第188話 モルモ
困惑する俺が冷静になる暇もなく、オルカのはよ帰りたいオーラに押され、白の空間へと帰還する事に。これで本当にあの謎生物が青霊なら、新たに白の空間に施設が出来上がっている事になるが……そもそも、人間でない青霊でも施設って増えるもんなんだろうか? 俺はそんな不安を胸に、時計塔地下に鎮座する愉快な女神像へ祈りを捧げるのであった。
◎本日の成果◎
保護青霊
土竜の青霊(モルモ)⇒『モルモ地下採掘所』が具現化
……で、これである。お前、マジで青霊だったんか。つか、土竜の青霊って。名前がオルカが命名した通りのモルモって。
「ベクト、また風変わりな青霊を救助しましたね。……なぜ街中にあのような青霊が?」
「俺がその理由を知る筈がないだろ。それに助けたっつうか、地面に顔を突っ込んでいるところに話し掛けただけっつうか……」
白の空間への到着後、俺達を迎えてくれたのは珍しくもゼラだった。そして、そんな彼女の隣にはでかいモグラのような生物がおり――ああ、こいつがモルモなんだろうなって、自然と察してしまったよ。
「モルモ、会いたかったぞ! お尻がプリティーだったが、お顔もとってもキュートじゃないか!」
早速と言うべきか、モルモが視界に入った途端にオルカが飛び出し抱き締めていた。お利口な様子で直立していたモルモも、唐突なこの展開には困惑を隠せないようで。
「わ、わんっ!」
戸惑い気味にそんな鳴き声を――いや、わんってお前。
「ゼラ、モルモってモグラなのか? それとも犬?」
「尻尾はタヌキっぽいですけれどね」
謎は深まるばかりである。ただまあ、モルモがうちに来てくれた事で、新たな施設が建造されたのは確かだ。その名も『モルモ地下採掘所』、今度は地下の施設と来たもんだ。
「オルカ、モルモを愛でるのもほどほどにな。皆にも挨拶させたいし、施設の方も見たいだろ?」
「む、それもそうか。モルモ、この素晴らしき時を私だけで独占するのはもったいない。皆にも共有するぞッ!」
「く、くぅーん……」
「完全に気圧されてんなぁ」
図体はでかいが、中身は相当に憶病であるようだ。そしてこの後、酒場でアリーシャにも同じような事をされ、モルモは完全に撃沈してしまうのであった。
「二人とも、暫くはダイレクトなコミュニケーションは控えるように」
「「ええっ!?」」
「大袈裟に驚いても駄目です。モルモはとっても繊細なんです。故に節度ある愛で方をしてください」
「わう~ん」
よほどオルカとアリーシャが怖ったのか、モルモは俺の背後に隠れたままだ。と言うか、俺の背中に抱き着いたまま離れようとしない。
「うーん、驚かせちゃったかな? モルモ、ごめんね~?」
「ず、狡い、モルモに抱き着かれるなんて、ベクトだけ狡い! が、ファーストコンタクトをミスしたのは、確かに私の責任……! 微塵も言い逃れができない……! すまない、すまない……!」
素直に謝るアリーシャと、血の涙を出しそうな勢いで後悔し始めるオルカ。ま、まあ悪気はなかったんだし、時間が解決してくれると思うよ?
「あー、傷心のオルカは暫くそっとしておくとして、モルモの施設に行ってみようかな?」
「それじゃ、オルカとアリーシャの代わりに私が付いて行こうかね。通訳が必要だろうし」
と、エプロンを脱ぎ酒場のカウンターから出るサンドラ。
「通訳って、もしかしなくてもモルモのだよな? サンドラ、そんな能力があったのか……!?」
「ううん、通訳は私じゃなくて、こっちこっち」
「むっ?」
サンドラがヒョイっと持ち上げたのは――我らがキンちゃんだった。ああ、なるほどな納得感。
「ま、待てい! なぜに余がそのような事をッ!」
「なぜって、キングは博識だから他種族との会話くらいお茶の子さいさいでしょ? よっ、待ってました!」
「ええい、あからさまな持ち上げをしおって……!」
「はーい、物理的にも持ち上げてまーす」
「わんわんっ!」
「貴様も馴れ馴れしく挨拶をして来るんじゃない! するのなら、せめて言葉遣いを正せ! 虫のお裾分けもいらんし食わん!」
「あ、本当に会話できるんだな」
臆病なモルモも、キンちゃん相手なら緊張はない様子だ。うん、これなら仲良くやって行けそうだな! 良かった良かった!
