第192話 黄金広間
「それじゃ、僕は一足先に失礼仕る! まずは大黒霊戦、頑張って! その後に超前向きに検討してほしいな! 駄目でも検討を重ねてほしいな! ねっ、マジでお願いね一生のお願いね!?」
最後の最後まで念押しを忘れず、クレちゃんはご機嫌な女神像に祈りを捧げて消えて行った。ああ、マジで押しが強かったよ……
「いや~……どうするよ?」
「依頼内容は無茶振りが過ぎるが、その報酬が魅力的なのも確かだな。任務中のクレストロによる全面的な支援、上位探索者達への貸し作り、前もってその辺りの不安要素を潰せるのは正直ありがたい話だ」
「捜し人のマチって探索者が、俺達には無害ってのもでかいよな。まあ、自分よりも弱い相手にその独自過ぎる性癖を発揮する事がないだけなんだろうが……今更だけどさ、生きていればマチは今を絶賛満喫しているんだよな? そんな中で今回の招集に応じるもんかね?」
「飯と同じで、たまには違うもんを食いたくなる事もあるんじゃないかの。マムは欲望を満たす最高の相手じゃろうが、今回の討伐目標も同じ異常進化種なんじゃし」
クレちゃんが姿を消した事で、ダリウスも会話に参加し始める。ルシウスが提案する異常進化種の討伐、その目標は百亡の獅子ウダルルムなんだそうだ。三体の異常進化種の中で最も狂暴かつ、世界に被害を与え続ける災厄中の災厄とも呼べる存在だ。確かにそんな奴が相手なら、マチの性癖も同様に満たされるだろうな。いや、詳しくは知りたくもないけどさ。
「それと異常進化種の討伐にワシらも本格的に参加するもんかと思ったが、先のメッセンジャーとしての役割が期待の大部分を占めておったな。討伐本番は殆ど見学だけで良いらしいぞい」
「その見学だけでも、ルシウスが他同様に願いを叶えてくれるって破格の条件だもんなぁ。ちょっと話がうま過ぎて、裏があるんじゃないかと勘繰っちゃうよ」
「私達とクレストロらとの実力差からして、そんな裏工作めいた事をする必要はないんじゃないか? 単純に誰もマムと会いたくない、その一心の話のように思えるぞ、私は」
「ん~~~……よし、今日のところは考えないようにしよう、この話! どっちにしたって、五体目の大黒霊を倒す必要があるんだ。今はそっちに集中しようじゃないか!」
そんな訳で、前にカードで開く事を確認した扉へと向き直る。ふむ、やっぱ趣味の合わない扉だな、これは。そんな感想と共に挿入口にカードをイン、扉は何のトラブルもなく開かれるのであった。
「さて、この悪趣味な金ぴか通りの奥には何があるか……ん?」
前衛ビルドの俺が先んじて通路に足を踏み入れる。が、その瞬間にちょっとした違和感を覚えた。俺達を取り巻くピンクの靄、それが少しばかり濃くなったように思えたのだ。
「……奥へ進む前に試しておくか」
オルカに待ったをかけ、少し離れた場所にブリさんを召喚。ブリさんは『耐性・魅了』のレベル3持ちである為、ここまで靄の影響を受けていなかったが、さて。
「わ、あ、キラキラ、光って、きれ、い、いいっ……?」
「あ、これは駄目だわ」
召喚直後は普通だったが、数秒もしないうちに言動がおかしくなってしまった。その状態では指示にも従わず――それ以上のおかしな挙動をされる前に、召喚を解除しておく。
「オルカ、ここから靄が濃くなってる。さっきのブリさんの反応からして、魅了の効果も強まっているっぽい。レベル3程度の耐性じゃ、ほんの少しの間しか抗えないほどだ」
「となると、この先使役した黒霊達はまた出せなくなる訳か」
「だな。にしても……加護を持ってる俺らは問題ないけど、専用の耐性霊刻印任せてでここに来ていたら、今頃大混乱に陥っていたな」
『堕落歓楽街』の仕様には来たばかりの頃も呆れたもんだが、ここに来てピンクの靄、その恐怖再びってか? 本当に性格の悪い話だ。ここまでの道中、レベル3よりも上の耐性持ちは見かけなかったし……もう俺らやクレちゃんみたいに、装備でどうにかするしかなくね? まあ、それでもきっと他に抜け道はあるんだろうが……今の俺らには関係ナッスィン! 大黒霊との戦いに集中だ!
