第197話 爆散
悪魔もどきとの空中での戦い、これを上手く利用して常に俺が上のポジションを取れるように立ち回れば、真下から連射されている強酸レーザーは悪魔もどきに当たるようになる。言わば盾や遮蔽物としての活躍が期待できる訳だ。ハーフサイズかつ上半身だけになろうとも、悪魔もどきは巨体に違いないからな。サイズ的には十分である。これでダメージも狙う事ができれば――
「「「オゴオオン! オゴゴオオン!」」」
――いや、そういや駄目だったな。悪魔もどきは『強酸』に耐性があるから、そこまでは期待できなかったわ。それでも盾役を買って出てくれた悪魔もどきには感謝しかない。一先ず、こっちは何とかなったが……問題はオルカの方か。チラッと見た感じ、ハピさんの集団のど真ん中に居て、かなり激しい戦いをしているようだ。あの最中に人魚もどきからの攻撃を向けられたら不味そうだな。
『オルカ、真下からの攻撃に注意してくれ。人魚もどき自体は上に来られないが、強酸を結構なスピードで飛ばして来るぞ』
『ほう、それは厄介だな』
『危なそうなら、オルカと入れ替わりでバクさんをそっちのど真ん中に召喚して、即自爆させるなんて手もあるけど……なんか思ったよりも余裕そう?』
『決して余裕ではないさ、ギリギリもギリギリだ。今もこうして何とか凌いでいる』
そう言って、器用に剣先から放出されるブレスの火力を調整し、空中での切った張ったを繰り広げるオルカ。足場が沢山居る為なのか、言葉とは裏腹に特に不自由をしている様子はない。いやあ、ブレス攻撃だけであんな立体的な動きができる自信は、流石に俺にはないな。何で攻撃系の霊刻印でそんな事できんの? あ、ちなみにオルカの『感染』についてだが、検証時の悪魔もどきに全く効果がなかった為、今回は霊刻印の構成から外している。これについては、ちょっとミスったかもな。あの巨体には効き目が薄かったが、今の通常サイズなハピさんや人魚もどきには通じていたかもしれん。まっ、この経験は出直した時に活かすとしよう。
しっかし、俺はオルカと二人で一組と言う若干反則目な裏技を使っている訳だが、本当なら悪魔もどきと人魚とハピさんの群れ、それら全てを単独で相手しなくちゃならなかったんだよな。五体目の大黒霊とは言え、本当に無茶を強いるようになったものだ。『堕落歓楽街』で限界まで成長していなかったら、今の時点で無理ゲーである。
「よっと」
悪魔もどきとの接近戦をこなしつつ、床の血に着水するよう黄色玉を放り投げる。これは何かって? 爆発する赤爆弾と同じ、グレアさん印の支給品だよ。ほら、三つ首との戦いでも使ったやつ。その特性は――
「でか、でかいのが、邪魔、じゃじゃじゃじゃまままで……」
「うばばば、ばばばばばっ……」
――トリモチのように着弾地点に張り付き、周囲に強力な電撃を発する! と言うものだったんだが……何か、予想以上に効果があるみたいだな? 俺としては人魚もどき達が水、てか血の中を泳いでいるから、濡れていて電気が効くんじゃないかと単純に思っただけなんだが。もしかして、『強酸』の特性がそうさせているのか? って事は、全身にそんな血を巡らせている悪魔もどきとかにも、黄色玉が有効だったり? であればゴーレム戦に引き続き、このアイテムがすげぇ活躍する事になるが……まあ、ものは試しと言う事で。
「ふんぬっ!」
「「「オオ、オ、オゴゴゴゴゴゴ……」」」
黄色玉を二つほど付着させたところで、悪魔もどきが迸る電撃と共に硬直化。翼までもが動かなくなり、そのまま落下を開始――って、マジで効果覿面じゃねぇか、これ!
