第203話 オンリー兜
審判の時が来た。あ、いや、間違えた。サイズチェックの時が来た。俺達は探索者の街に向かい、グレアさんにダリウスの装備製作を依頼する。材料としてアリーシャ鉱石とイレーネ鉱石を提供し、その他不足しているものがあれば採掘してくると前提条件を提示した。だが、他の素材は前回の滂沱シリーズの在庫がまだ残っているから大丈夫と、提供分の鉱石のみを渡す形で取引が成立する。で、肝心のダリウスの測定に入る訳だが。
「いやじゃ、皆の前に姿を晒しとうない!」
「ええい、まだ言ってんのか!」
「ワシピンチ!」
ダリウスは魔具の姿のまま駄々をこねていた。これは長期戦になりそうな流れである。
「オーホッホッホ! ベクトさんの相方は元気が有り余っていますわね! それにしても、魔具の実体化に装備枠の追加ですか。五体目の大黒霊を倒したともなれば、そのような機能が解放されるのですね。勉強になりますわ!」
「しかし、魔具自身がそれを拒否するとは……ダリウスよ、そろそろ覚悟を決める時ではないか? このタイミングでの拒否は選択肢にないぞ?」
「じゃって~~~!」
「じゃってじゃねぇよ! お前、このままだとホントに姿を出す機会を逃すぞ!?」
その後も俺はダリウスの説得を試みた。戦士らしく漢らしく、堂々と表に出ろと。もう裸を隠す用の着替えも用意しているんだぞと。そして、俺達は妥協点を導き出す。
「ハァ、ハァ……話し合いの結果、店の売り物である兜を借りて、それを被る条件で出て来る事になったよ。で、完成したのがこちらです」
「ワシ、穢されちゃった……」
俺が指し示した先には、頭部を全て覆い隠すごつい兜を被った、筋肉ムキムキの巨漢が居た。プルプルと震え、なぜか自らを抱き締めるようなポージングをしている。
「これは……変態ですわね」
「ああ、変態だな」
「やっぱ変態に見える?」
「変態変態言うでないわ、失礼なッ!」
ダリウスが元気になった。
「と言うか相棒、ワシの着替えは!? 今のワシ、兜とフンドシしか身に着けておらんのじゃけど!?」
うん、だからより一層変態チックなんだよね、とは言えないか。
「いや~、それが~……思ったよりもダリウスが巨体かつ筋肉がやべぇ搭載されていて、用意した服じゃ小さ過ぎたんだよ。大きさを自動で調整してくれるタイプでもなくてさ」
「店売りのものを御貸しするにしても、ダリウスさんのサイズはなかなかありませんの。どちらにせよ、オーダーメイドの特注品を仕上げるしかありません事よ。ああ、どういった格好で現れるのかは、予めベクトさんに伺っておりましたので、これをセクハラで訴えるつもりはありませんわ」
「良かったな、ダリウス。少なくとも、まだ社会的には死んでいないぞ」
「全然良くないわい! てかワシ、それまでこのまんま!?」
「サイズさえ確認できれば、以降は魔具の状態に戻って大丈夫だよ。しっかし、マジで凄い肉体美だな。一人称がワシだから、もっと歳を食っているのかと思ったよ」
改めて確認してみたが、ダリウスは強靭な肉体を持っている。背丈は俺が見上げるほどだし、戦う為の要素が全て詰め込められているって言うか、男の俺でも見惚れてしまうほどだ。だからこそ、兜オンリーの残念な格好をしているのがもったいない。これではただの変態ではないか。
「あー、ワシも自分の事はよう分からんけど、歳は結構いっとると思うよ? 顔はマジで爺さんじゃし」
「……爺さんでその体はないんじゃないか? ちょっと顔を見せてみ?」
「無理! 嫌じゃ!」
ダリウスは本気で顔を見せるのが嫌な様子だ。まあ、測定さえできれば良いけどさぁ。
「はい、これでサイズチェックは完璧ですわ! お疲れ様でしたの!」
「相分かった、それじゃ!」
そして測定が終わった瞬間、ダリウスは魔具へと戻ってしまった。借り物の兜のみが、カランと床に残される。あ、フンドシもふぁさっと落ちた。
「はっや、そんなに嫌なのかよ……」
「まあまあ、感性は人それぞれですの。それよりもベクトさん、少しご相談なのですが……ダリウスさんの巨体に合わせて装備を作るとなると、想定よりも材料を多く使ってしまいそうですわ。こちらで用意する鉱石は問題ないのですが、いただいたアリーシャ鉱石とイレーネ鉱石には限りがありますし、今回は装備一つだけを作る、と言う流れで良いでしょうか?」
「あー、確かにダリウスのサイズだと、俺の全身分の材料くらいになりそうですもんね。はい、それで構いません。他の部位の装備については、また後日と言う事で」
グレアさんに作ってもらうのなら、今作れる最上のものを作ってほしいし、下手に素材を分散させるよりも、一カ所に集中した方が良いだろう。
「ふむ……それでグレア、今回は何の装備を作るのだ?」
「鎧にしようかと。最もステータスの恩恵を得られる部分ですし、この兜に似合うようなデザインにしようと思いますわ!」
「ほう。となると、次にダリウスと対面する時は、兜と鎧、そしてフンドシ姿になる訳か」
オルカの言葉を受けて想像してしまう。その姿になったダリウスを。
「……まだ変態だな」
「どうしても変態ですわね」
「言っておいて何だが、変態だな」
「ズボンの一つでも用意してくれたら、大分違うと思うのじゃが!?」
そこはまあ、次回は善処すると言う事で。
「話は変わりますけど……今回の大黒霊討伐も、グレアさんからの支給品が大活躍でした。特に黄色玉、あの電撃で敵を一網打尽にする事ができましたよ」
「ああ、どういう訳か効果抜群でな。あの系統の攻撃は私達が持たないものだ。本当に助かった」
「あらあら、そうでしたの? 日々改良を施し、より強力なアイテムに仕上げた甲斐があったと言うものです! オーホッホッホッホ!」
頬を染めたのを誤魔化すように、盛大な高笑いをしてみせるグレアさん。この人ホント可愛いなって、あ、違うんですよオルカさん。惚れたとかじゃなくて、グレアさんの人となりを再確認したって言うか誤解です誤解です。
「日に日にオルカの独占欲も強くなっておるのう。それが最近のオルカの強さに繋がっているんじゃろうか?」
「ああ、私はベクトの為に全てを捧げると――いや、モフカワが5、ベクトが5の割合で捧げると決めているからな」
「おお、モフカワと対等になったか! 良かったのう、相棒! 今ならイーブンじゃて!」
「何だかよく分かりませんが、ベクトさんも苦労なさっているのですね。困った事があれば、いつでも耳飾りを通して相談してくださいまし! 私、胸の高鳴りと共に待っていますわ!」
おお、それはまるで想い人から連絡を携帯の前で待つ恋人のようでって、ええ、違うんですよオルカさん。違うんです、違うんです……




