第194話 黄金の検証
悪魔もどきの頭部に衝突する巨大シャンデリア。その真下には鋭利なスパイクが備え付けられており、ただの質量任せの攻撃ではなくなっている。悪魔もどきの防御力は余裕で突破できたようで、奴の頭からは血が噴き出し――ん?
「「「「「オゴゴゴゴォ……」」」」」
いや、違う! 血が噴き出しているのは頭だけじゃない! 悪魔もどきに刻まれた全身の繋ぎ目、そこからも黄色い血が一気に溢れ出していやがる!
「オルカ、ここまでだ!」
「ああ、退避するぞ!」
掴まっていた鉄格子を蹴り、全力で後退を開始。そうしている間にも悪魔もどきの血は溢れに溢れ、まるで津波のようにして巣全体に押し寄せていた。青霊もどきもそうだったが、あの黄色の血には『強酸』が備わっている。それ専用の耐性を持って来てはいるが、向こうの霊刻印レベルの方が高い場合、思わぬ痛手を被る可能性が大いにある。見に回ると決めていた当初の予定通り、ここらが引き際だろう。
「ふう、血の波は巣の外まで出ない仕様か。地味に助かったな」
最悪、鉄格子の道を宙で左右に蹴りながら離脱する必要があるかもと思ったんだが、それはそれで行き来の労力が掛かるので本当に助かる。ともあれ、巣の境界線からそれなりに離れた位置に着地し、改めて悪魔もどきの方を確認。
「肉体がバラバラに崩れて、金ピカ骸骨がまたソファのところに……入る度にあの演出を毎回やる感じかね」
「金の調度品も元通りになっているな。青霊もどきや悪魔もどきに滅茶苦茶にされたテーブルはその上の諸々まで復元、落としたシャンデリアも天井に吊らされている」
「ついでに、牢の外におる青霊もどきも元の位置に戻っておるようじゃぞ。頭数も……ふむ、正確には分からんが、同じように見える」
「巣を出入りする度、この鉄格子の外側もリセットされるって訳か。予め外の青霊もどきを倒してから巣に入っても、その段階でリセットが入るんだろうな。いや、この遮蔽物が何もない場所で攻撃する時点で、あまり現実的な話ではないんだが」
「じゃが、試しにやってみるのはアリじゃないかの。こう、この大広間の出入り口付近で」
とまあ、そんなダリウスの言葉もあって、お試し攻撃をする事になったんだが……これはあかんかった。オルカが青霊もどき一体を狙撃した瞬間、全ての青霊もどきが殺気立ち、一気にこちらへと押し寄せて来たのだ。当然、俺達は女神像のところにまで逃げた訳で。
「あそこからの攻撃は完全になし! あんなの、自殺志願と同じだ!」
「一体一体が異なる形状に変化して、それが全方位が迫って来るからな。破壊不可オブジェクトである鉄格子があるとは言え、とてもではないが対処が追いつかん。明らかに通路で攻略するデザインではないだろう」
「ガッハッハ、めんごめんご! しかし、大広間から出る事でもリセットされる仕様で良かったのう。カードで再び扉を開けたら、もう元に戻っておったわい」
「まあ、良い検証になったのは確かだけどさぁ……」
とりあえず、巣の中に入った後でどうこうしなくちゃならないのは確かか。
「まず、あの馬鹿デカい図体をどうにかしたいところだな。戦場となる巣がそんなに広くないから、あの棍棒の一振りでも結構な攻撃範囲になっちまう。落下したシャンデリアを食らって全身から血を出した辺り、アレがダメージに対するカウンターとして機能してんだろう」
「でかい図体と比例して、流血の量もとんでもない事になっておったからのう。あのまま巣におったら、浸水していたんじゃないか?」
「となると金の人骨に群がっているうちに、青霊もどきらを可能な限り削る必要があるか。奴らが悪魔もどきとして覚醒する前に倒す事ができれば、その分肉体を構成する材料が減る事になる」
「そう、つまりは小さくなるって事だ。デカさのマックスがさっきの状態、そこからどこまで減らせるか……ま、時間との勝負かね?」
てな訳で、第二ラウンドと言う名の検証再開――からの第十ラウンドほどまで回して、色々と分かった事がある。
まず第一に、悪魔もどきが完成するまでに青霊もどきを間引く検証。ここでは広範囲攻撃が大いに役立ち、オルカの『魔法・炎樹』などで結構な数を減らす事に成功した。金ピカ骨の捕食中は俺らが攻撃しても何の抵抗もして来ない為、攻撃のみに集中できる理想の形だ。とは言え、ここの青霊もどきは地上のものよりも強く、四分の一ほど倒せたら良い方である。で、この状態で誕生した悪魔もどきのサイズは、最初よりも明らかに小さくなっており、攻撃範囲や放出される血の量も相応のものになっていた。
第二に、俺の『魔法・氷刻』で青霊もどきの侵入を防ぐ検証。結論から言ってしまえば、これはストレートに失敗だった。巣を取り囲むようにして鉄格子に氷の壁を作り、接触した青霊もどきの時間を止めるまでは良かったんだが、大した時間稼ぎにはならなかったんだ。時間が止まっても一秒くらいなもんだし、氷自体も数の暴力で早々に破壊されてしまい、壁としてあまり機能していない。しかも、悪魔もどきが誕生しない事には大黒霊戦が始まらないわで、時間稼ぎをする意味もないと来たもんだ。素直にこの魔法は戦闘開始後の攻撃に使うべきだわな。
第三、見た目からして脅威でしかない奴の黄色い血、所謂『強酸』にわざと触れ、ダメージのほどを確認。この時に俺はレベル6の『耐性・溶解』を装着していたんだが、ものの見事にダメージを食らってしまうに至る。とは言っても、一応の耐性効果はあったようで、瞬間的に肌を溶かされ骨になる、みたいな事はなく、焼かれるような痛みと共に継続的な小ダメージを食らうに止まった。耐性がなかったら、ここの客らと同じ白骨化していたかもな、ハッハッハ! ……なんて事はマジで笑えないので、悪魔もどきの血は躱す前提で戦う事に決まる。
「まあその他にも、奴の棍棒は攻撃時にダメージを食らった時よろしく、その継ぎ目から血が噴き出す。明らかに弱点部位っぽい額の金ピカ骸骨だけど、攻撃しても全くビクともしない。新装備の滂沱シリーズの激痛がやばいけど、イレーネのマッサージほどではない等々、細かい事が色々分かった訳で……そろそろ本格的に倒しにかかっても良いかもな」
「私もそれに賛成だ」
「うむ。じゃが、その前に――」
「――ああ、魔法の残弾を補充しに帰るぞ!」
俺達は颯爽と来た道を戻るのだった。そして即戦線復帰、全力で戻って来ましたよっと。
「さて、無事仕切り直ししたところで、早速最初の関門だ。ここ次第で後々の攻略難度がガラッと変わるぞ」
「あれだけ予行練習させてくれたんだ、今の最高効率は何とか掴めたよ。ベクトこそ大丈夫か?」
「ああ、俺の中の新石橋さんはいつでもドラムを叩けるぞ」
「冗談を言える辺り、少なくともゆとりはありそうじゃの。まっ、今回の戦いは途中棄権できるもんじゃ。安全第一で行くとするかの」
「いや、別に冗談じゃなかったんだが……」
ともあれ、最終ラウンド(仮)の始まりである。




