第185話 究極の癒し
「えー、と言う事で俺達、お付き合いをする事になりました」
「ああ、清く誠実に付き合って行くつもりだ。どうかよろしく頼む」
「「お、おおー……!」」
プロポーズ合戦にて敗北した(?)後、酒場にてサンドラとイレーネに事の顛末を説明。二人は最初こそ心底意外そうな顔をしていたが、それからは素直に喜び、拍手と共に祝福してくれた。ダリウスソードと飲兵衛案内人? はて、どこかでアリーシャの厳しい鍛錬を受けているんじゃないスかね。
「お、お二人とも、本当におめでとうございます。えと、ここはシスターとして、祝福を与えるべきでしょうか? 将来的にはご結婚もされるのでしょうし。けど、今の私にはそのような能力が、うう……」
「いやいや、気負い過ぎだって。その言葉だけで十分――」
「――こうなれば、アリーシャさんから伝授してもらった秘伝のマッサージで、おめでたい気持ちを表現したいと思います!」
「ひ、秘伝!?」
何てものを伝授してくれたんだ、アリーシャ師父!? 今までの流れからして、ぜってぇ痛いだろ!? と言うか、マッサージまで網羅し始めていたのか!?
「けど、まさかオルカがベクトの事を好きだったなんてね。数々の恋愛話を酒場で耳にして来たサンドラさんの目をもってしても、全然読めなかったな~」
「ふむ? それは耳でなく目を活用したからではないのか?」
「え? いや……ううん、確かに今のは文脈が少しおかしかったかな?」
「まあ、意味は通じるけどな。オルカ自身も気持ちに気付いたのが、今回の探索中だったらしいんだ。サンドラが知らなかったのも無理はないよ」
「なるほど、そう言う事かい。まっ、逆にベクトは分かりやすかったんだけどね!」
「……マジで?」
「フフッ、どうだろうね~?」
含みのある笑いを浮かべるサンドラ。クッ、何かマジっぽくて恥ずかしくなってきたぞ……!
「確かに、ベクトの視線は分かりやすいな。イレーネの胸やサンドラの尻をよく追っているし、恋人として少々心配だ」
「ひょえっ!? むむ、胸を……!?」
「オオオオ、オルカさん!?」
「うん、オルカもそう言う事を簡単にぶっちゃけるところが天然なんだよね。一応言っておくけど、全然気付いていないイレーネは別として、私はそれなりに察していたり。あっ、オルカに対しては胸も尻もよく追っていたんだっけ?」
「がはっ……!」
ダメージを負わない筈の白の空間にて、精神的に血を吐きつつガクンと崩れ落ちる俺。知らなかった、そんなにバレバレだったなんて知らなかったんや……! あっ、これは不味い。羞恥心で死んでしまうかも。
「……? ベクト、何を落ち込んでいる? 恋人のなら話は別だ。それに胸や尻を視線で追いかけると言う事は、それだけ私に魅力を感じているのだろう? フフッ、私は誇らしいぞ。そこまでベクトに想われていたなんてな」
「「おおー!」」
が、寸前のところでオルカの言葉に蘇生され、九死に一生を得る。オルカは天使だった?
