第181話 カードキー
「居たわ」
「居たな」
「居たね~」
階段の先、そこには我らが苦悶の女神像が待ち構えていた。……ジャストサイズかつ豪華な座布団の上に、ちょこんと座る形で。
「いや、何これ? 祭壇? ミニ祭壇?」
地下にあったのは小さな部屋で、真ん中に女神像を奉る祭壇が置かれていた。いや、正確に言えば元々は違う謎の像が置かれていたんだろうが、それは無残にも破壊された状態で床に転がっており……おい、これ大丈夫か? 祟られない?
「これは……上から転がって来た女神像が祭壇の石像とぶつかり、そのまま入れ替わる形でそこに居座ったんだろうな。ここでも見事なまでにジャストフィットだ」
「そんなピタでゴラな事に偶然なる?」
「いやー、流石の僕もここまで愉快な女神像ちゃんは初めてかも? 記念に祈っておこうかな!」
「今祈ったら白の空間に直帰しちゃうだろ」
心なしか満足気な顔になっている女神像に呆れながら、改めてこの部屋を見て回る。上の時計塔の様子とは打って変わって、この部屋は小さいながらも煌びやかな装飾が施されていた。さっきの祭壇もふんだんに金が盛り込まれているし、ただの壁や天井も妙にキラキラを通り越してギラギラでゴテゴテしていて――悪く言えば成金っぽい。
「で、祭壇の裏にはこれまた豪華な扉があると来たもんだ。……これ、破壊不可オブジェクトじゃね?」
「おっと、ひと目て分かるのかい、ベクトきゅん?」
「諸事情により、破壊不可オブジェクトを多く見るエリアがあってな、何か変な直感が働くようになった」
「何その素敵なエリア……!」
「マスク越しに目を輝かせないでくれ、ろくなエリアじゃなかったんだから。しかし、ここで破壊不可な扉ねぇ。他にはあるのは……これくらいか」
扉の隣に小さな鍵穴がある。いや、鍵穴と言うよりも薄い隙間、それこそカードを通すようなものだろうか。
「どう考えても、これが扉を開けるキーだよな。クレちゃん、最新の力で何とかなったりしない?」
「破壊可能な扉のギミックならまだしも、破壊不可オブジェクトに紐づくギミック系は無理かな~。この手のものは正当な手続きを維持でも踏ませてやる! って言う、世界の意志を感じるくらいに頑固だからね!」
「ふーむ、俺らが女神像を持ち運べないようなもんか。となると、今のところはここでストップ――ん? 何かを忘れているような……」
クレちゃんとの出会いで諸々が吹き飛んでいたが、何か大事な事を忘れている気がする。しかも、この扉と関係のありそうな何かを。えーっと、何だったっけ……!
「ベクト、探索中に発見した例のカードが使えるんじゃないか? サイズ的にはピッタリな気がするぞ」
「カード? ……あ、あーっ、そういやあったあった! 探索中に見つけた謎のカード!」
なぜかダリウスに溜息をつかれた気がしたが、マジで忘れていたから何も言えない。
「謎のカード?」
「ああ、これなんだけど」
ダリウスからカードを取り出し、クレちゃんにも見せもやる。
「ほほん、確かにこの差込口とのサイズは同じようだ。けど、やけにタイミングが良いね? このそれなりに広い堕落歓楽街で、ピンポイントにそんなものを発見するなんて」
「フフッ、ベクトは死の巫女に愛されているからな。色々と巡り合わせが良いのだ」
「そんな事はないと強く否定したい俺です……!」
「あー、なるなる。ベクトきゅんは探索者としての運命力に秀でているんだね! ……けどそれ、間違ってもダディの前では言わない方が良いよ。ベクトきゅんが最優先抹殺対象になっちゃうからね!」
「例のカルト教祖か。分かった、肝に銘じよう。ベクトが持つその運命力とやらが許せば、の話だが」
「オルカ、その冗談は笑えないって……!」
ダリウスもそうだそうだと言っています。え、同意しているのは死の巫女愛され力の方だって? だからマジで止めろよ? そのダディとやらの前で口を滑らせるなよ? フリじゃないからな?