「良くにゃい!」
そんな訳で俺にモルモとサンドラ、そして彼女に抱っこされたキンちゃんが連行――もとい快く同行してくれたお陰で、モルモとの会話が可能となった訳だ。向かう先は地下への入り口、とは言ってもこれは白の空間の各所にあるようで、とりあえず酒場から一番近い場所へ。入り口は正に炭鉱へ続く道、って見た目だったが、入った途端に一面壁の行き止まりだった。
「ええと、これは? まだ全然地下にも入ってないぞ?」
「わわん、わんわんわん!」
「ここはモルモが前に住んでいた祖国、その一部を模した場所だそうだ。今はまだ壁しかない状態だが、モルモが掘り進める事で地下空間が拡張されて行くらしい。その間、地下に埋没していたアイテムや宝箱やらを、ひょっとしたら発見する事があるかも……だ、そうだ」
何だかんだ言いつつも、自らの仕事はキッチリと行うキンちゃんである。
「キング、完璧な通訳っぷりじゃ~ん」
「フン、やるからには成果を出すまでよ」
「流石はキングさん、俺らの霊刻印を預かり管理しているだけの事はある――それで、宝箱があるかもって話は本当ですか!?」
「ベクト貴様、案外現金な奴であるな」
「マジで最近目にしていないんで!」
宝箱、心より期待してます!
「わおんわおん、はっはっは!」
「あー……確率的には奥へ行けば行くほどに宝箱が出やすくなるかも、だそうだ。更に言えば、現在建造されている施設にかかわるアイテムなどが出やすい傾向にある。今で言うと食料に酒、花や野菜の種に薬、教会や牧場関連のものだな」
「なるほど、そこで他の施設とリンクしている感じなのか」
「低確率ではあるが、それ以外のものが発掘される事もあるようだ。それと、モルモはここに直接住まうから、特に部屋などを準備する必要はない」
「ふむふむ、了解した。しかし、俺らは施設ができた時にアリーシャ探検隊を組んで調査までしたのに、モルモは施設の特性がよく分かったな? やっぱ本能的に分かるもんなの?」
「うぉん!」
「前もってゼラに教えてもらったそうだ。調査で酒を堪能する時間が削られるのは惜しい、とか言ってな」
「ゼ、ゼラらしいと言うか……」
さては施設情報を案内人権限で無理矢理引っ張って来たな。ったく、相変わらず知らぬうちに知識が生えて来る奴だ。
「わわん、わんわんわん!」
「説明はこの辺で終わりだし、そろそろ掘り始めて良いか? だと。もう我慢の限界なんだそうだ」
「そんな待てを食らった犬みたいな状態だったのか……ああ、もう大丈夫だよ、存分に掘っておくれ」
「わんうぉーんうぉーん!」
「落盤にだけは注意してな~?」
と、モルモは興奮気味に地下へと続く壁を掘り始める。その速度は結構なもので、もう大きな穴が出来て――おわっぷ、土煙がすんごい!? 脱出、まずはここから脱出しなければ……!
「……で、結局モルモって何なんだろうな。地下が故郷とか言っている辺り、あの城塞都市は元々の住処じゃないっぽいし」
「あの城塞は禁忌とされる研究を行い、結果、生ける屍が蔓延する事で滅びた。大方、その研究以外にも別のアプローチを行っていたのだろう。モルモはそこから逃げ出した実験動物の類ではないか?」
「じ、実験動物って……厄ネタしかねぇな、あの都市」
仮にゾンビ研究が上手く行っていたといても、別の研究で破滅していたんじゃないか?




