第198話 金色の亡者
突如として動き出した金ピカ骸骨、奴は黒焦げとなった肉塊を操作し、また何かをしでかそうとしていた。
「我が財貨、集まり交わり力となれッ!」
地上に転がっていた肉塊が骸骨に引き寄せられ、金ピカな輝きを覆い隠すようにして付着。その間も俺達は攻撃を続けていたが、どうもダメージを与えている感じがしない。感覚的には破壊不可オブジェクトに攻撃している感覚と似ている。
「あー……これ、変身が終わるまでダメージを食らわない仕様か? それとも、弱点部位が他に隠れてる?」
「一応周囲を確認してみたが、他に変化らしい変化はない。恐らくは前者だと思うが」
「まあ、違ったら違ったでその時に対応しよう。ここまで無傷で来る事ができたんだ。こっから巣の外に退避する事になっても、あの形態の情報を得られるだけで上等ってもんだ」
事前にマムやクレちゃんと言う圧倒的格上達と対面、部分的に衝突した経験があるお陰で、ある程度の理不尽は受け入れられる心構えが出来上がっている。新石橋さんのドラム音もまだまだ許容しちゃうよ、今の俺は。
と、そんな会話をしているうちに金ピカの変化は終わろうとしていた。纏った肉を自らの皮膚とし、その手にはこれまた肉で形成された剣と盾がある。それでも一般的な人のサイズを保っている辺り、悪魔もどきと比べれば脅威的な変化とは言えない。まっ、そのサイズに力を一本化したとも考えられるが。
「今こそ我が力を示す時! 下等な侵入者よ、ここに平伏せよ――ッ!?」
決まりの良い口上を述べている途中のようだったが、変化が終わったと判断して、オルカに『魔法・氷刻』を発動してもらう。肉の剣を俺らに向け、自身も見上げる姿勢をしていたからか、こっそりと足下に忍び寄っていた氷には気付かなかったようだ。魔法が不得手な俺とは違い、オルカが『魔法・氷刻』を使えば3秒前後は対象を止める事ができるからな。この隙に接近させてもらおう。
「ダメージ確認、血によるカウンターはなし」
氷と接触しているのは足裏のみで、他の部分は問題なく露出している。オルカの刃は問題なく奴へと通った。
「どうやらさっきの爆発で、血抜きは済んだみたいだな。オルカも魔具を短剣にしたらどうだ? もっと速く振るえるぞ」
「いや、スピード重視で攻撃するのであれば、私は細剣の方が好みなんだ。僅かな動作で刺突できるからな」
不用心にも剣を掲げ、盾も構えていない状態。今の奴はこれ以上ないほどに無防備だ。まあ動く事自体ができないのだから、どんな姿勢でも無防備に違いないんだけどな。って事で、ラッシュ開始。俺はダリウスナイフで斬り刻み、オルカは細剣で突きまくる。
「不敬、不敬だ! 不敬極ま――」
「すまない、タイミングの調整が少し甘かった」
「オーケー、今ので正確な秒数が分かった。次から完璧を狙って行こう」
一度の停止でキッチリ3秒、魔法の使用回数をかければ27秒のフリーアタックタイムができる訳だ。近距離での直接攻撃ならより連続で攻撃が可能、オルカと二人で猛攻を仕掛ければ実質54秒分の猛攻を仕掛けた事になる。そして、俺のステータスは物理攻撃の源となる威力の方が魔力より高い、具体的には倍くらい高い。つまり、つまりだ――
「――このラッシュは更に倍となる108の効果があるっ事だあああああああ! 煩悩の数と共に沈めえええええええ!」
「オルカ、相棒は何を言っておるのじゃ?」
「士気が高まり超理論を展開させてしまったんだ。フッ、ベクトにもこんな可愛らしいところがあるとはな。また惚れ直してしまいそうだ」
「あ、この流れでも甘い雰囲気を垂れ流すのかぁ。ワシもまだまだ甘かったのう……」
甘いかどうかよりも、今はラッシュをかける方が重要なり。俺達はこの時間を最大限有効活用する為、攻撃に集中するのであった。……集中、しているよな? と、ともあれ、その結果。
「――る、ぞ……?」
108の猛ラッシュに耐えかねたのか、時間停止が解かれた瞬間、金ピカの崩壊が始まった。纏った肉がドロドロと溶け出し、手に持っていた剣と盾もその役割を一度も果たす事なく、共に床のシミとなっていったのだ。肉の内部にあった骸骨自身にもヒビが入り、そこから全身に亀裂が走って行く。
しかし『魔法・氷刻』ってのは、使い方がハマればここまで一方的な展開になるもんなんだな。使い手が俺でなくオルカだったのもでかい。俺の場合は停止時間が1秒が9秒に、そこから倍付けで18、物理で更に倍付けしても36にしかならなかったからな。この超理論を展開したとしても、これで倒し切れたとはとても思えない。うーん、こればっかりは経験がものを言うっつか、アリーシャ師父から教えを乞う訳にもいかないし――なんて事を思考の端っこで考えつつも、攻撃攻撃! もう金ピカは全身がズタボロ、亀裂が深々な状態なんだが……まだ倒された事にならないのか、これ?
