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それは思考を奪い去るほどに甘く、官能を呼び起こすような口づけだった。
するり、と自分とは違う少し節張った手が喉元に触れる。直に素肌に触れられ、ぞわりとした得体の知れない感覚が身体中を駆け巡った。
「リアーヌ。君は一つだけ、俺を理解していないところがある」
リアーヌを口づけから解放したローランは、そのまま耳元に唇を寄せて囁く。
「君は、俺が絶対に自分に酷いことはしないと思っているだろう? でも、できる」
服が肩の辺りまで下げられた。
「君を繋ぎ止めるためなら、何でもする」
襟元がはだけて露わになった鎖骨にローランの指が這う。
無防備な首筋にローランの顔が近付き、唇が触れた。少し濡れた感触がしたと思うと同時に、ちりっとした痛みを感じた。
「あっ……」
今まで感じたことのない、ぞわぞわする感覚に、思わず声が漏れた。
リアーヌはローランを引き離そうと、彼の胸を押す。しかし、がっちりとリアーヌを抱き締めるローランの力は強く、びくともしない。
「リアーヌ……」
掠れた声。熱い吐息が胸元をくすぐる。
「俺を拒まないで」
艶を帯びた声が、懇願するように訴えかける。
(まずい)
と思った。
このままだと、うっかり流されてしまいそうな自分がまずい、と思った。
自分とローランの将来を真剣に考えるのならば、ここでなし崩しになっては駄目だ。先に解決すべきことがある。
(とにかく、正気に戻さないと)
ローランは少し我を失っているように見える。
しかしリアーヌは知っている。彼は、リアーヌから抱きしめられると、一瞬だけ固まってしまうことを。ーー彼は、大切な人から抱擁されるという温もりに、まだ慣れていないのかもしれない。
(……)
……この体勢で抱きしめると、ローランの顔が胸に埋まってしまうが、そこは目を瞑ろう。
(どうせ小さいし!)
ローランの頭をぎゅっと抱き締め、リアーヌはやけくそに叫んだ。
「嫉妬してました!」
「え?」
リアーヌの言葉と行動に虚をつかれたローランに、わずかの隙が生まれた。その隙をついて、するりと彼の腕の中から抜け出す。
「だから、女の子に囲まれてる貴方を見て、もやもやしたってこと!」
リアーヌの告白に、びっくりしたように目を見開いたローランだったが、次の瞬間には、難しげな表情で考え込んだ。
「純粋な疑問なんだが」
顎に手を当て、首を捻る。
「いつも君に付きまとっている俺のどこに、誤解されるような要素があったか、全く分からない」
さらっと「いつも付きまとっている」と言い切られた。どうやら本人も付きまとっているという自覚があったらしい。
「そうか、妬いてくれたのは、俺を想ってくれている証拠だから嬉しい」
ローランの瞳が少し和らいだ。
「でも、そのせいで君が俺から距離を取ろうとするなら、してほしくない」
ローランは手を伸ばしてリアーヌの髪を掬うと、愛おしむようにそっと唇を寄せる。
「俺のことが心配なら、むしろ一時も俺の側から離れないで監視してくれた方がいい。監視魔法を使ってくれてもいい」
俺もそうしているし、と付け加えられた言葉に戦慄した。ーーまあ、そんな気はしていたが。
「俺は君以外に興味がない。……君が思っている以上に俺は、君以外の人間はどうでもいいんだ」
「そっか」
どう考えても過剰な執着としか思えない言葉に、少しだけ安心してしまった自分は、後戻りができないくらい、恋という沼に足を踏み込んでしまったのだろう。
ーーと、ローランがじっと見つめてくる視線に気付いた。
「何?」
「続きは?」
「しません!」
この男は学生の分際で何を言っているのだろう。物事には順序というものがあるのだ。
リアーヌはくつろげられた服を寄せて胸元を隠し、適切な距離を取った。
「どうして駄目なんだ」
「どうしても何も、学生のうちは駄目なんです」
そんなリアーヌを見て、ローランは心底がっかりしたように溜め息をついていた。




