第178話 上位者達
クレちゃんが最初に紹介してくれたマゾ――否、被虐の探索者、マチ・イタミ。彼女は痛みが何よりも大好物であり、自らマムに捕まるほどの変わり者であるらしい。マムに捕まるってのは、まあ詳細の描写は諸々省くとして、ペットとして飼われるって事だ。この点だけを聞くと度し難い変質者にしか見えないが、ひょっとしたら彼女にも高尚な真の目的があるのかもしれない。そう見せかけて、実はマムに捕らえられた他の探索者を救出するのが目的! とかな。
「ちなみにマチは拷問を受けるのも趣味の一環としていて、受ける側なのに拷問の駄目出しをする時もあるらしいよ。何か自分でそう言ってた」
……マジで趣味の一環で捕まったのかなぁ。
「って、黒檻の世界に拷問をするような奴なんて居るのか? もしかして、探索者が探索者に?」
「いや、流石にそんな事を好き好んでやる奴は居ないよ。ごく一部を除いてはね!」
それってごく一部には居るって事じゃ……
「エリアによってはそう言う残虐行為をする黒霊も居るって事。まあ、マムの超下位互換だと思っとけば良い的な?」
「そんなエリア、絶対に行きたくねぇ……」
「うんうん、普通はそうだよ。でもマチは敢えて、いや、喜んでそこに飛び込み住み始める性分なんだ。拷問が気に入れば暫くはそこでバカンス、温かったら駄目出しをした上で仕留める、みたいな」
「全然理解できない……! けど、確かにそれはマムに捕まったのも趣味の一環、なのかも……」
「でしょ~? って、ベクトきゅんってばマムの事は知ってるん!? 二人一組とは言え実力的にまだまだなところがあるし、知らない前提で話していたんだけど!?」
「あー、そういやさっきも聞かれたっけ。ええと、どう話せば良いかな」
クレちゃんに夢魔の森でマムと会敵した事を大まかに説明する。もちろん、祝福とか気に入られた事は省いてだ。何か謎の浮気判定に入りそうだし。
「あのマムと出会って生きている、だと!? よ、よく生きていたね、本当に……」
その上で、何かめっちゃ引かれた。
「後になって案内人に異常進化種についての説明を受けたんだけどな。……その反応から察するに、クレちゃんクラスの探索者でも避ける相手だったりする?」
「するする、めっちゃ避ける。と言うか、どんなに強くなっても異常進化種は単独で戦う相手じゃないから。あり得ない話だけど、対抗するには最上位の探索者が全員協力しない限りは無理なんじゃないかな。うん、あり得ない話だけど」
「そんなに協調性がないのか?」
「いやいや、だって探索者って上澄みほど我が強いじゃん。さっきのマチの話で理解したっしょ?」
「……もしかして、さっきのと同レベルの話がこれからの紹介でも展開されたりする?」
「……(ニコッ)」
マスク越しに笑顔が見えた!?
「まあマチが今どこに居るのかは分からないけど、マムの下で充実した奴隷ライフを満喫しているんじゃないかな? 後にも先にも自分から異常進化種に突撃するのはマチくらいなものだけど、それで死ぬとはとても思えないし」
「変な信頼の仕方だなぁ……で、それと同レベルな他の探索者は、あと何人居るんだ?」
「ひぃ、ふぅ、みぃ……安心してくれ、あと三人しか居ないから!」
そうかぁ、あと三人も居るのかぁ。
「あー、何かショックがでかかったかな? じゃ、次は比較的マシなところで。ダディって言う自分でカルト宗教を開いた教祖系探索者が居るんだけどさ。言うなれば、そう、彼は狂信の探索者!」
「すまん、それって本当にマシな方?」
並んだ字面でマシな要素が見当たらないんだが?
