32-2
放課後。
リアーヌは、コルトーの研究室に殴り込んだ。首根っこ引っ掴んでガクガク揺らしてやろうと思っていたが、敵もさるもの、あらかじめ防御壁を張られて容易に近づけなかった。
仕方ないので机を叩いて問い詰める。
「どうして、私を指名したんですかね」
すると即座に答えが返ってきた。
「だってお前、参加しないだろう? 参加したい生徒が実行委員に選ばれたら可哀想だろうが」
思いのほか、まともな答えだった。
ーー確かに実行委員に選ばれると裏方になるので、舞踏会には参加できない。舞踏会に将来をかけている者にとって、それは致命的だ。
「いや、私だって参加するかもしれないでしょう?」
するとコルトーは訳知り顔で、こう答えた。
「お前、今の状況で参加できると思ってんの?」
彼の視線は、リアーヌの右手の薬指ーーライカの涙の指輪に注がれている。
「う……」
返す言葉もない。
「それに、お前を指名すると漏れなくシャルトルが付いてくるだろう? 二倍以上の効率が図れて、お得だろうが」
まるでローランを食玩のように言ってのけたコルトーは、実は強者なのかもしれない。ーーまあ、ローランがいる所では絶対に言わないだろうが。
「ま、裏方は目立たないはずだし、よろしくな! ほら、シャルトルが探しに来る前に帰った帰った」
と、まるで犬の子を追い払うように追い出されたのだった。
⭐︎
「リアーヌ。俺も手伝おう」
悔しいが、コルトーの目論見どおり、リアーヌにくっついてローランも実行委員の仕事を手伝った。二人とも要領がいいので、作業効率は二倍以上である。
そうこうしているうちに、あっという間に舞踏会当日となった。
結局、実行委員であるリアーヌーー漏れなくローラン付きーーは、当日も裏方としての仕事が山盛りなので、会場に詰めている。
ただ、リアーヌもローランも裏方なのでドレスアップはしておらず、目立たないよう立ち回っていた。
……はずなのだが、少しリアーヌが離れている隙に、ローランは目敏い女生徒たちに囲まれていた。
「どうか、一度だけでもいいんです。私と踊ってくださいませんか?」
「恋人になりたいなんて、大それたことは思っていないんです」
「一夜の思い出をください!」
ーーどさくさに紛れて問題発言があったような気がする。何にせよ。
(おーおー、モテることで)
何だか、もやもやした気持ちが湧き上がる。
(まあ、外面はいいからね)
今まで、あまり気にしたことがなかったが、ローランはこの学園で最も女生徒に人気のある学生だ。また、これから騎士になれば、前世と同じく社交界の華やかな令嬢たちの注目の的になるはずだ。
だから、こんな光景は日常茶飯事で、いちいち反応する自分が未熟なのだ。
「申し訳ないが俺は参加者ではないので、会場に入るつもりも踊るつもりもないんだ」
素っ気ない態度で女生徒たちを撒いたローランが、リアーヌを見つけて近づいて来る。そして眉をひそめた。
「リアーヌ? 少し元気がないような気がする。どうかしたのか?」
「何でもない!」
ちょっとイラッとして喧嘩腰の口調になってしまった。我ながら未熟だなと反省はするが、まだ気持ちは落ち着かず、すっと目を逸らした。
「別にローランには関係ないことなので」
めちゃくちゃローランに関係はあるのだが、ローランが悪いわけでもない。ただの子供っぽい八つ当たりであることを自覚しているため、あまり詮索してほしくなかった。
「そうか」
納得してくれたのだろうか。しばらく経てば、このモヤモヤも落ち着くだろうから、今はそっとしておいて欲しい。
しかし。
「リアーヌ、俺はね」
ローランが微笑んだ。けれどーー目が笑っていない。
「君がやりたいことは全て応援しているし、支えたいと思っている」
とろけるように甘い言葉とは裏腹に、目が据わっている。
「でも、俺にも一つだけ、許容できないことがある」
何か、とても不穏な雰囲気である。リアーヌはじりっと後退りしたがーー。
「君が俺を拒絶することは、許容できない」
その言葉と共に、すっと距離を詰められた。そのまま腰に手が回ったかと思えば、ぎゅっと引き寄せられーー唇が重なった。