「ゆ、許す、まじ……!」
声も絶え絶えな金ピカが何かを口にした。そしてその瞬間、金ピカのボロボロな骨は膨張を始め――あ、これって。
「た、退避いいいいいいッ!」
俺が想起したのはバクさんの散り様、つまりは自爆行為。新石橋さんのドラム音が今日一の躍動感を叩き出す中、オルカを魔具に変化させて手元に戻し、全力で後退を開始。巣を囲う鉄格子にまで何とか辿り着いたが……駄目だ。ドラム音に変化がないところから察するに、ここじゃ爆風から逃れられない……! 天井近くも恐らく同様、この鉄格子内が丸っと爆発の範囲に収まっていやがる!
『相棒、鉄格子の外じゃ! 外に出るんじゃ!』
ダリウスの叫びが俺の中で響き渡る。だが、それだと巣の外に出てしまうんじゃ――いや、バトル開始直後、青霊もどき達がここを通って内部に侵入して来たっけ。それなら、ひょっとして……? 思考を巡らせる中、それでも俺は動けていた。鉄格子の隙間に体を捻じ込み、そこから外へと飛び出したのだ。
「死なば、諸共――」
最期の呪言が解き放たれたその瞬間、限界まで膨張した金ピカから眩い光が発せられ、俺の背にとんでもない衝撃と熱を叩きつけた。少し遅れてやって来るのは、イレーネのマッサージ級の激痛、勘さんがもう駄目だと絶望する光景、どれも酷い事象ばかりだ。だが、この衝撃だけはありがたい。ダメージと共に俺を吹き飛ばし、爆心地から遠ざけてくれるからな……!
「ダリウス! 着地と同時に回復の用意をッ!」
「おうさ!」
背に受けた衝撃波をブースター代わりに、『空蹴』で限界まで宙を蹴る、両脚が千切れるまで蹴る、千切れても蹴る、蹴り続ける。そうして俺は豪華絢爛な大広間の端、その壁へと盛大に激突するのであった。
「ぐううぅぅぅぅ~~~、あ、頭から……! これじゃ着地っつうより、正面衝突じゃないか……!」
「判断は早かったんじゃがのう。ほれ、霊薬を使いまくるぞい。ああ、それとオルカはまだ出るな。今出ても、相棒と同じ脚なしの状態になってしまうからの」
「ああ、そうさせてもらう。魔具の状態なら痛みもないしな。……ベクト、大丈夫か?」
「生きているって意味なら、ギリギリ大丈夫。けど、ダリウスの言う通り脚がなぁ」
俺の両脚は爆風に飲み込まれ、膝下から綺麗に吹き飛ばされていた。自爆機能を考えていなかった代償、ってところだろうか。痛み? うん、一周回って麻痺して来たかも。
「霊薬じゃ欠損は治らないんだよな? 傷口が塞がっても移動で苦闘しそうだな、これは……」
「ああ、それならグレアから支給された薬を使うと良い。欠損程度であれば、その場で生えて来るぞ」
「は、生えて来るの!?」
「何それ怖ぁ……」
グレアさん印のアイテムは凄まじかった。




