第186話 職人魂
究極の癒しを得た翌日、俺とオルカは探索者の街へと向かった。グレアさんに例の贈り物をする為だ。
「なななな、何ですってええええええ!? ベクトさんとオルカが、おつつ、お付き合いをををををッ!?」
「グ、グレアさん、声が大きいですって……!」
「この調子なら小一時間ほどで情報が行き渡りそうだな。うむ、狙い通りだ!」
同時に、お付き合い報告をグレアさんにも行ったのだが、思っていた以上に驚かれてしまった。で、オルカさんや、狙い通りって?
「クッ、このグレア、一生の不覚ですわ。オルカに先を越されてしまったとは……!」
「あの、グレアさん……?」
「やはりグレアにもその気があったのか。何となくではあるが、察してはいたよ。いや、正確には私が恋に自覚する事で、周囲のあれそれについても察せるようになったと言うべきか」
「えっと、オルカさん……?」
「フフッ、その通りでしたよ。私、実のところベクトさんに憧れていましたの! 颯爽とこの街に現れ、一気に探索者のトップに躍り出て、それでいて誰にでも誠実な振る舞いをしてくださる――正にノブレスオブリージュ! 貴族同盟筆頭であるこの私のお相手として、理想的な殿方だと!」
「分かっていたさ。だが、それ以上に踏み込むのは駄目だ。ある理由からベクトと私は純愛を貫かなければならなくなった。故に現状、ベクトがグレアの想いに応える事はできない。だが、だがッ! 今の問題を打ち破った後であれば、そんなこんなもやぶさかではない!」
「ッッッ! ……フ、フフフッ、言質は取りましてよ? そしてオルカがそこまで言うのであれば、深くは問い質しません。ええ、今は何も言いませんわ。私はその時が来るまで備え、待ち続けるだけですの。今はただの戦友として、お二人を祝福し、支えて差し上げますわ!」
「グレア、お前と言う奴は……!」
「当然のッ、事ですわッ!」
「ええっと~……?」
会話に入り込めない俺を尻目にガシッと腕を組み合い、気高い絆も確かめ合うオルカとグレアさん。俺からも何か言うべきなんだろうが、突然こんな空間を繰り広げられたら困惑するしかない。
「さて、それはさて置き、私からもお伝えしたい事がありますの」
一体何を口にすべきか、そんな風に迷っているうちに、話題が次へと移ってしまった。あまりにグレアさんがカラっとしているから、俺の困惑具合に拍車がかかってしまう。
「えっ、さて置いて良いんですか? いえ、俺が言うのもアレなんですが……」
「良いんですのよ! これ以上深掘りしても仕方ありませんし、今は潔くさて置くのです! オーホッホッホッホ!」
先のオルカのプロポーズの言葉といい、皆俺よりよっぽど雄々しくないッスかね? 心の中のオーリー男爵、どう思う? え、それも大事な俺の個性だって? こ、心の中のオーリー男爵……!