「うん、死の巫女を盲信していて、そこしか見えていない辺りが純愛っぽいからね!」
さて、どこからツッコミを入れるべきか。
「まあ純愛云々は流れで理解したとして、死の巫女って、あの死の巫女? 黒檻の管理人、俺ら探索者にとってのゴール地点――と言って良いのか分からないけど」
「そそ、ベクトきゅんの知るその死の巫女で合ってるよ。ダディは元々信仰心の強い神父だったんだけど、長年の探索者生活を経て人生観が変わったみたいでね。ある日を境にあっさり改宗しちゃって、それ以降は自己流カルトにどっぷりって訳。もちろん崇める対象はさっき言った死の巫女で、彼の中では全ての神を統括する最強の女神様になっている……だったっけ? 見方によっては純愛ジャンルだったから、それだけは覚えていたんだ! 僕ってば偉いね!」
偉い! ……うん、偉いけど俺の不安は爆増中だ。
「ちなみに、もし出会ったら布教してくる感じ?」
「いや、それは全然。むしろ下手に入信しようとすると、全力で殺しに来ると思うよ? 女神からの恩恵は自分だけが独占できるもの、故に他の信者は全殺って方針だから」
「……それ、カルト宗教っつうか激重な拗らせファンなんじゃ?」
「だから広義的には純愛なんだって。ただ感情が一方的で独善的、その辺りが僕の残念ポイントなんだよね~。だから総合的にはナシ、広義的には異教徒判定なのさ!」
「そ、そうか……」
クレちゃんはクレちゃんで拗らせてんだよなぁ。
「まあそれであれば、俺やオルカは会っても大丈夫そうかな?」
「多分ね。褒めても貶してもアウトだけど、基本、死の巫女の話題に触れさえしなければ問題ないと思うよ」
「他の奴が話題に上げるにも駄目なのか……」
「何か理由がない限りは止めておいた方が無難だね~。見た目は正に教祖! って感じだから、会えば直ぐにダディだと分かると思うよ。馬鹿デカい十字架と祭壇を背負ってるし、まず見間違えないかな」
「見た目がオンリーワン過ぎない?」
「ハハッ、最新の僕には劣るけどね! ええと、今の居場所は……雰囲気が死の巫女っぽい場所、かなぁ?」
「どんな場所だよ……」
霧裂魔都の大聖堂とか?
「あ、言っておくけど僕らはレベルの低いエリアにはまず行かないよ。全員の趣味趣向から外れるし、今更そんなレベルの低い場所に行っても時間の無駄でしかないからね~」
「あ、そうなのか。……何か異常進化種みたいな特性してんな」
「ッ!? クッ、あんな化物と一緒にされるのは心外だけど、言われてみれば確かに……!」
「ドンマイ。で、残る二人は?」
「おかしいな、ベクトきゅんのスルースキルがレベルアップしている気がするぞっと。まあ、純愛を突き通してくれるなら別に良いか……三人目はアラリャネかな?」
「え? アラ、アララ――コホン、アラリャネ! うん、アラリャネね? ふう、めっちゃ噛んじゃったよ……ちなみに、クレちゃん的にアラリャネはどんな探索者なんだ?」
「鬱屈の探索者、かな!」
「う、鬱屈かぁ……」
また何ともどよどよしていそうな異名である。
「本人は白の空間に引きこもりがちで、黒の空間に出て来るのは超稀だね。僕も一回しか見た事がないくらい稀! まだネッシーやツチノコを捜す方がマシ!」
「それもう実質会えないって言ってない? いや、会う必要があるかって言われると、別にそう言う訳でもないんだけどさ」
「んー、それがそう簡単な話じゃなくってねぇ。どういう裏技を使っているのかは分からないんだけど、アラリャネは白の空間に居座ったまま、黒の空間の探索をする事ができるんだよ。具体的に言えば、自分を模した探索者人形を黒の空間に送り込んで、代わりに探索させる!」
「……え、どう言う事?」
「うんうん、分かるよその気持ち。意味が分からないよね。引きこもったまま探索を進めるなんて、出会いの場を捨てているようなものじゃないか! そこに愛の出番はありますかぁッ!?」
「お、おう……」
クレちゃんの独白はさて置き、そんな事が本当に可能なら、確かに自身で黒の空間に赴く必要はないだろう。マジでどんな手を使っているんだろうか?
「あ、でもある意味でアラリャネには気を付けた方が良いよ。性根がどん底ネガティブ根暗要素の塊みたいな奴でさ、少しでも相手を嫌ったら一生根に持つタイプなんだ。言うなれば、超悪質なストーカー気質? そうなったらマムに目を付けられるくらい面倒だぞっと!」
「面倒な奴しか居ねぇな、おい!?」




