第195話 原点回帰
巣への侵入と共に集中する青霊もどきの熱視線。その矛先は金ピカ骸骨、よほど彼が魅力的なのだろう。彼女らは直ぐ様にスタートダッシュを決め、この鉄格子の内部へと入らんとしていた。その間、俺とオルカは出入り口付近から斬撃を飛ばしに飛ばし、内部への侵入を妨害――するのだが、数の暴力によって欠片ほどしか効果を成さなかった。まともに飛ぶ斬撃を食らわせたところで、青霊もどきの弱点部位に当たるとは限らないからな。これは仕方のない事である。まあそれでも、この段階で数体ほどは何とか倒せはしたが。
「私が食べる、私が食べるの……」
「いいえ、彼は私のもの、私の胃に収まるのよ……」
「ああ、愛おしいほどに口にしたい……」
そうこうしているうちに、青霊もどきの大群、その先頭を走っていた者達が巣の中へと侵入し始める。こうなってしまうと、後は雪崩の如く湧いて出るのみだ。俺達は俺達で天井ギリギリの高さまで移動し、戦場全体を見渡せるようにしておく。でもって、ここからが間引きの本番だ。
「オルカ!」
「ああっ!」
このタイミングでオルカが『魔法・炎樹』を使い、金ピカ骸骨を覆い隠すようにして樹を幾重にも束ねる。骸骨からすれば灼熱の牢獄となる訳だが、狙いは外から迫る食欲旺盛な者達だ。奴らは金ピカを狙っている間、俺達に何をされようとも興味を示さない。そしてそれは、進路上に障害物があっても同様なのだ。まあつまるところ、目の前に燃え盛る樹木の壁があったとしても、青霊もどき達は構わず突貫を続けるのである。
「おっし、良い感じ!」
俺よりも数段優れた魔法の使い手であるオルカ。そんな彼女が作り出す炎の樹木は、俺の氷壁とは違い、ちょっとやそっとじゃ破壊される事はない。そして炎は敵の波、その前から後ろへと順々に伝播して行く為、密集した敵には頗る有効だ。相手が数の暴力を振るえば振るうほど、その効果は増して行く!
「相棒、感心している場合ではないぞ!」
「分かっとるよ!」
そんな密集した敵集団に対し、俺は上空より飛ぶ斬撃を兎に角飛ばしまくる。数撃ちゃ当たるどころか撃った数だけ当たるこの状況、手を休めている暇なんてものはアリはしないのだ。燃えている分、硬い相手も脆くなっているから、いつもより倒しやすいしな。
「とは言え、流石に耐久性にも限度はあるのだがな。ベクト、そろそろ壊れるぞ!」
「合点、タイミングを教えてくれ!」
「……今ッ!」
オルカが合図を出したその瞬間、金ピカを囲っていた『魔法・炎樹』が粉砕。が、それ同時に俺はその中心部、言ってしまえば金ピカを起点にある魔法を発動させた。
「食らえ、杖ズミさん直伝のおおおおッ!」
俺がこの瞬間に使ったのは『魔法・毒嵐』、辺りに毒の竜巻を巻き起こす超攻撃的な魔法だ。とは言え、本家の杖ズミさんや達人であるオルカに劣る俺では、その神髄を僅かにしか引き出す事ができない。特に威力はお粗末なもので、ダイレクトに食らわせたとしても、威力だけで青霊もどき達を倒すには至らないだろう。が、そんな俺でも研鑽を重ねる事で、発動場所はピンポイントで狙えるようになった。そして何よりも、爆風で諸々を吹き飛ばすくらいの事はできる!
「ああ、美食が遠のく……」
「もう少し、ほんの少しだったのに……」
金ピカを中心に竜巻を起こしたお陰で、そこに集結しようとしていた青霊もどき達を纏めて吹き飛ばす事に成功。青い嵐の中にポッカリと穴が開き、まともに巻き込まれた奴らは宙を舞う事となった。天井近くに陣取っている俺達だけは被害を受けず、新石橋さんがドラムを叩く事もない。そして忘れてはならないのが、『魔法・毒嵐』はその名の通り毒を与える魔法であると言う事。直撃で倒すに至らなくとも、この毒と延焼のスリップダメージで根こそぎ耐久値を減らすって寸法よ。更に、だ。
「そら、おかわりだ」
一帯を吹き飛ばしたこの隙に、オルカが追加の『魔法・炎樹』を再度発動。炎の牢獄が再建され、状況は前の段階に巻き戻るのであった。しかし、それでも青霊もどき達の行動が変わる事はない。ああ、そりゃそうだろう。お前らは悪魔もどきになるその時まで、金ピカを食べる事しか頭にないんだからな!
