第213話 不合格
前略おふくろ様、マチがカッチカチにかてぇです。全く納得できるほどのダメージを与えられる気配がありません。
「ふう、前菜はまだでしょうか……?」
一周回って待ち疲れているほどである。いや、台詞はそうでも、表情が恍惚としていやがる。こいつ、またセルフお預けを……!
「ちなみに、毒の効果とかは……?」
「毒ですか? ああ、そう言えば一瞬かかりましたね。ただ残念ながら、私は状態異常が勝手に治る質でして。低レベルな霊刻印による効果なら、尚更にこの通りです」
レベル5の『魔法・毒嵐』が低レベル扱いかよ、ちくしょう……!
「オルカ、どうやら一人一人で挑むには、壁が高過ぎるようだ。同時に仕掛けるぞ」
「それしかないな。夫婦の共同作業と行くか」
「ぐっは!? ゆ、油断しておった……! 油断していたところで、いちゃつきおった……!」
何かダリウスがセルフダメージを食らっているが、ダメージを与えたい相手はお前じゃないんだよと。
「次は同時に攻撃ですか。良いですね、私は全てを受け入れましょう。さあ、来てください!」
と、若干鼻息を荒くしながら俺達を見据えるマチ。その様子からしてちょっと怖いが、んな事を言っている場合でもない。
「これならば、どうだ!」
オルカが『魔法・炎樹』でマチを炎の樹木で包み込み、火炙りにする。樹木はギチギチと彼女を締め上げ、それだけでも圧殺できる威力を誇っていた。本来は、だが。
「更にッ!」
続け様にオルカは『魔法・氷刻』を発動し、炎の樹木ごと氷の時の檻へと閉じ込める。急激に熱して冷やす、金属を脆くする常套手段だが、肌が金属っぽいマチには、ひょっとすればこれが有効かもしれない。
「すかさず、こうだッ!」
再びダリウスソードに『魔法・毒嵐』を纏わせ、それを振るう。マチを束縛する氷の檻、炎樹ごと切り裂き、奴に特大のダメージと痛みを食らわせに至る!
――ガァキキキキキィィィン!
……そう思ったんだが、攻撃の後に聞こえて来たのは、変わらぬ金属音の連続だった。竜巻が消え、そこに突っ立っているであろうマチの姿が見えて来る。
「うーん、これで合格を出すのはちょっと……」
彼女は頗る申し訳なさそうな顔をしながら、両腕でバッテンマークを作っていた。当然、もうダメージや手傷やらは消えていて、多少制服に傷ができたかな? と言った状態だ。駄目だ、これはもうホワイト達も出して、マジの総攻撃を仕掛けるしかない。ただ、黒霊を操れる事を知られたくはない訳で。
「あー、マチさんや。ここからの攻撃は直接は見せたくないんで、目隠しをしてもらっても良い?」
「ほう、そう来ますか! 目隠しプレイとは、なかなか通なところを攻めてきますのね!」
「そうかなぁ、そうかもねぇ……」
もうツッコミをする気力もねぇですよ。
「あ、するならこれを使ってください。自前で持っているので!」
常に持ち歩いてんのかよ……ともあれ、これで目隠し完了である。
「ベクト、全てを叩きつけるんだな?」
「ああ」
ホワイトと杖ズミさん、シュラ(窓の外)、フリジアン、エンド(窓の外)、ブリさん、ハピさん、キッシー、マッドー、ついでにミタ――今ここに、俺が使役する全勢力を集結させる!
「行くぞ、マチ! これこそが俺の最大火力、食らってみろやああああああッ!」
一斉に叩きつけられる、ホワイト達の総攻撃。そこに俺とオルカの攻撃も加わり、マチ周辺は瓦礫の山と化した。あまりの轟音に、あの金属音も掻き消されるくらいだ。これならば、きっと――
「手数は大したものだけれど、一発一発が乱雑ですね。一撃に死そのものの概念を付与する、そのレベルの攻撃を連発されていたら、ひょっとしたら合格を出していたかもしれません」
――駄目でしたッ……! マチ、無傷です。突破できねぇ……!