「す、凄い! これが天然の力……!」
「確かに、とんでもない癒しです。私も聖職者の一人として見習わないと!」
「え? そ、そう言う話なのかな?」
「ですです! ベクトさん、これからは私の胸も遠慮せずに見てくださいね!」
「イレーネ!?」
「ぐはっ……!」
再び死の淵に追いやられる俺。薬も度が過ぎれば毒となるのである。
「イレーネ、それはとても献身的な話なのだが、訳あってベクトは純愛を貫く必要があってな。私の他に魅力を感じている暇があってはならないんだ。万が一にも今後、ベクトがそう言った行動を取ったら……まあ、頬にでも一撃食らわせてやってくれ。それがベクトの未来に繋がるからな」
「な、なるほど、そう言う事でしたら……!」
「おおー、それとなく独占力が強いんだ、オルカって。良かったじゃないか、ベクト! こんなにも恋人に想われているなんてさ。あ、私も尻を見られたら、今度からは一撃お見舞いした方が良い?」
「是非とも頼む」
「あ、あの、ダメージがないとは言え、流石に出会い頭に一発貰うのはちょっと。男の視線は半ば本能と言うか呪いみたいなものなんで、多少は許していただきたいんですが……」
「なっ、呪いだったのですか!? それはいけません、一大事です! 直ぐにでも解呪の儀式を、あっ、マッサージの秘儀を加えれば、今度はきっと!」
「待て待て待てお願い待って!?」
イレーネの解呪を回避すべく、そして今後の安寧を手にする為にも、俺は必死に弁明した。結果、三秒ルールが追加される事となる。つまり、サンドラやイレーネの魅力に視線が誘導されたとしても、それ以内に視線を外せばセーフと言う話だ。但しここで気を付けるべきは、三秒以内あるからと言って、わざと何度も見るような真似をすればアウト――意図せぬ視線誘導はしゃーないけど、それ以降にも不自然にやったら……後は分かるな? と言う事だ。まあ、うん、はい、気を付けますです……
「全く、己の煩悩も管理し切れんとは、ベクトもまだまだよな。少しは余を見習うと良い」
と、カウンターの上に居座るキンちゃんにまで言われる始末。つかキンちゃん、アンタ居たんか。しかし煩悩、煩悩かぁ……贈り物を用意した際の光景を思い出すも、キンちゃんが煩悩を隠し切った時は果たしてあっただろうか? いや、ない!
「今、途轍もなく失礼な事を考えなかったか?」
「いやいやいや、まさかまさかまさか」
「フン、どうだかな。だがまあ下賤の者でとしても、めでたい事には変わりあるまい。ほれ、祝儀代わりだ。余が預かる霊刻印の数をまた二つ増やしてやろう。供物もなしにサービスするのは今回だけだ、そこを勘違いしないように」
「キ、キンちゃんさん……!」
感動のあまり、体が自然と動く。具体的にはキンちゃんのだらしない腹に顔を埋め、抱き締めてしまう。
「ににゃ、にゃにをやっとるか貴様! 不敬、不敬だぞ!」
「クッ、そうは言っても体が勝手に……!」
「あっ! オルカ、早速浮気だよ、浮気! アレは許したら駄目なやつだよ!」
「確かに、自分だけキンちゃんのお腹と猫吸いを堪能するとは……許せん! ベクト、次は私、次は私だからなッ!?」
「あの、その次は私も良いですか? 実のところ、前々からちょっとやってみたいなぁと思っていまして……その、アリーシャさんもたまにやっていますし」
「あ、それじゃ折角だし、その次は私! たまにやりたくなるんだよね!」
「ええい、揃いも揃ってろくな臣下がおらぬ!? ベクト貴様、いい加減に離れよッ! 三秒どころか三十秒は疾うに過ぎておるぞッ!?」
「頭では分かっているんですが、全然体が言う事を聞かなくて……ハッ、これはもしや新手の呪い!?」
マジでキンちゃんのお腹から顔が離れん。何だこの至福空間は?
「この痴れ者が……! だが、言うに事を欠いて呪いと言ったな!? イレーネよ、この馬鹿者が呪いにかかったそうだぞ、早急に治療せよ!」
「……? えと、猫吸いが止められないのは自然な事では……?」
「は?」
「うむ、この世に定められた摂理と言っても良い。つまり、ベクトの行動は正常だ。これは仕方ない、とても仕方ない。故に私も許されるのだ」
「な、何を言っておるかああああああ!?」
こうしてたっぷりねっぷりじっくりキンちゃんを堪能した俺は、究極の癒しを得るのであった。




