第179話 続・上位者達
鬱屈の探索者アラリャネ、白の空間に居ながらにして黒檻の探索を可能とする彼女は、とんっっっっ……でもなく陰気で他責思考であるらしい。しかも、あのクレちゃんが要注意人物に指定するほどだ。できる事なら遭遇したくないものである。まあ、ネッシーやツチノコ以上のレアキャラなら、そんな奇跡は起こらないだろうが。……おいダリウス、何か言いたそうにしているな? 言ってみ? 怒らないから言ってみ?
「ちなみにクレちゃんが一度見たってのは、探索者人形とアラリャネ本人のどっちなんだ?」
「ん? ああ、それで言えばどっちもかな。激レアなのは本人の方で、人形の方は割とどこでも見かけるよ。と言うか、起動していない時は割と放置気味?」
「放置? ……ええと、まさか人形って複数体居るのか?」
「……(ニコッ)」
おい止めろ、マスク越しになぜか見える気がする、その肯定スマイル。
「これはあくまで僕の予想だけど、人形は過去にアラリャネ本人が各地に置いたものだと思うんだよね。僕ら探索者は探索中に発見したものを白の空間に持ち帰るものだけど、彼女は敢えてそれをしていない。で、何らかの方法を用いてラジコンやドローンを操るが如く、白の空間と言う名の安全圏から人形を選び、それを操縦しているって寸法じゃないかな~」
「なるほどなぁ~……今更だけどクレちゃん、ラジコンとかドローンとかの知識あるんだね?」
「おっ、ベクトきゅんも知ってる感じ? もしかしたら僕らは似た世界、それでいて技術レベルが近い時代の出身なのかもね~。まっ、どんな世界、どんな時代でも純愛が正義なのは変わらないんですけどねッ!」
「デスネー」
どの世界、どの時代にも変人は居るものだしな。
「ええと、話を戻すけどアラリャネの人形ってのは、一体どんなものなんだ?」
「見た目は普通の探索者と同じ、てかアラリャネ本人と全く同じで容姿に差異はないかな」
「思ったのと違う人形だった……!」
てっきり、もっとゴーレムゴーレムしているものかと。
「そ、それってとんでもなく精工って事だよな? アラリャネもクレちゃんと同じで、自分でものを作るのに長けているとか?」
「んー、技術屋から言わせてもらうと、そういう技術とはまた別物な気がするんだよね。僕みたいな最新最強! ってよりも、もっと古臭い呪物的な何か……だと勝手に考察はしているけど、実際のところどうなのかは全然分からないや! へへっ、こっから先は君の目で確かめてくれ、ベクトきゅん!」
「いや、関わりたくないと言うとるに」
クレちゃん曰く、アラリャネの髪は水色で、前髪が長く目が隠れてしまうほど。イコール、人形も同様の見た目であるらしい。それが各所に眠るようにして放置されている、と……うん、まあそれだけ特徴的な容姿なら、一目でピンと来るかな。
「仮に動かない状態だったとしても、変に刺激は与えない方が良いよ。自動で反撃する機能くらいはありそうなものだし、それだけでアラリャネの恨みを買うには十分な理由だからね」
「頼まれてもそんな事はしないっての……でもって、次がいよいよラストの探索者か。もう既にお腹一杯だが、むしろそのお陰で驚きの耐性ができつつあるぞ」
へへっ、よほどの変質者じゃない限りは驚かないぜ、俺は! ……なんて強がりたいところだけど、この流れはどう考えてもフラグでしかないよな。はい、自分ですらそう思います。
「その耐性がちゃんと発揮されると良いんだけどね~。で、僕が最後に紹介するのは、好戦の探索者ルシウス・ルヴィンだ」
「好戦……また厄介そうな二つ名だけど、諸々のツッコミは話を聞いてからにするよ。どんな奴なんだ?」