「はいはい、この話は終わり! カードを差し込んでみるぞ! 二人とも、一応臨戦態勢でよろな!」
と言う訳で、カードをイン。直後、案の定と言うべきか、豪華な扉が開き奥への道を――うわ、奥の方も成金めいてるわ。何だよ、このゴールデンな通路……
「薄気味悪い堕落歓楽街からの落差が酷いな。カードは……差込口から戻って来た。毎回これを使わないといけないパターンか」
「ふむふむ? これは……」
「ん? クレちゃん、どうした?」
開いた扉の先を凝視し、何かを察知したらしいクレちゃん。俺のようにその金ぴか具合に驚いている訳ではないだろう。となると、何かがクレちゃんのセンサーに引っ掛かったのか。
「いや何、どうやらこの奥に大黒霊が居るみたいでね」
おう、よりにもよって大黒霊の巣でっか。
「あー……分かっちゃう感じ?」
「進んで直ぐ、って訳じゃないけど、どこかで巣に行き着くと思うよ~。さて、と……僕の仕事はここまでかな! 今日も最新を更新した事だし、そろそろお役御免させてもらおうか!」
「む、共に行かなくて良いのか? この扉はどうやら直ぐに閉まる仕様のようだ。ここで別れると、もうクレストロが入る事はできないぞ」
「かまへんかまへん! どっちにしろ向かう先が大黒霊の巣なら、今の僕に七体目の挑戦はちょいと早過ぎる。そのカードキーや時計塔のギミック発見はベクトきゅん達が発見したものだし、僕は他を当たらせてもらうよ。何よりも黒檻の世界は広い、ここ以外にも行き先は無限にあるからね!」
「そうか。クレちゃん、色々と助かったよ。出会い方はともあれ、今後も良い関係を築いていきたいと思ってる」
「それはこちらの台詞さ。今度も間近で純愛を堪能させてくれ! じゃ、そういう事で!」
マスクの額部分に閉じたピースサインを添え、ピッと払う気障な敬礼をするクレちゃん。その後、満足気な女神像に祈りを捧げたんだろう、彼の姿は消えて行くのであった。
「……どう思う?」
「今後も良好な関係を結びたい相手。だが同時に、かなりの危うさがあるのも確かだろう」
「だよなぁ……」
クレちゃんこと最新の探索者、クレストロ・デカルチ。自称最新の装備を纏う彼は、俺とオルカが束になっても敵わない相手、大黒霊を六体倒している大先輩だ。経験の差も相当ありそうだし、相当なハンデがない限りは話にならないだろう。幸い、今のところは俺とオルカの関係を勘違いして、良い協力関係を表面上は演出できているが……これがバレた時、相当に面倒な事になりそうだ。何せ自称純愛過激派、どれだけの怒りを向けて来るのか想像もできない。そしてその場合、俺達の命運は間違いなく最悪へと至る訳で。
「こちらの手の内をあまり知られなかったのは大きいな。攻撃される間際、ブリさんとハピさんを格納して存在を隠したのは流石だったぞ、ベクト」
「黒霊の使役は俺らの生命線だからな。敵か味方か定かじゃないうちは、同じ探索者だからって見せる訳にはいかないよ。あと、オルカの事も隠し切れたのは良かった」
「終始黙っておったワシのファインプレーも褒めて良いのじゃぞ? ほれ、余計な情報を与えんかったし」
「ああ、それも地味にありがたかったよ」
そういや、クレちゃんの魔具って何だったんだろうな。あのアームは流石に違うと思うし。
「他の上位探索者よろしく、可能であれば避けて通りたいもんだな……うし、今日のところは俺らも帰るか」
「先を確認しなくて良いのか?」
「仮に大黒霊の巣があるのが本当だったとしても、今の俺達に五体目は早いだろ。つか、今日も精神的に疲れたし……」
終始、新石橋さんのドラムを聞き続けるのも楽ではないのである。




