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第212話 不和不和な事態

「「「……?」」」


 俺達は揃って首を傾げた。マチの言っている意味が直ぐには理解できなかったんだ。俺達が持つ凶悪な攻撃に期待? え、何で? 仮に俺らがそんな攻撃を有していたとして、何でそこで期待という言葉が出て来るんだ? まさか、ウダルルムを打倒する手段として期待しているとか? ハッハッハ、それは流石に買い被り過ぎである。参ったなぁ~~~。


「さ、存分に私に攻撃を叩きつけてください。お二人の攻撃からどのような味がするのか、とっても楽しみです!」

「やっぱりそういう流れかぁ……!」


 知らないフリで通そうと思ったんだが、どうやらマチは既に受ける気でいるらしい。


「いや、そもそも何で攻撃する必要があるんだよ? しないよ、攻撃?」

「……なるほど、まだ脱いでいませんでしたね。私の制服を労わってくださるとは、何と言う優しさ! さ、直ぐに脱ぎますから、その瞬間に容赦のない攻撃を――」

「――違う違う、脱ぐなって違うから!? 別に制服を労わって攻撃しなかった訳じゃないからね!?」


 制服を脱ごうとしていたマチを寸前のところで止める。お前、さっきコンプライアンスって言ったやろがぁ……!


「え、本当に攻撃してくれる気がないんですか? なぜ?」

「それはこちら側の台詞だ。私達は伝言を伝えるという役割をもう果たした。そちらに攻撃する気がなければ、攻撃する必要もない」

「そうそう、オルカの言う通りだ」


 動揺する俺とは違い、オルカは淡々と断ってくれる。やっぱモフカワが絡んでいない時のオルカは頼りになる!


「それは困りました。娑婆に解放されて、早速心の拠り所を見つけたと言うのに……」

「勝手に拠り所にされても困るんだよ。それじゃ、マジでもう行くから――」

「――なら私を攻撃してくれるまで、ウダルルムの討伐には参加しません」

「……は?」


 何を言っているんだ、この変態は?


「私が推察するに、ウダルルムの討伐には私の力が必須になります。と言いますか、私を加えて漸く五分といったところです。そんな私が参加しないとなれば、ルシウスさん達は困るでしょう。それはもう、今回の討伐計画を中止してしまうほどに。それはあなた方にとって、それなりに困る事態なのでは?」

「アンタ、なんちゅう脅し方をしてんだよ……」


 危険を冒してまで今回マチを捜しに来たのは、上位探索者の面々に恩を売る為だ。問題児ばかりである奴らとの不和を生まないよう、俺達が敵でないとアピールできるよう、命懸けでここまで来た。それがマチに伝えはしたけど、俺達が原因で来なくなったとしたらどうなる? クレちゃんは理解を示してくれそうだけど、まだ会ってもいない上位探索者達が、一体どんな反応を示すのか……全然予想できねぇし、正直不安でしかない。最悪、不和不和な事態に陥るだろう。


