第190話 素敵なお誘い
結局、流れに逆らえなかった俺であるが、そんな俺にも長年培ったプライド(?)は欠片くらいは存在する。結託した(?)二人の隙を突き、グレアさんに痛覚効果の削除はできないか、直談判する事に成功したのだ。
「その効果の削除ですの?」
「です。折角作ってもらってこんな事を言うのは何ですが、この効果をなくして他の能力強化に回した方が、後々に効いて来ると思いまして。例えば、ほら、その分の余力を防御面の底上げに付加するとか!」
「ベクトさん、貴方……」
「は、はい」
「……ご自分の趣味趣向を捨ててまで、探索者としてのアドバンテージを増やそうとしているんですわね!? 鑑、ベクトさんは探索者の鑑ですわッ……!」
グレアさん、もう俺が何を言っても肯定してくれる感じになってません? いや、それなら最初から俺の意見を肯定してほしくはあったけど。
「ですが、どうかご安心を。痛覚効果は便宜上、防具のデメリットとしか数えられています。この効果を削除したところで、他の項目が強化される事はありません」
「へ?」
「むしろ、この痛覚効果があるからこそ、他の項目も強化されていると言って良いでしょう。つまり、今の状態がベストなのですわ! ベクトさんは趣味に興じながら、その恩恵を十二分に得る事ができるのです! 他の者では成立し得ない、素晴らしき相乗効果ですわ! オーホッホッホ――あ、別にこの事を公言するつもりはありませんので、その点においてもご安心を。プライベートは大切ですからね、ええ」
「……何から何まで、お世話になります」
――デメリット効果を活かした構成になっとるやんけえええええ!? と来たもんで、滂沱シリーズは今の形がベストであると判断されてしまった。最終的に、もたらされる痛みに慣れるしかなかったのだ。いと哀しみ……
で、そんな新装備のお披露目会もそこそこに、ここらで時計塔地下の大黒霊に挑戦する案が本格的に浮上。俺とオルカは『堕落歓楽街』へと赴くのであった。しかし、予想外の出来事は続くもので、ここでも俺の勘さんの察知スキルを掻い潜る者が。
「お、来た来た。やっ、お久ッ!」
「えっ、クレちゃん!?」
お転婆女神像の場所に転送されるや否や、クレちゃんと遭遇したのだ。恐らくはここで待ち構えていたんだろう。彼の足下には暇潰し用の道具|(ゲーム機)らしきものが複数置いてあった。……ゲーム機、だと? い、いや、そんなものがこの世界にあんのかってツッコミもしたいけど、何で俺達を待ち構えていたんだ!?
「ベクトきゅんもオルカちゃんも元気だった? 僕? 僕はいつも元気さ! 少しばかりアラリャネに呪われたところが痛むけど、最新医療の前に古臭い攻撃なんて無力だからね! そんなに心配そうな顔をしなくたって、死にはしないよ! 強いて言うとすれば、ゲームのプレイイングに支障が出るのが問題かな! 手元が狂う狂う!」
「俺らの知らないところで何をやっていたんだよ……」
「何、ちょっとしたじゃれ合いだよ。ところで……ベクトきゅん、防具を新調したのかな!? こいつは良いものだ、余裕のある設計だ、以前と比べて防御力が違いますよ! うーん、マーベラス!」
自称呪われている筈のクレちゃんだが、その口は以前と同じく止まる事を知らない様子だ。
「あ、ありがとう……それで俺達を待っていたみたいだけど、何かあったのか?」
「アラリャネの仕返しに協力しろと言う内容なら、残念ながら力にはなれないぞ。その域の戦い参加できるだけの実力がないからな」
「そう? ベクトきゅんの装備もそうだけど、君達自身も随分と鍛えたように見えるけどなって、違う違う、そんな提案をしに来た訳じゃないよ~。あんな害悪プレイヤーと二人を敵対させるなんて、純愛過激派として許せないからねッ!」
「フッ、私とベクトは熱々だからな。そう思ってしまうのも仕方あるまい」
