第202話 モルモの成果
「えっ、モルモが何かを掘り出した?」
休日を謳歌する最中、ゼラからそんな報告を受ける。つうか、全宇宙飲酒の旅をマジで狙っているのか、遂に自主的に報告までするようになったのか……ちょっと感動。そして、採掘よりもそっちの方で驚いてしまった。いや、だってこれまでの行動原理から離れすぎているし、ずっと酒飲んでばっかだったし。
「ベクト、何か?」
「い、いえ、何も……それで、モルモは何を掘り出したんだ? 何気に記念すべき初の掘り出し物だけど」
「それは直接見ていただいた方が良いでしょう。こちらです」
覚醒したゼラに導かれ、俺はモルモ地下採掘所、その入り口の一つへと向かった。
「わぉん!」
地面より盛り上がった坑道への入り口、正にそんな見た目をした大穴の前に、土竜の青霊であるモルモが待ってくれていた。
「にゃんにゃああんにゃあああ~~~ん……!」
で、そんなモルモの足下には、酩酊状態(?)のキンちゃんが転がっている状態で。
「うん、どういう状況かな、これは!?」
「モルモの成果です」
「キンちゃんが!?」
「わふふん」
俺のツッコミも空しく、キンちゃんは今もにゃんにゃんと地面を転がり回っているし、モルモはどこか誇らし気である。マジすか、マジでこれが成果なんすか。
「ベクトが黒の空間へ探索をしに行っている間、私は貴方を支える案内人として、新たなる住人のモルモ、その仕事振りを観察していました。まあ時折、酒を引っ掛けながらですが」
「ああ、逆に酒を引っ掛けてくれていて良かったよ。頗る安心した」
真面目に働いてばかりだったら、それはゼラであってゼラでないもんな。
「そこで気付いたのです。現在発現している地下採掘所の入り口が、この白の空間に居る住人の数と一致している事を。つまり――」
「――つまり、入り口の一つ一つは各住人に対応していて、その者に纏わるものが出土するようになっている、って事か?」
「……キッ!」
「えと、自分で最後まで説明したかった感じか? す、すまん……」
そんな睨みつけるなって。にしても、自分の口からキッて。
「わんわんわん!」
ゼラを宥めていると、モルモが何かを持って来た。これを掘り出したって、成果を見せてくれるのか? どれどれ?
「これは……何かの枝に葉、それに乾燥した実かな? これが土の中から出て来た事実は今更として、一体何の――ハッ!」
その時、俺は閃きを得てキンちゃんの方へと振り返る。あのにゃんにゃんと酩酊している様子、今回モルモが掘り出した植物由来の代物、全ての謎が点から線へと繋がって行く!
「いやさ、もしかしなくてもマタタビか、これ?」
「それ以外の何があります?」
ゼラは容赦なく肯定してくれた。そっかー、マタタビかー、マタタビが出土しちゃったかー。
「って事は、この坑道はキンちゃん由来の場所だった訳だ。もっと鉱石的なものが出るのかと思ったが、まさかのマタタビとはな。……キンちゃん、大丈夫そうか?」
「まあ、適量を与えている限り害はないかと。酔いの専門家であるこの私が、しっかり管理しますのでご安心を」
「お、おう、不思議とすげぇ専門家に見えるよ……」
ちなみに、今回マタタビの枝に葉、そして乾燥した実を採掘した事で、キンちゃんに預けられる霊刻印倉庫の枠が、献上品三つ分増えたんだそうだ。……三つ分!?
「キンちゃん、もしやもう枝に葉、最後に実と全部を楽しんじゃった感じか?」
「ええ、存分に」
「キンちゃんさぁ……!」
何か今日一日は正気に戻らない気がするぞ。しっかし、キンちゃんの倉庫が一気に拡張されたな。モルモの能力、結構ガチャ要素強めだけど、ハマればかなり効果的なんじゃ?
「今回はキングの坑道を中心に掘り進めたようで、連続でキング好みのアイテムを入手したようですね」
「うぉんうぉんうぉん!」
頑張りました、キンちゃん大好き! と言うモルモの気持ちが伝わって来るようだ。
「掘る場所はモルモの好感度の高い場所が優先されるようです。これは本能的にそうなっているようで、分かっていても止められないんだとか」
「そ、そうか。つまるところ、今後もキンちゃんの坑道は中心的な仕事場になる訳だ」
「そうなります。今回オルカの坑道は一切手を付けられなかったので、この事実をついさっき知った彼女は、その場で倒れてしまいました。今は自室で安静にしているところです」
「オ、オルカああああああ!?」
俺の知らないところで、オルカが精神的に死んでしまった! ……全然気付けなかった辺り、無言でぶっ倒れたんだろうな。何か想像できちゃう。
「あ、後でお見舞いに行って来るよ……ええと、オルカの採掘所は、って事は他にも出て来たものがあるのか?」
「はい、アリーシャとイレーネの採掘所から。距離感を見極め適切な接し方を始めたアリーシャは最近モルモと仲が良いですし、イレーネはたまに生野菜の差し入れをしていますからね。それで好かれたのかと」
「あ~……」
そんな光景もありありと想像できちゃうなぁ。オルカ、やっぱり距離感は大事だよ。
「それで、そっちでは何が採掘されたんだ?」
「アリーシャ鉱石とイレーネ鉱石です」
「……ごめん、何て?」
「アリーシャ鉱石とイレーネ鉱石です」
ゼラがハッキリとした口調でリピートしてくれた。だが、俺はそれでも理解が追いつかなかった。
「……ええと、確かに鉱石が出るとは思っていたけどさ、何でアリーシャ達の名前が付いてんの?」
「これもそういった黒檻の仕様のようです。名前は兎も角として、見た目は普通の鉄鉱石とそう変わりませんよ。ただ、もの作りに対し覚えのある者が見れば、その秘めたる力に驚くと思いますけどね」
「へえ、何か特殊な力があるんだな?」
「はい、この鉱石で何かしらの装備を作れば、対応する者の特性が付与される可能性が高いです。アリーシャであれば技術の熟練、イレーネであれば回復などの効果が追加されるかと。まあ、その辺りは作り手の腕にもよりますが」
なるほど、つまりは名前が記載された者の得意とする力が、装備の新たな能力として付与される訳か。装備枠の増えたダリウスの装備をどうしたものかと、ちょうど考えていたところだ。グレアさんにこの二つの鉱石を渡し、新たに作ってもらうのも良いかもしれないな。
「モルモの掘り出し物については、そんなところですね。注意していただきたいのですが、恐らく普段の探索中はそこまでの数は出ないと思います。システムを確認したところ、モルモが採掘できる数は、ベクトがその探索中に倒した黒霊の質と数に対応しているようでしたので」
「お、おう、またえらくシステム的だな……」
ゼラの奴、段々と平気な顔して黒檻の仕様をバラすようになったな。こちらとしてはありがたいし、己の欲望の為でもあるんだろうが。
「五体目の大黒霊の討伐、それが一挙に五つと言う採掘記録を叩き出したんだと思います。まあ逆に言えば、六体目と七体目と八体目、これら大黒霊を倒した際にもフィーバーが起こる訳です」
「そのフィーバーを狙うにも、大分命懸けな訳だが……仮にだけど、俺が異常進化種を倒したらどうなるんだ?」
興味本位の俺の問いに、ゼラは少し頭を悩ませているようだった。そして、懐から取り出したスキットルを一口。
「……それはもう、大フィーバーが起きるでしょうね。前代未聞レベルの」