「これが今バトルの為に俺達が考案した無限灼熱竜巻地獄(回数制限アリ)だ! レベル4の魔法は9回まで使う事ができるからなぁッ! あとその回数分は繰り返させてもらうぞッ!」
「うーむ、ザ・卑怯じゃな」
「弱者の知恵と言ってほしい!」
「ベクト、そろそろ次の炎樹が破壊されるぞ」
「おう!」
先のようにタイミングを合わせ、『魔法・毒嵐』を発動。青霊もどき達はぶっ飛び再現を性懲りもなく繰り返すのであった。そして、宣言通りこの作業を9回繰り返す事で――よし、過去一の削りに成功! これもう、最初の半分くらいしか残っていないんじゃないか!?
「彼は私の、彼女も私の……」
「さあ、私の中へ、中へ……」
「美味しい、美味しい、ご褒美の味がする……」
序盤の快進撃はここまでだ。魔法のストックが尽きた以上、残る手札での殲滅を図るが、オルカのブレスと俺の飛ぶ斬撃では精々が数体を屠れる程度で、押し寄せる青霊もどきの残党を処理するには火力が足りない。牢獄によって守られていた金ピカ骸骨も、あっという間に噛みつかれ、バキバキと肉の波に埋もれて行き――戦闘開始から結構な時が経過した今となって、悪魔もどきが遂に誕生するのであった。
「「「オゴオオオオオッ!」」」
素材となった青霊もどきの数が半分ほどに減ったせいなのか、叫びに重なる女の声も数が少なくなっている気がする。そして何よりも、そのサイズの違いが顕著に表れていた。巨体は巨体なんだが、最大サイズを予め目にしている身からすると、随分と可愛くなったものだ。がっ、可愛いから手加減すると言う理由にはならない。奴が呑気に叫びを上げている今こそがチャンス! と言う事で、俺達は天井からの攻撃を継続&シャンデリアを容赦なく落としてやるのですよ!
「「「オゴ、ゴオオ……!?」」」
ハーフレベルなサイズダウンを果たしたお陰で、シャンデリアスパイク攻撃の効果もより衝撃的なものとなった。具体的にはスパイクが頭部だけでなく奴の上半身部分にも、更により深々と突き刺さり、与えるダメージを加速させて行ったのだ。また頭を覆い隠すようにシャンデリアが落ちてくれたお陰で、悪魔もどきの視界は完全に塞がれた。深~く突き刺さった素敵な帽子が取れるまで、短くない時間を要するだろう。
「出血量も半分になってんな! これなら許容範囲、つまりはチャンスタイムだ!」
「放出されても、ちょっとした血だまりを作るくらいだからな。よし、このまま一気に決める!」
俺達はここぞとばかりに追加攻撃を叩き込む。本番前の事前調査で分かった事なのだが、奴には強力な『再生』能力が備わっており、次々にダメージを与えていかないと、即座に耐久値を回復させてしまう。故に俺達に休んでいる暇はなく、やれる時にやらなければならないのだ。尤も、奴の素材となった青霊もどきらの中には、猛毒と延焼を抱えたままの奴らも居ただろう。それら状態異常を悪魔もどきも引き継いでいれば、良い感じにトントンになっているかもしれないが……見た目じゃ全然判断が付かないからな、やっぱり猛攻を止める訳にはいかないのである。
「ハァ、ハァ……! 何かもう、体力との勝負になって来たな、これぇ!」
「斬撃を飛ばす為に、ずっとワシをブンブン振っとるからのう。あ、ワシってばナイフサイズになる? そっちの方が振りやすくない?」
「そ、その手があったか!」
こうしてダリウスソードはダリウスナイフに原点回帰するのであった。