「その名の通り、度し難いほどの戦狂いだよ。マチが痛みに生き甲斐を見出しているとすれば、ルシウスは戦いの中に生き甲斐を見出してる。でもって黒檻の探索者の中じゃ、純粋な戦闘力は頭一つ抜けているんじゃないかな? それくらい強いよ、彼は」
「げっ、クレちゃんにそう断言させるほどなのか?」
「う~ん、少なくとも真っ正面から戦ったら、いくら最新を纏った僕でも勝ち目はないかな~。僕は大黒霊を六体倒しているんだけど」
「六体!?」
マジかよ、クレちゃん六体も大黒霊を倒してんの? そりゃ強いわ、俺とオルカがタッグを組んでも敵わない筈だわ。けど、この流れって――
「彼は全探索者の目標である八体分を既に倒しているって噂があるくらいだからね」
「は、八体!?」
おいおい、それって死の巫女に会う条件の数じゃなかったか? 大黒霊八体を屠れば死の巫女への道が開かれ、彼女を発見する事で失った記憶が元に戻る。それでいて願いを叶える事ができる――だったっけ? 兎も角、探索者としての目標は達成できている筈だ。
「……そいつ、もしかして死の巫女に会えない理由が何かあるのか?」
「さてね~。彼ってば無口でさ、その辺の理由はさっぱりなんだ。まあそれでも最新の僕にかかれば、ある程度の推測は可能! 多分だけどルシウスの奴は、異常進化種に勝つ事を目的にしているんじゃないかな」
「異常進化種ってぇと、マムとかに? いやいやいや、何でだよ? 別に死の巫女を発見するだけなら、異常進化種を倒す必要なんてないだろ?」
「僕らにはないけど、ルシウスの奴にはあるんだよ。さっきも言ったけど、彼は好戦の探索者と僕が勝手に命名するほどのバトル馬鹿だ。そんな彼が大黒霊八体を倒し、探索者の中でもトップクラスの力を持つようになった今でも、異常進化種に勝つ事はできない。そんな状態で死の巫女に会って願いを叶え、黒檻の世界を離れる――ようになるのかは知らないけど、少なくともルシウスにとっては遺憾なんだよ、そんな結果は」
「つまり、異常進化種を全て討伐するまではゴールするつもりがない、と?」
「まっ、あくまで僕の推測だけどね。誰にでも危害を加える恐れのあるアラリャネとは違って、ルシウスは自分よりも弱い奴には興味を持たないタイプだ。気になるのなら、直接会って話を聞いてみるのもアリかも――って、彼は無口だったわ無理無理! それに将来的なバトルセンスとかを気に入れられたら、それなりに面倒な事になるかもね、ヒャッハハ!」
おし、俺は決めたぞ。今後これら探索者達には極力関与しない! かかわらない触らない、ってな!
「あ、そうだ。ベクトきゅんとオルカちゃんにも二つ名を考えてあげるよ。まだ最新にはほど遠いとは言え、この堕落歓楽街に足を踏み入れられるのは確かだからね。今後、僕の中でその名が轟く事になるから、一生懸命考えなきゃ!」
「え? いや、別にそれはいらな――」
「――閃いた! 今日から君達は純愛の探索者だ!」
「おい止めろマジで」
誰も求めていないぞ、そんな二つ名。
「ほう、純愛の探索者か……!」
「オルカさん?」
なぜにこのタイミングで覚醒を?
「とまあ愉快な話で締めたところで、僕からの情報はこんなところだ。どう、贖罪に値するものになったかな?」
「ああ、二つ名の話は返還するとしても、想像以上に為になったよ」
「それは良かった。何もなければここでお別れだけど、他に何か要望はあるかな? 僕渾身の二つ名を受け入れてくれた悦びを含めて、できる事なら何でもやっちゃうよ! そう、何でもだ!」
「別に受け入れてないし、そこまで強調されると逆に要望し辛い――ん? そう言えば……」
この時、俺の脳裏に思い浮かんだのは、歯車に挟まれ苦し気な表情を浮かべ(ている気がす)る時計塔の女神像であった。