「オルカ、こんなところで腕を組むなって。女神像の近くで安全でも、人の目はあるんだぞ?」
「更に純愛っぷりに拍車がかかっている、だと……!?」
ここぞとばかりにボディタッチが多くなるオルカ、興奮気味に呼吸の荒くなるクレちゃん。な、何だかこのシチュエーションは危ない気がする……
「ええと……それで結局、クレちゃんの用件ってのは?」
「イエス! そうそう、その件が重要だったんだ! ベクトきゅんにオルカちゃん、ちょいと僕らに協力して、異常進化種を倒してみないかい? 大丈夫、誰にでもできる訳ではなく、簡単でもない大変なお仕事だから、とっても殺り甲斐があるよ! 常に死と隣り合わせ、危険不安のオンパレード! 果たして君は生き残る事ができるのかッ!?」
「いや、普通に嫌だけど……」
「ああ、無理だな」
「馬鹿な、即断で断るだと!? ルシウスなら泣いて喜ぶ案件の筈だぞ!?」
ルシウス……大黒霊八体を討伐した探索者だったっけ? 戦狂いだって話だから、まあ確かにそいつなら、さっきの酷い勧誘でも響くものがあったのかもしれない。けど、俺らは真っ当な探索者だしなぁ。危険はただ危険なだけ、避けるべき事柄である。
「つか異常進化種の討伐って、アラリャネと敵対するよりやべぇ事なんだろ? そのルシウスとやらは喜ぶかもだが、俺とオルカには自殺を勧められているようにしか聞こえないぞ」
「だよね、僕もそう思う♪」
「思うのかよ……で、何でクレちゃんはそんなお誘いを?」
「いや~、それがさ~」
クレちゃんがその場でうつ伏せに寝転び、顎に両手を当て始める。まるで修学旅行の夜に好きな女の子について語り合うような姿勢な訳だが、仮面越しに聞かされた話は物騒極まりない話だった。恋愛模様とは微塵も掠っていない。
「――ってな訳で、そんな風にルシウスから提案があったんだよね。あ、言伝を持って来たのはダディだったけど」
「探索者のトップ勢が三人揃ったってのも驚きだけど、なぁ?」
「ああ、そこから異常進化種討伐の話題に移行したのも驚きだ。まさか、クレストロはそれに参加するつもりなのか?」
「当然断る! ……と言いたいところだったんだけど、よんどころない事情があってね。その場に居た僕、アラリャネ、ダディは参加する事になったんだ!」
「……それも冗談か何か?」
「本気と書いてマジだね! とは言っても、無償で協力するって条件なら突っぱねていたさ」
「って事は、参加する事に何かメリットが生まれたのか?」
「♡」
クレちゃん、背中のアームでハートマークを表現。どうやら正解だったようだ。
「あまりに参加表明者が少なくて、つうか皆無で、発案者のルシウスから後追いで追加報酬が提示されてね。異常進化種の討伐が成功したら、叶えられる範囲で何でも願いを叶えてやるってさ。こいつは凄い事だよ! あのルシウスが! 何でもって断言したんだ! 今、何でもって言った!?」
「そ、そりゃ大きく出たな……だが、なるほど。その報酬狙いで全員が参加する事になったと」
「クレストロは何を望んだんだ?」
「ルシウスが持つ素材を根こそぎ全部、不要な装備も根こそぎ全部さッ! ちなみにダディは死の巫女への対面最優先権、及びそこへ至るまでの大黒霊討伐の補助を願っていたっけ。アラリャネは陰気で声が小さい秘密主義者だったから、盗聴できなかったや! いやー残念!」
「それ、盗聴した情報なのかよ……」
しかし、何にしたって太っ腹な話だ。そのルシウスって奴は、よっぽど異常進化種を倒したいらしい。で、ここからが真に俺らの気になるところなんだが。
「確認したいんだが、その話を何でわざわざ俺らに?」
「何でって、ベクトきゅんらも参加しないかなと思って。さっ、期待のニューカマーを皆に紹介しようぜぇッ!」
「「……」」
俺らは思った。あんまその人らと関わりたくないんですけど……と。




