第187話 愛情表現
少々の不安は残るが、グレアさんに防具の新調を正式に依頼する事となった。防具に使う素材の入手、そして指輪のクールタイムを考えると、最短でも一週間(グレアさんの体感基準)ほど掛かるらしい。その間ただ待つ訳にもいかないので、今の主な活動エリアである『堕落歓楽街』で探索を進める事に。
「じゃ、時計塔地下の探索は、グレアさんの装備が届いてからで良いかな?」
「ああ、あの黄金の道も気になるが、それ以前にこのエリアにもまだまだ未探索箇所が残っている。大黒霊が居る事が明らかになっている場所よりも、まずはそこを優先した方が良いだろう。まだまだこのエリアでの成長が見込める事だしな」
とまあ、暫くは『堕落歓楽街』での広く浅くな探索がメインとなる。黒霊を倒し、チャンスがあれば使役し、最近はめっきりご無沙汰な宝箱を求め、俺達は邁進するのだ!
「そういやオルカ、もういつものように動ける感じか? その、あまり無理し過ぎないようにな?」
「案ずるな、と言いたいところだが、愛する者にそう言われると嬉しいものだな。私は大丈夫だよ。直後は流石に動きが重かったが、イレーネの薬を使ってからは違和感が殆どなくなった」
「白の空間はダメージがない筈なんだが、体の機能として、それとは別に判定があったのかもしれないな……」
「まあ何にせよ、次が楽しみだ。一番辛い時を乗り越えれば、後は愛の重さと相性の方が問題――」
「――あの~、一応ワシが居る事も忘れんでね? 空気読むのにも限度はあるからのう?」
「「ダ、ダリウス、居たのか!?」」
「そりゃおるじゃろうて……」
探索自体は順調だったんだが、とんだポカをやらかしてしまう。しかし、俺とオルカも気付かないとは。ダリウスソード、マジでいつから居たんだ……?
「あーもー切り替え、切り替えじゃ! 恋バナを肴に酒につかるのは好きじゃが、間に挟まって惚気られる趣味はない! さあ、今日はガンガン行くぞい!」
「ガンガンは行かないよ、今日も石橋を叩くよ」
「安全第一だな。その、ベクトの身が心配だし、な?」
「それを言ったらオルカのだってそうだ。いや、俺はオルカ以上に心配しているぞ?」
「むっ、いいや、私の方が心配している! 万倍は心配しているぞ!」
「なら俺はその更に万倍の心配で――」
「――ええい、本当にストップストップ! お主らの事はもう嫌ってほど分かったから、その気持ちを少しは周囲にも配ってあげて!? クッ、まさかこんなバカップルな調子で探索する事になるとは……! しかも、なぜか探索自体は上手く行っておるし、マジで何なんじゃ、これ……!?」
「愛だと思うよ?」
「ああ、愛の力だな」
「うごごごごごご、砂糖、砂糖で溺れてしまう……! このままでは糖尿病一直線じゃ……!」
いや、ダリウスはそれよりも酒の飲み過ぎを気にした方が良いだろう。ゼラの半分も飲んでいないにしても、一般的なそれよりかは酒につかっている時間が長いと思うし。……いや、冷静に考えると剣が酒につかるって何なんだろうな。
「さ、そろそろ真面目にやろうか、ダリウスソード。このエリアでの油断は命取りだぞ?」
「相棒がそれ言う?」
「もう結構な数の黒霊を倒しているが、新たな種類はまだ見ないな。この辺りで残っているのは希少種くらいなんだろうか? ……むっ」
オルカより向こうを注目、とのハンドサイン。何だろうか、噂をすればってやつか?
