第184話 勝負の時
白の空間に無事帰還した俺達は、早速ゼラに戦果の確認を――と行きたいところだが、よくよく考えると今回は黒霊を使役し、後はクレちゃんとの感動的な出会いがあるのみ。よって、成長はなしなのであった。その代わりと言っては何だが、探索で得た収穫物を吟味する事に。
「うっひょおおおおおお! 沢山、こんなに沢山の新しいお酒が! ベクト、オルカ、ついでにダリウス! 私は貴方達を信じていましたよ! 心の底から愛していますッ! キスしたいくらい!」
で、今回発見したものの大半が酒であった為、当然のようにこんな反応が真っ先に返って来る訳で。うわ、酒瓶に頬ずりしてる、キスしてる……
「遂に変な奇声まで上げ始めちゃったか、うちの案内人……」
「末期じゃのう……」
「お酒かぁ。ゼラお姉ちゃんが喜ぶのは良いけど、アリーシャは飲めないや」
「それについてはマジですまん、アリーシャ。もっと探索を進める予定だったんだが、思わぬ出会いがあってさ」
「出会い? どんなのどんなの?」
「んー、一見良い関係のようで、選択を間違えるとかなり危うい……いや、改めて説明すると、かなり面倒な関係だな。ええっと、兎に角もっと強くならないとって決心したよ」
「ふんふん、なるほどなるほど! そう言う事なら、私がお兄ちゃんを鍛えてあげる! お兄ちゃん達が出かけている最中、お花の手入れの合間にまた新しい技術を編み出したの! それを伝授するね!」
「ア、アリーシャ師父!」
俺は師父に教えを乞うべく、彼女の視線の高さよりも低く頭を下げるのであった。
「これがお遊びじゃなく、本気の技を伝授している辺りが恐ろしいところじゃよね。うん、今の相棒とアリーシャってどんな関係性?」
「聞いた通りだと思うが? 自主的に技を開発できるアリーシャの才能は見事だし、鍛錬を欠かさないその姿勢もまた素晴らしいと思うぞ。それよりもゼラ、酒を堪能する前にこの指輪の鑑定も頼みたいのだが」
「お任せください秒で確認します出ました!」
「はっや」
本日のゼラさんはやる気に満ちておられる。そんなに早く酒が飲みたいか。ああ、飲みたいよな。知ってた。
「これは『親方の指輪』ですね。装飾品として身に着けられる装備で、ステータスの底上げ効果はありませんが、その代わりに能力で装備品やアイテムを作る際、対応した霊刻印のレベルにプラス2の補正を与えます。一度効果を使うと24時間のクールタイムが必要になりますが、使い手によっては絶大な効果を発揮する素晴らしい装備品ですよ」
「ほう、確かにそれは――いや、だが私とベクトにそういった力はないからな。正直、宝の持ち腐れか……」
「なら、グレアさんにプレゼントするのはどうだ? 普段からお世話になっているし、その方が指輪も嬉しいだろ」
24時間に一度しか効果を使えないとは言え、レベルを2つ分上昇させるのは破格も破格だ。グレアさんなら、きっと上手く使ってくれるだろう。
「むっ」
「オルカ?」
どうしたんだろうか、オルカの表情が急に陰ったような……?
「この感情は……ふむ、そうだな。ここでハッキリさせておいた方が良いか」
「えっと、オルカさん? もしかして俺、何か変な事言っちゃった?」
「そうだな、かなり私情を挟む形になるが、言っちゃった事になるな」
「ええっ……」
「あーあー、相棒ったら言っちゃったかのう」
少なくとも、ダリウスに茶化されるレベルの事はしていないつもりなんだが?
「ベクト、此度の探索でクレストロと言う格上の探索者と知り合い、私達はかなり難しい立場となった。そうだな?」
「あ、ああ、そうだな。今のところは協力体制を築けているけど、クレちゃんの勘違いが解消されたら、相当にやばい状況になると思う」
「具体的に言うと?」
「……俺とオルカが付き合っていると、そう思い込んでいるところだ。で、純愛の探索者とか命名されるくらいに気に入られた。その分、発覚した時の反動が怖い」
「うむ、そうだな。つまり、私達はこの問題を早急に解決する必要がある。早急も早急、超特急で」
「……」
うん、それはそうなんだが、その方法が問題な訳で――いや、探索中のオルカの様子といい、俺もそこまでの朴念仁ではないつもりだ。まさかを三度も四度も続ければ、流石に察してしまう。だが、俺はこの身に新石橋さんを宿す探索者、念の為にもう一回確認しておきたい。
「オルカ、まさかクレちゃんの勘違いを真実にするつもりか?」
「惜しいな、少し違う。今後の憂いを断つのも確かに目的の一つではあるが、本筋は別だ。その……クレストロに指摘されて、漸く気付いたんだ。ベクト、私は君に好意を抱いている」
「「へあ!?」」
おい、何で俺よりも爆速で反応かましてんだよ、そこのダリウスソードと飲兵衛案内人! 空気、空気を読んで頂きたい!
「あ、何だか急に剣の練習がしたくなっちゃった~。ゼラお姉ちゃん、ダリウスお爺ちゃん、私の練習に付き合って~。こっちこっち~」
「え? ちょ、アリーシャどうしたんじゃ、急に!? 今から良いところ、良いところなのに!」
「そうですそうです、今からが最高の酒の肴になる瞬間なんです! ああ、引っ張らないでくださいと言うか抗えない!? 合気、合気ですかこれ!?」
そんな俺の思いが通じたのか、唯一空気を読んでくれたアリーシャがダリウスソードとゼラの首根っこを掴み、向こうへと去って行った。あの中で一番大人な対応してくれてんのがアリーシャって、正直どうなんだろうか……い、いや、今はそれよりも!
「オルカ、好意ってのは……そのままの意味で受け取って良いのか?」
「お、恐らく。私はそういった事柄に疎くてな、上手く言語化はできないんだが……いや、この場で逃げるのは止めよう。クロノスの時のように、始まりは友愛の感情だったんだ。それがベクトと共に探索を行い、モフカワを通じ、長い時間を共にする事で少しずつ感情が変化して行った。決定的だったのは、双生の画廊でベクトが私の死に本気で向かい合ってくれた事だ。先のクレストロとの出会いで、それを確信した。それを理解してからは、私の中でこれまでにない感情が混ぜこぜになって――かなり、おかしな態度を取っていたと思う。あのような大事な場面で不甲斐ないばかりだ。それに、さっきグレアに指輪を渡すと言った時もそうだったな。思わず思考が停止してしまって……クッ、尚更に恥ずかしい!」
「……いいや、そんな事はないと思うぞ。今更ながら正直に言うけど、俺がオルカと初めて出会った時なんて、内心もっと酷い事になっていたからな」
「と、言うと?」
「み、見惚れていたって言うか、思いっきり異性として意識しちゃってたと言うか……」
「そ、そうだったのか、うむ、そうか……」
「「……」」
頬を染め、互いに押し黙ってしまう俺達。あの頃の感情を思い出して恥ずかしいってのと、オルカからの率直な感情を知れて嬉しいってのと、心の準備ができていないうちにこんな展開になってしまった緊張感で、もう色々と限界ですはい。けど、オルカが逃げないと言ってくれたように、俺もここで逃げる訳にはいかない、よな! 今、ここが勝負の時……!
「ベクトよ、私のものとなれ!」
「オルカ、俺とお付き合いしてほしい!」
「「……」」
何かオルカの方が男らしいプロポーズだったああああああ!