「相棒、これ以上イマジナリーフレンドを増やすのは止めておくのじゃ、ツッコミが追いつかん……」
「何を言っているのか分からないですね。それで、グレアさんからの話ってのは?」
「フッフッフ、聞いてくださいまし! グレア・マルモリー、この度ダブルの探索者になりましてよッ!」
「おおっ、そいつはめでたい!」
「グレアも遂に来たか、この高みへ」
オルカと共に拍手、そして称賛の声を送る。ダブルの探索者と言えば、俺と初めて会った頃のオルカと同じ地位だ。更に言えばこの街に在住する探索者で並ぶ者は現在おらず――つまるところ、偉業なのである。
「一体どこの大黒霊を倒されたんです?」
「発見されたばかりの『蟲道遺跡』でしてよ。壊れかけたゴーレム系統の黒霊ばかりが出現するエリアで、稀に質の良い鉱物を落とすんですの! これが装備の素材に打って付けでして!」
「ほう、あの新たなエリアか」
あれ? それって『飢餓の蟲道』の跡地だったっけ? 『夢魔の森』や『堕落歓楽街』にかかり切りで、そっちまで確認できてなかったんだよな。話を聞く限り、俺らが探索していた頃よりも攻略難度は下がっている感じだろうか。
「そこのエリア、壁が回転したりしませんでした?」
「いいえ、そのような事は一切ありませんでしたわ。特に変わったギミックはなく、長いトンネルの一本道と言う実にシンプルなエリアですの」
「ふむ、どうやら私達の時とは随分と内容が変わっているようだ」
「現れるゴーレムが壊れかけ、それと同様にギミックも故障したのかもしれないな。何はともあれ、本当におめでとうございます! あっ、そうだ。グレアさんに渡したいものがあったんですよ」
「あら、私にですの? 何だかお祝いのプレゼントみたいでワクワクしますわね!」
「ハハッ、そう思ってくれると俺も嬉しいですね」
当初の予定通り、先の探索で発見した『親方の指輪』をグレアさんに手渡す。
「こ、これは……もしかしなくても、指輪ですの!?」
「え? ああ、うん、指輪以外には見えないと思いますけど、『親方の指輪』って言う希少な装備で――」
「――私が心の内を明かしたこのタイミングで、このような高価そうな指輪を贈る……つまり、そう言う事ですのね!?」
「どう言う事!?」
「ベクト、浮気は駄目だと何度も……」
「だから、どう言う事!?」
取り急ぎ、グレアさんのとんでも発言に対し釈明する俺。
「な~んだ、そう言う事でしたの。私ったら、うっかり気が逸ってしまいましたわ」
「まったく、グレアはそそっかしいな」
「オルカも案外そそっかしいからな?」
と、取り合えず、誤解は解く事ができたようだ。何か最近、気疲れする事が多いような……気のせいだと思いたいが。
「しっかし、レベルを2つ分も上げてくれるんですの? 再使用に一日のクールタイムが必要とは言え、これ一つで随分と世界が変わりますわよ」
「グレアがダブルになったと言う事は、そのタイミングで装備作成用の霊刻印もレベルアップしたのか?」
「もちですわ! 私のような職人にとって、それ系統の霊刻印は命とも呼べるものですからね! 多少の無理をしてでも、大黒霊戦に持って行きますの!」
「となるとグレアさんの偉業達成と合わせて、3つもレベルが上がった事になる訳だ。……あれ? それなら、もうレベル5とか6になってます?」
「だから言ったではありませんか、世界が変わるとッ!」
グ、グレアさんが燃えている! それはもうメラメラと、職人魂に火が付いたようだ……!
「『蟲道遺跡』の素材に慣れて来たところですが、この指輪を用いれば、更なる高みへと達する事ができそうですわ。ベクトさん、その防具を拵えてから結構な時間が経ちましたの。ここらで新しい防具を作るのは如何でしょうか?」
「俺の? こちらからしたら、とんでもなくありがたい話ですが……良いんですか?」
「良いんですの、頂いた指輪にはそれだけの価値がありますもの。それに何よりも、私の職人魂が叫んでいるのです! 今叩き出せる全てを新作にぶつけ、新たな道を切り開けとッ……! あ、完全にいちから作りたいので、今装備しているものを私に預ける必要はありませんから、その辺は安心してくださいまし!」
「……ですか。なら、お言葉に甘えたいと思います」
「良くってよ!」
そんな訳で、グレアさんに新たな防具を製作してもらう事になりました。うーん、助かる。あと、痛みを倍増させる機能から逃れられるのも助かる。マジで助かる……!
「ベクトさんの趣味趣向は完璧に理解していますの! 大船に乗ったつもりで待っていてくださいまし! オーホッホッホ!」
……趣味趣向って何だろ? イマジナリーフレンドが沢山居る事かな?
「相棒さぁ……」