「……アレは何だ?」
「何じゃと思う?」
「何だかよく分からないが、モフカワである事は間違いないぞ」
と、急にテンション高めになるオルカさん。そんな彼女の熱い視線の先には、モフっとした茶色い塊が――地面に埋まって居た。
「いや、マジで何だよ、アレ? オルカの食指が動いたくらいしか情報がないぞ……」
「それこそが最大のヒント、と言う事ではないか? つまるところ、アレはモフカワな動物の一部なのじゃ。まあ、うん、だからどんな動物なのって話なんじゃが」
「何で『堕落歓楽街』にモフカワな動物が、って話にもならないか? 一応、茶色の塊の上に青いオーラがあるから、青霊、もしくは他の黒霊と同じ擬態タイプだとは思うんだが」
このエリアじゃ色で判断できないから、敵か味方かも分かんと来た。
「むむむっ……分かった、アレはお尻だ! 上半身が地面の中に埋まっていて、お尻だけが露出している状態なんだ! そう、例えるならば、地面を掘ろうとしている兎の如く!」
「う、兎なのか、アレ? サイズ的は牛よりも大きいくらいだと思うんだが……だが、サイズさえ無視すれば、確かに?」
ちなみに、謎生物の周りに黒霊の姿は居ない。近寄らない限りはアクティブに動かない、このエリアの黒霊の特性がそうさせているのか、それとも謎の生物も黒霊だから周りの反応がないのか……クッ、全然分からん!
「あー……もう考えても進みそうにないから、ここで一度狙撃して反応を見てみるか?」
「ベクト、モフカワを狙撃するとは何事だ! 神をも恐れぬ行為だぞッ!?」
「まっ、オルカならそう言うよなぁ……仕方ない、これでマジな青霊だったら後味悪いし、直接確認しに行くしかないか。幸い、周りに黒霊は居ないしな」
「それでこそベクトだ。心から愛しているぞ」
「へへっ、よせやい」
「ぐふっ、油断した途端にクソ甘空間が……」
油断したダリウスに釘を刺したところで、ジワジワと謎生物へと接近して行く。近付けば近付くほどにでかく、そして意味不明な行動をしている事が分かった訳だが……結局、何も分かってねぇ!
「今更なんだけどさ、ピンクの靄が蔓延して魅了状態になるかもしれないこのエリアで、どうしてこの謎生物は平気でいられるんだ? やっぱ黒霊だからか?」
「いや、それは恐らく違うだろう。このモフカワが黒霊であったとすれば、ここまでの接近を果たした時点で何かしらの反応を起こす筈だ。私がこうして毛並みを撫でていても、かわゆい足をジタバタさせるだけで出て来ようとしない――つまり、敵ではないと言う事だ!」
「そ、そうかなぁ……?」
しかし、これが謎生物の足か。……何かネズミとかハムスターっぽい? お、尻尾もある。尻尾も全身モフカワな毛で覆われていて、何だか短くなった狸のそれのようだ。
「うーむ、この靄を嫌って地面に顔を突っ込んだ、みたいな感じかのう? それでいて整備された地面が思いの外硬くて、ここまでしか穴を掘れんかったとか?」
「あー、呼吸で靄を吸い込まなきゃ良い理論? 地面下の空気までは靄が浸透していないって事か」
まあでも、それでここから動けなくなったら仕方ない気も……いや、下手に動かない分、周りの黒霊を刺激する事もなかったのか? ううむ、こんなエリアに召喚されて運が悪いのやら、偶発的に生き延びられて幸運だったのか。
「ベクト、この子を連れ帰ろう! まだご尊顔は拝見していないが、このキュートなお尻だけでも国宝級だ! きっと素晴らしきモフカワだぞッ!」
「お、おう、だと良いな……けど、仮にこいつが青霊だったとしても、まずはうちの白の空間に来てくれるよう説得しないと。ええと、そもそも言葉が通じるのかな?」
「よーしよしよし、モルモ、今日からお前も家族の一員だ。我が家に帰るぞ」
とか言って、お尻を抱き締め全身で愛情を表現するオルカさん。はい、君の名前はモルモになったみたいです。潔く諦めてください。
「……!」
「は?」
「よし!」
あまり期待せず心の中で俺がそう思ったのも束の間、モルモは靄となってダリウスへと吸収されて行った。え、今の勧誘を受けるの!?




