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死に戻ったら前世で私を殺した宿敵が溺愛してきます  作者: しののめ


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32-3

 それは思考を奪い去るほどに甘く、官能を呼び起こすような口づけだった。


 するり、と自分とは違う少し節張った手が喉元に触れる。直(じか)に素肌に触れられ、ぞわりとした得体の知れない感覚が身体中を駆け巡った。


「リアーヌ。君は一つだけ、俺を理解していないところがある」


 リアーヌを口づけから解放したローランは、そのまま耳元に唇を寄せて囁く。


「君は、俺が絶対に自分に酷いことはしないと思っているだろう? でも、できる」


 服が肩の辺りまで下げられた。


「君を繋ぎ止めるためなら、何でもする」


 襟元がはだけて露わになった鎖骨にローランの指が這う。

 無防備な首筋にローランの顔が近付き、唇が触れた。少し濡れた感触がしたと思うと同時に、ちりっとした痛みを感じた。


「あっ……」


 今まで感じたことのない、ぞわぞわする感覚に、思わず声が漏れた。

 リアーヌはローランを引き離そうと、彼の胸を押す。しかし、がっちりとリアーヌを抱き締めるローランの力は強く、びくともしない。


「リアーヌ……」


 掠れた声。熱い吐息が胸元をくすぐる。


「俺を拒まないで」


 艶を帯びた声が、懇願するように訴えかける。


(まずい)


と思った。

 このままだと、うっかり流されてしまいそうな自分がまずい、と思った。


 自分とローランの将来を真剣に考えるのならば、ここでなし崩しになっては駄目だ。先に解決すべきことがある。


(とにかく、正気に戻さないと)


 ローランは少し我を失っているように見える。


 しかしリアーヌは知っている。彼は、リアーヌから抱きしめられると、一瞬だけ固まってしまうことを。ーー彼は、大切な人から抱擁されるという温もりに、まだ慣れていないのかもしれない。


(……)


 ……この体勢で抱きしめると、ローランの顔が胸に埋まってしまうが、そこは目を瞑ろう。


(どうせ小さいし!)


 ローランの頭をぎゅっと抱き締め、リアーヌはやけくそに叫んだ。


「嫉妬してました!」

「え?」


 リアーヌの言葉と行動に虚をつかれたローランに、わずかの隙が生まれた。その隙をついて、するりと彼の腕の中から抜け出す。


「だから、女の子に囲まれてる貴方を見て、もやもやしたってこと!」


 リアーヌの告白に、びっくりしたように目を見開いたローランだったが、次の瞬間には、難しげな表情で考え込んだ。


「純粋な疑問なんだが」


 顎に手を当て、首を捻る。


「いつも君に付きまとっている俺のどこに、誤解されるような要素があったか、全く分からない」


 さらっと「いつも付きまとっている」と言い切られた。どうやら本人も付きまとっているという自覚があったらしい。


「そうか、妬いてくれたのは、俺を想ってくれている証拠だから嬉しい」


 ローランの瞳が少し和らいだ。


「でも、そのせいで君が俺から距離を取ろうとするなら、してほしくない」


 ローランは手を伸ばしてリアーヌの髪を掬うと、愛おしむようにそっと唇を寄せる。


「俺のことが心配なら、むしろ一時も俺の側から離れないで監視してくれた方がいい。監視魔法を使ってくれてもいい」


 俺もそうしているし、と付け加えられた言葉に戦慄(せんりつ)した。ーーまあ、そんな気はしていたが。


「俺は君以外に興味がない。……君が思っている以上に俺は、君以外の人間はどうでもいいんだ」

「そっか」


 どう考えても過剰な執着としか思えない言葉に、少しだけ安心してしまった自分は、後戻りができないくらい、恋という沼に足を踏み込んでしまったのだろう。


 ーーと、ローランがじっと見つめてくる視線に気付いた。


「何?」

「続きは?」

「しません!」


 この男は学生の分際で何を言っているのだろう。物事には順序というものがあるのだ。

 リアーヌはくつろげられた服を寄せて胸元を隠し、適切な距離を取った。


「どうして駄目なんだ」

「どうしても何も、学生のうちは駄目なんです」


 そんなリアーヌを見て、ローランは心底がっかりしたように溜め息をついていた。

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