32 舞踏会と恋の花
舞踏会。
それは、他国であれば上流階級の社交の場としての役割が大きいようだが、フィリウス王国では、若者の出会いの場として提供されることも多い。
(特に、騎士になると出会いが少ないし)
そういうわけで、騎士の登竜門である王立学園の行事にも舞踏会は組み込まれている。この催しは五・六年の冬のイベントで、休日に行われるため参加は任意だが、参加率は高い。
(人によっては、パートナーを決めないといけない時期だからね)
王立学園を卒業する時、生徒は十八歳だ。卒業後は市井の者と変わらず、結婚か就職するのが基本的な進路である。
そう、だからこそ。
この舞踏会は、優秀な、もしくは家柄の良い相手を見つけ出す絶好の機会なのだ。
その日までに相手を見つけておくのが基本だが、一人参加も可能であるため、そういう者は血眼になって当日に相手を探すのである。
そう、舞踏会とはある種、武闘大会と勝るにも劣らない仁義なき戦いの場と言えるだろう。
アンリの時には全く縁のなかった行事だが、今世では婿探しのため、その戦闘に参加するべきかなと編入する前には考えていた。
しかし。
(私は参加しないで部屋でゆっくり休もう)
リアーヌは本来、男女を引き合わせるための催しが苦手なのだ。あしらうのは慣れているためお手のものだが、それでも精神的に疲れる。
(それに婿探しとか、もう無理だしね……)
リアーヌの側には常にローランが寄り添っている。リアーヌが参加すると言えば、ローランもリアーヌのパートナーとして参加すると言い出すだろう。
ーー誰が学園一の男が隣にくっついているリアーヌに声をかけるというのか。
同時に。
(見える。やっかみをうける自分の姿が)
もはや学園中から「リアーヌとローランは特別な関係だ」と認識されているようだが、それでもローランの人気は失せていない。
ローランの隣に女がいるというだけで眉を顰める過激なファンもいるので、穏やかな学園生活を続けるためには、あまり彼女たちを刺激しないのが賢明だろう。
綺麗なドレスを着たいという乙女心も、前世が男だったせいか、希薄だ。
(と、そんなことを考えていた日もありました)
その日、キャロ教師が風邪で休んでおり、代理でコルトーが担任の業務を行っていた。
その日の議題は「舞踏会」だった。学生が主催するイベントであるため、各クラスから一名、実行委員を出す必要があり、その話し合いの最中、
「あー、一つ提案なんだが、実行委員はセネヴィルでどうだ」
とコルトーがのたまった。
(……はぁ!?)
唐突かつ理不尽な指名に、リアーヌはコルトーを凝視した。ーー睨みつけたとも言う。
しかしコルトーは、ローランのことは苦手であっても、リアーヌに対しては遠慮がない。リアーヌの視線を軽く受け流すと、
「級長、副級長は他の役職を兼ねることができないだろう? その点、セネヴィルは無役だが、今年の次席だ。何か一つくらい役をしておいた方が、今後の勉強になるだろう」
と、もっともらしい理屈をこねた。
その提案に、
「セネヴィルさんなら、しっかりしているし、適役だと思います」
と真っ先に賛意を示し、拍手をしたのはレノーである。ーーリアーヌが引き受けなければ、今年三位の彼に役が回って来そうなところだ。面倒な役割を回避したいという思惑が透けて見えた。
「だろう? 他の皆はどうだ?」
コルトーが促すと、一気に拍手が広がった。自らの提案が受け入れられたコルトーは、どや! という顔をしている。殴りたい。
そうしてリアーヌは、全会一致で実行委員に決まったのだった。