とまあ、ビカビカと目に悪い黄金の道を進むこと数分、俺達は次に黄金の大広間へと辿り着く。ここも通路同様、どこもかしこも成金仕様で目が痛い。だが、ここにはそれ以上に目に毒な光景が広がっていた。
「……一体何の会場だ、ここは?」
この大広間、幾つものテーブルが並んでおり、一見パーティ会場のようなのだが、よくよく観察してみると雰囲気がおかしい。どちらかと言うと数多のテーブル席は接待用、それも夜の店にあるタイプのもので、席に座る男を中心に、何人もの青霊もどきが囲っている。まあ、これだけなら夜の店、それも繁盛している場所であれば、この規模でもあり得る光景なんだろうが……客と思わしき男達、それが揃いも揃って白骨化しているのが問題だ。無言を貫く骨が相手だってのに、青霊もどき達は何の問題もないかの如く、そのまま接待を続けている。つうか、時折その骨をバリボリ貪ってる。
「肉欲を満たすどころか、逆に己の肉をいただかれる事になったのかのう。その上、骨までも……」
「そんな哀れな男――いや、ひょっとしたら女の骨があるかもだが、相当な数居る事になりそうだな。向こう側まで、ズラッと同じようなテーブルが並んでいやがる」
大広間は奥へ奥へと続いている。しかし、この出入り口からは真っ直ぐにしか進む事ができない。と言うのも、俺達の左右には一直線に並ぶ鉄格子が設置されていて、それが唯一の道となっているんだ。分かりやすく言うと、大広間のど真ん中を鉄格子の道で区切っている感じ。途轍もなく趣味を悪くした、ファッションショーのランウェイと言うべきだろうか。見世物、と言う意味では同じかもしれないが、その意味合いは大きく異なっている。客側の視点からすれば、俺らは闘技場で戦うグラディエーターのようなものなんだろう。まあ、その客側は既に息を引き取っている訳ですが。
「ふむ、この鉄格子も破壊不可オブジェクトか。隙間は腕一本ならどうにか通るが、ここから通り抜けるのは無理だな。ただ、能力を遮断する効果はないようだ。向こう側に黒霊を召喚する事はできるし、この隙間を縫って向こうに居る黒霊を狙撃するなんて事も可能だろう」
「逆に言えば、向こうからも同じ事ができる訳だけどな。見た目で判別はできないが、この靄の中でも平静を保っている辺り、地上の黒霊よりも強力な種族だと考えられる。明らかにこっちが不利なポジションだし、今のところは触れないようにしよう。習性が同じなら、接近や攻撃をしない限りは大人しい筈だからな」
「うむ、あの哀れな骨らに集中してもらうのが吉じゃて」
「俺らは大人しく静かに、この鉄格子の道を進むとしますかね」
……とは言ったものの、この大広間のど真ん中を進むのは、結構な勇気が居るもので。左右の鉄格子しか遮蔽物になりそうなものはなく、行き先は同じような一本道が続くばかり。周囲の黒霊達が襲い掛かって来る様子はないが、その数は多く、嫌~な緊張感で溢れている。冷や汗を流しながら慎重に進むこと、これまた数分――ありがたい事だ。俺達は思ったよりも早くに、このエリアの終着駅へと辿り着く事ができた。それはどこだって? ハハッ、お目当ての大黒霊の巣に決まっているじゃないか。