『オルカ、こいつらの弱点は電気だ! グレアさんから貰った黄色玉を使え!』
『ほう、それは本当か? ありがたい、そろそろギリギリもギリギリのギリギリなラインを攻めるところだった』
『そこは素直に助けを求めて!?』
その後、思ったよりもギリギリを攻めていたオルカと共に黄色玉を使い、ハピさんの集団も地上へと落とす事に成功。そして使った黄色玉の分だけ、床に溜まった黄色い血へ流れる電気量が増え、更に悪魔もどき達は感電していく。
「絶好の止め日和だな。だが、これからどうする? ベクトから私に付け替えてもらった『魔法・氷刻』で、更に動きを封じるか?」
「いや、それは万が一に備えて残しておきたい。それよりも、今こそがバクさんの使い時じゃないか?」
バクさんとは『人爆弾の街娼』の事で、ここ最近の探索中にたまたま使役する事ができた黒霊だ。通常、この種は攻撃した瞬間に周囲を巻き込んで爆散してしまうのだが、予め『魔法・停滞』の試し撃ちをしていた個体がバクさんだったのだ。その隙に『感染』が通った、までは良かったんだが……バクさんは未だに爆発直前の状態にあるようで、召喚した瞬間に自爆をかましてしまうのである。前にお試しで召喚した時は危うく巻き添えを食らうところで、マジで焦ったものだ。
「ふむ、確かに。『感染』のさせ方も判明した事だし、地上に密集した今が絶好の機会かもしれないな。爆風もここまでは届かないだろう」
「一網打尽と言うやつじゃな。それにこれで倒せんでも、バクさんの爆風には『感染』が付与されておる可能性が高い。少なくとも、人魚やらハピさんやらは始末できると思うぞい」
「オーケー、そうと決まれば黄色玉の効果が終わる前にやっちゃるか。バクさん、すまん!」
敵全員が転がる強酸溜まりにバクさんを召喚、そしてその直後、彼女は周囲の全てを巻き込んでの大爆発を引き起こした。
「クッ、天井近くに居るってのに、相変わらず凄い衝撃波だな……! これを間近で受けて無事だったクレちゃんは一体何なの?」
「私達からすれば、大黒霊と同じ化物の部類だな。全く底が見えん」
「既に大黒霊を六体倒しておるんじゃっけ? 五体目の大黒霊でこれじゃからのう、その上を倒した更に上の存在ともなれば、まだまだ力量を測れる領域は遠いじゃろ。それよりも、敵はどうなったかの?」
「どれどれ……」
爆発の影響が収まり、爆心地の状況が明らかになって行く。そこに転がっているのは焼け焦げた肉塊ばかり、爆風で吹き飛ばされてしまったのか、溜まっていた黄色い血は綺麗になくなっていた。
「肉塊の大きさからして、アレが悪魔もどき、それ以外がその他大勢のものなんだろうが……これは決着か?」
「待て、まだだ。敵が魔具に吸収されていない」
下に降りようとする俺をオルカが止める。
「ああ、悪い。なら戦闘続行か。近付かず、こっからの遠距離攻撃で――ん?」
気のせいだろうか、悪魔もどきの推定黒焦げ肉塊が動いた気がした。
「いや、全ッ然気のせいじゃないな! 気ぃ付けろ、あのでかい肉塊から何か出て来るぞ!」
悪魔もどきの肉塊から這い出た者、それは奴の額に埋もれていた筈の金ピカ骸骨であった。こいつが独りでに動き出した事にまず驚き、次いで俺達は斬撃とブレスの雨を降らすに至る。最早第何形態なのかも定かじゃないが、このタイミングで動き出したって事は敵に違いない。驚きながらも頭は冷静、お陰で即座に判断を下せたよ。後は攻撃するしか道はないので、先手必勝をかますにかます。這い出ている最中だろうと関係ないのである。
「……渡さん、この金は全て私のものだ。許せぬ、ここの女は全て私の所有物だ。分を弁えぬ賊に天罰を、身の程知らずには死、あるのみ……!」
あ、青霊もどきと一緒でお喋りなされるタイプ?




