第205話 キッシー
俺達は薄暗い通路を進む。何もない石造りの一本道ではあるが、黒霊が現れる様子はない。罠がある訳でもない。ただただ前へと進む。結局、通路の出口に行き着くまで、俺達は警戒しながら歩くだけに終わるのだった。いや、何もないのが一番なんだけどね。極端に見つけ難い通路だったから、その分、道中は安全だったのかもしれないな。まあ、問題はここからなのだが。
ガコンと出口の扉、と言うよりもこの通路を隠蔽していた、向こう側の何かを外す。そして、ゆっくりと顔を出して辺りを観察する。……なるほど、ここは間違いなくあの城、恐らくはその中にあるどこかの部屋だな。長年放置されていたのか、埃が積もって家具とかも老朽化している感じだけど、元々持ち合わせていた豪華絢爛さを今でも窺う事ができる。俺が今外したのは床の一部だったらしく、タイルが一枚分、隠し通路の出入り口近くに転がっていた。
「オルカ、手を」
「ああ、すまないな」
先に部屋へと上がり、秘密通路に繋がる穴からオルカを引き上げる。
「埃臭くはあるが、黒檻では珍しい事ではないな。部屋と調度品の質から察するに、ここが城の中なのは間違いないだろう」
「だな。ここは兵士用の待機場所って感じか? 錆びた槍や剣が立て掛けてある。ただ、これは流石に使い物にはならなそうだ。元は良い武器だったろうに、もったいない」
「それも黒檻では珍しくない事だ。しかし、ベクトよ忘れたか? 私には『修繕』の霊刻印があるんだぞ」
「そ、それはつまり……!」
どんなに経年劣化の激しいものでも、元通りに修復が可能。最近はあまり使っていなかったが、オルカのその力はとんでもなく強力なものに違いなかった。
「まあ武器を修復したところで、使い勝手は魔具のようにはいかない。使用できても、サブウェポンくらいの扱いだろうな」
「だなー。狙うとすれば防具な訳だけど、その辺は黒檻の世界が調整してんのか、なかなか見当たらない訳で――って、今回の目当てはそっちじゃなかったな。マチ・イタミの捜索を優先しよう」
他に有用そうなものがない事を確認した俺達は、この部屋を出て外の様子を窺う事にした。扉をそっと開け、周囲の状況を確認する。どうやら外は通路のようだ。城内のそれだけあって、通路と言っても天井が高く、そして道幅も広い。通路の壁の両端には時折騎士鎧が飾られていて、彼らは胸の前で剣を掲げるようなポーズで静止していた。
「あの鎧、めっちゃ怪しいな。近くを通ったらバッサリいかれそうな気がする」
「私もそう思う。まあ、バクさんのように近付いた瞬間に自爆されるよりはマシだが」
「このエリア、堕落歓楽街より少し上くらいの難度らしいからのう。それでも気を抜くでないぞ」
「ダリウスに言われるまでもなく――って、そうだ。もうここって堕落歓楽街じゃないんだもんな」
俺は長らく出番を失っていた屍召喚を使い、通路にホワイト&杖ズミさんを召喚した。
「ヂュッ!」
「ゴオォ」
久方ぶりの登場の為なのか、どちらもやる気に満ち溢れている。
「ホ、ホワイトも杖ズミさんも、よくぞ無事でッ……!」
そして久方ぶりの再会だからなのか、オルカの感動っぷりもひとしおだった。もうハグを決めていらっしゃる。
「この通路は確かに広い方だが、それでもホワイト達を出すのでギリギリだからな。シュラとエンドはもっと広い場所で活躍してもらうとして、後は出せてフリジアン、それにブリさんくらいか?」
「後詰め要因として、今は控えに回ってもらう形で良いと思うぞい」
「それもそうか」
と言う事で、今回はホワイトの嗅覚に頼れる探索だ! 隠れ潜む敵も卑劣な罠もどんと来い! ……いや、やっぱり来ないで! 想定より酷いのが来そうだから!
「ホワイト、この辺りで怪しいものはあるか? 黒霊とか罠とか」
「ゴオオオルルゥ……」
ホワイトが唸り声を上げながら、ある方向を睨みつけた。視線はさっきの飾られた騎士鎧、そのひとつへと向けられている。
「あー、やっぱりですか……しかしアレが黒霊となると、物理的に倒すのは苦労しそうだな。見た目からして鎧だし」
「ならば、私の魔法の出番か? ホワイトと杖ズミさんの前なんだ、私のやる気は天井突破しているぞ」
「そ、そうか、それはありがたい話だよ」
間違って城ごと燃やさないと良いが。
「あ、オルカちょっと待ってくれ。燃やす前に試したい事がある」
「試したい事?」
「この城、前に見た日誌にゾンビの感染で落城したとか、そんな節の話が書いてあったろ? それなら……」
大黒霊戦で強化された召喚・屍LV6で、視線の先に居る騎士鎧の操作を試みる。まっ、これは単なる思い付きだ。本当に上手く行くとは思っていないんだがな。
「ギ、ギチ、ギチチッ……!」
「おいベクト、鎧が動き始めたぞ。鎧の中で変な音を鳴らしながら、こちらへ向かって来ているが……どうした、ベクト? そんなに驚いた顔をして?」
「……使役できたみたいだ」
「「は?」」
俺の呟きにオルカとダリウスが目を点にする。うん、俺だって驚いているよ。試しにこっちに来いと指示を出してみたら、直後に歩き出したんだもの。
「えっと……お手」
「ギチッ……!」
はい、決定打です。騎士鎧がお手をしてくれました。完全に召喚・屍の支配下です。
「堕落歓楽街ではさ、ピンクの靄が邪魔してホワイト達を召喚できなかったし、黒霊は感染を持っていないから、こっちから感染を付与してやる必要があったけど……このエリア、俺らにとってかなり有利なんじゃないか?」
「かも、しれんのう。え、それじゃこの騎士鎧の中身、あのゾンビなんか? その強化型が鎧着てるんか?」
「ベクト、兜の部分を取るよう命令してみたらどうだ?」
「あー、それなら一目瞭然か……騎士鎧さんや、ちょいと兜を取って素顔を見せてくんない?」
「ギチチッ……!」
騎士鎧、自ら兜を取るの巻。そして俺らの感想は「「「あー……」」」だった。
「ゾンビだったなぁ……」
「筋肉の筋がすんごい晒されておったのう……」
「以前見た赤ゾンビの強化版と言うべきか、あまり直視すべき姿ではなかったな……」
とりあえず、ゾンビはゾンビでした。あのギチギチ言っていたのは、死んで固まってしまった筋肉を無理矢理動かしている音っぽい。いや、現実にはそんな音は鳴る筈ないんだけど、何か鳴ってる。
「他の黒霊にも感染があるとは限らないが、それも試していけば分かる事だしな。ホワイト、この調子で黒霊と罠を探してくれ。上手くいけば更に仲間が増えて行くし、倒すにしても無抵抗のまま倒せるぞ」
「うーむ、難度の落差が酷いのう。まっ、それでもマムの居城なのじゃから、全く油断はならんのだが」
「クッ、モフカワには期待できそうにないエリアが続くな……」
「そこは争点じゃないです。ちなみに、この騎士鎧君の名前はどうしようか?」
俺達三人の論争の結果、キッシーに決まりました。よろしくキッシー、まだ能力とかも全然把握してないけど、多分強いぞキッシー凄いぞキッシー。