「……ハァ、攻撃すれば良いんだな? それで参加してくれると」

「むっ、何だかやる気があまり感じられませんね? そんな貴方に条件を付けて差し上げましょう。私に満足なダメージを与えられたら、と言う素敵な条件を!」

「勝手に条件を足さないでくれる!?」


 こうして不本意ながら、俺達はマチの趣味に付き合う事になってしまうのであった。制服についてはオルカの『修繕』で元に戻すから、脱ぐな! と、きつく言っておいた。


「じゃ、軽く作戦タイムに入るんで、少し待ってくれる?」

「なるほど、初手からお預けですか。なかなかに高度な駆け引きをしてくるんですね。これは本当に期待できそうです」

「んーもうそれで良いよ……」


 はい、初手はお預けです。勝手に待ってもらってます。


「で、どうするよ? 無防備な探索者に攻撃するのは気が引けるけど、相手は変態と名高いマチだ。生半可な攻撃じゃ駄目な気がするぞ」

「レベル10の強酸に頭から突っ込んでおいて、瞬時に再生するほどじゃからのう。本当に遠慮なしで良いと思うぞい」

「では、この辺りからはどうだ?」


 オルカが剣先をマチに向け、その照準を彼女の頭部に合わせる。


「あら、お預けからのご褒美の時間でしょうか?」

「ご褒美になり得るかどうかは知らんが、一撃を入れてやる。覚悟しろよ」


 次の瞬間、オルカが剣先より一点突破型強酸性ドラゴンブレスを放つ。かつてゴーレム型の大黒霊を倒した一撃、それも以前よりも数段パワーアップしたものである。霊刻印としてのレベルこそ、あのレベル10の強酸よりも低いが、オルカの技量、そして『竜人・炎』が加わったこの攻撃の威力は、決してそれにも劣らない筈だ。


 ――ガキィィィン!


 ……おかしいな。何かオルカの攻撃が当たった瞬間、金属に当たったような音がしたぞ? いや、今の一点突破型強酸性ドラゴンブレスなら大抵の金属も貫通する筈だから、それはそれでおかしい事なんだけど、実際に変な金属音がした。でもって、一点に集中して放たれたドラゴンブレスが、跳弾するように変な方向に飛んで行ってしまった。天井を突き破り、彼方へと消えてしまう。


「あらあら、前菜にしても味気ないですね?」


 そして、攻撃された筈の当の本人はケロッとしていた。彼女の顔面には傷一つ残っておらず、元の綺麗な白い肌を晒している。


「……ダメージがない訳ではない。ほんの僅かにそんな感触はあった。凄まじい防御力だ。だが、それ以上に回復力が異常だ。あのバケツにある強酸の中に頭をつけている最中も、恐らくは常時再生を繰り返していたんだろう」

「正解。しかも、回復はしても痛みは据え置きなんです。こんなにも素敵な事、他にあるでしょうか? いや、ありません!」


 力強く断言するマチ。まあ個人でどう思うかは自由だけど、これは確かに最強の壁役だわ。キッシーの頑丈さとは次元が違う。


「それで、お望み通り攻撃をした訳だけど、これで満足してくれたか?」

「すると思いますか?」


 と、笑顔で返されてしまう。ですよね!


「なら、次は俺が行くよ」

「なかなか自信がありそうですね。今度こそ期待できるでしょうか?」

「さてな」


 ダリウスソードに『魔法・毒嵐』を纏わせ、剣身に竜巻を発生させる。これぞ、最近の練習でギリ実現させる事ができた俺の新たな奥義だ。魔力が高まったお陰で何とか形になったものだが、実際、規模を剣の周囲に限定させる事で、威力は高まっている。まだ実戦では未使用のものだが、今こそがお披露目に相応しいだろう。


「おおお、いつになく魔力が漲っとるよ、ワシ!」

「その意気だ! でもってここに更なるひと工夫、『飛剣術』で竜巻を交えた斬撃を飛ばす! 堪能しやがれ、アリーシャ師父直伝のこの技をッ!」


 振るわれたダリウスの刃から竜巻を纏った斬撃が放たれ、螺旋を描きながらマチへと向かっていく。そして――


 ――ガァキキキキキィィィン!


 ……おかしいな。また金属音が鳴ったぞ。しかも、竜巻が長く発生している分、連続して甲高く。いやいや、どう考えても生身の人間に当たってる音じゃねぇよ、これ。どっちかってぇと、大黒霊ゴーレムの破壊不可オブジェクトに当たった時の音だよ。


「んー……さっきよりは幾分かマシ、でしたでしょうか?」


 攻撃が終わった後、マチはすまし顔で首を傾げていた。彼女の周辺はズタボロの酷い状態だってのに、さっきと同様にもう完全に回復してしまっている。唯一、彼女の制服にはほつれが見受けられるが……その装備も十分にやばいじゃないか。何だよ、俺の渾身を受けてほつれるだけの制服って? と言うか毒は?

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― 新着の感想 ―
ベクトの装備を複製出来れば万事解決なんだけどな…
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