6-2
コルトーの怒りは正当である。
言い訳もできないくらい、ひどい結果だった。リアーヌは気まずく思いながら目を逸らす。
「ちょっと目測を誤っただけだって」
しかしコルトーは見逃してはくれなかった。
「お前、この成績はいくら何でも駄目だろう。一時、落ちぶれていたとはいえ、セネヴィル家は格式高い家柄だ。その家の一人娘が馬鹿と思われては恥ずかしい」
「だから、ごめんなさいって謝ってるでしょう」
おざなりな謝罪を述べるリアーヌに対し、コルトーは「嘆かわしい」とでも言うように額に手を当てた。
「先生に顔向けできない」
彼の言う「先生」とはリアーヌの母のことだ。コルトーは、彼女のことを心から尊敬している。もちろん、リアーヌも母を誇りに思っているが。
「お母様は、私の成績とか、そんなに気にしないと思います。健康でたくましく育ってくれればいいって」
「先生はおおらかすぎるんだ」
呆れたように溜め息をつくコルトーに、リアーヌは本音を漏らした。
「本音を言うなら、今からでも一般クラスに落ちたい」
「何でだよ。お前は家のために勉強して、ついでに優良な婿候補を探しに来ているんだろうが。一般クラスより特別クラスの方が、条件がいいに決まっているだろう?」
「それはそうだけど……」
リアーヌがもごもごと口を濁す。
「ここにはシャルトル家の次男がいるし……」
「ああ? シャルトル? あいつがどうかしたのか?」
「いや、ちょっと苦手というか……」
「なんでだ。シャルトルは優秀な生徒だぞ。生徒に対して面倒見もいい。顔も良くて物腰も柔らか。学園で結婚したい男不動の一位だぞ」
それは前回の人生でコルトーの口からは、決して出ることがなかった言葉だ。
勢力争いが激化していた前回のコルトーは、ローランの実力は認めていただろうが、褒めるような言葉は決して口にしなかった。
(敵勢力だったからね……)
王位継承権争いが収まっている今は、敵勢力という認識はなく、純粋に一生徒としてローランという人間を評価しているようだった。それでも。
「私の相手にシャルトル家はないでしょう?」
「そりゃそうだが……毛嫌いする理由もないだろ」
「いやいやいやいや」
すっかり優等生ローラン・シャルトルに懐柔されているようだ。確かに教師の視点から見れば、とても扱いやすい生徒だろうが。
「学問に秀でて、武芸も一流。学生の面倒見もよく、優しく物腰柔らか、そして清廉潔白な絶世の美少年! ………胡散臭くない?」
「それ、お前にそっくりそのまま返すわ」
ここで、笑顔で人の相手をして、丁寧な言葉で話しているお前を見ていると、背筋にぞぞーっと鳥肌が立つんだが、と失礼なことを小声で呟く。しっかり聞こえたので、足を踏みつけてやった。
「心配しなくても、あいつはお前に興味を持たないと思うぞ。歴代の彼女、なかなか色気のある美女だし」
コルトーがじっとリアーヌの全身を見て……とどめをさすように首を横に振った。大変に失礼な反応である。
「なんで可哀想な目で私の体を見るの。体目当てで近づいてくる男なんて、ろくな人間じゃないでしょう?」
「そりゃそうだが」
領主の一人娘であるリアーヌにとって、女領主となる自分と共に領地運営ができる男を選ぶことは責務だ。容姿目当ての男など、一考にも値しない。
「まあ、なんだ。ローランは、そつなく適当な女性と付き合って、深入りしないよう、適度な期間で別れているようだがな。そのうち、優秀な婿養子を必要としている良家の令嬢と結婚するんじゃないか?」
「私も、そう思っているけど」
確かに自分はローランを過剰に気にしすぎなのかもしれない。……せっかく新しい人生を歩んでいるのだ。もっと気を抜いてもいいのだろうか。
「とにかく、流石にセネヴィル家の名を背負ったお前を一般クラスに落とすわけにはいかない」
びしっと指を突き付けてくるコルトーに、リアーヌは少しのけぞりながら答えた。
「分かってるって。だから中間の点数を教えて。クラスで真ん中くらいになるように調整するから」
「あー、分かった分かった」
……つうか、どうして普通に試験を受けないんだ。お前なら普通に上位を狙えるだろう? とコルトーはぶつぶつ文句を垂れながらも、科目ごとの中間の点数を紙に書いて渡してくれた。
リアーヌは、それをありがたく受け取ると、
「次の試験は、もっといい感じにやります。ということで、先生、さようなら」
と告げて研究室を出た。




