとうございます」
クラスの空気に流され、リアーヌは放課後、ローランと共に勉強することになった。