「ぐおおおお……マジかよ、マジで手詰まりじゃねぇか!? どうするんだよ、これ!?」
俺、嘆く。ここで諦める訳には……だが、実際どうする? 何か、何か俺達に残された手は……ッ! そうだ、アレがあった!
「ベクトめ、何かを閃いたな?」
「しかし、ここまで来たら完全に手詰まりではないか? これ以上の手など、ワシは知らんぞ?」
「ダリウス、お前が知らないのは無理もないだろう。これを知るのは、この場において俺とオルカだけだ」
「なっ、相棒のワシですら知らない技を、いつの間に!?」
「フッ、まあ見てなって。はああああああ……!」
目を閉じ精神を集中、俺が目指すは極致の一突き。
「これは……今までにはなかったレベルの圧を感じますね。まさか、ここに来て期待させてくれとは……良いでしょう、存分に来てください! 私が全てをお受けしましょう!」
マチが無防備な状態で俺の前に立つ。ははっ、ありがたいな。敵が動いていたら、とてもじゃないがこの技は当てられなかった。故に、このチャンスは掴まなくてはならない! ……行くぞ!
「イレーネ流マッサージ術! 第一打、『悼』!」
俺は人差し指と中指の二本で、マチの腹部を鋭く貫いた。そう、これこそがイレーネの儀式、もとい激痛マッサージ始まりの一手なのだ。
「……カハッ!?」
流石のマチもこの攻撃には耐え切れなかったのか、直後に吐血していた。
「マ、マチが血を吐いたじゃとおおおおおお!?」
「なるほど、イレーネのマッサージを習得していたのか。確かにそれであれば、マチにダメージが入るのも納得できる……!」
「えっ、できるの!?」
できるのである! そして間髪入れずううう!
「追撃の第二打、『惟』ッ!」
彼女の背中側に回り、右肩のある地点を同じく貫く。イレーネの一撃はもっと腰の入ったものだったが、今の俺ではこれが限界だ……!
「ゴハッッッ……!」
「さ、更に吐血を!?」
「ああ、あれは思い出したくない激痛だった……」
「オルカ!? 急に遠い目をしてどうした、オルカ!?」
遠い目もするってもんだよ、これを受けたら! でもって対をなすうううう!
「撃滅の第三打、『壊』ッッ!」
対称となる左肩を貫き、体のバランスを整える。これにより邪気は払われ、変態性も薄れるだろう。……そう、イレーネがやっていればな!
「グボバッッッッ……!」
「な、何じゃ!? 何やら吐血と共に邪気が薄れた気がするぞい!」
「いや、あれでは不完全だ。イレーネ、もしくはアリーシャがやっていれば別だったかもしれんが、ベクトはまだその域に達していない……!」
「一体何の話じゃ!?」
俺がまだまだ未熟って話だ! さあ、これで決めるぞ! マチ、アンタの癖をこれで満足させたらああああああ!
「終焉の第四打、『崩』ッッッ!」
残像を残しながら再びマチの眼前へと移動し、彼女の眉間の辺りを貫く。これにより対象者は現世のしがらみから離れ、昇天への道を歩むだろう。……激烈な痛みと共になッ!
「フンデラッバァッッッッッ……!」
「あわわわ、マチの目から血の涙が出て来たぞい!? こ、これは流石にやり過ぎなんじゃ……」
「良い一撃ではあるが、まだまだ甘いな。イレーネの神業は悲鳴も上げさせてくれないんだ……」
「さっきから拷問の話でもしとるの!?」
いいえ、神聖なるマッサージの話です!
「ハァ、ハァ……クッ、やはり俺の消耗も激しいか……! 残念ながら、最終打である『體』は俺如きでは猿真似もできない代物だ。だがそれでも、前菜レベルでアンタを楽しませた自信はあるぜ、マチ……!」




