第177話 クレストロ・デカルチ
「さて、純愛派と認めたからには、君達は僕の大切な友人だ! 何と言ったって純愛派だからね! こんな世界だからこそ、純な愛を貫くべきだと思うんですよ、僕ぁ! その点において君達は合格も合格、と言うか探索者同士がつるんで黒檻の世界を巡る事なんてあるんだね、奇跡! いや、それ自体は本当に喜ばしい事なんだけど、実際にその奇跡を目にするのは、これが初めての事だからもうテンション上がっちゃって怖い! あ、ここでひと笑いしても良い? ヒャッハハハハッハッハッハ! ……失礼失礼、今のも僕から君達への祝辞とでも思っておいて! 思うのは自由だからね、フリーダム!」
「な、なるほど……?」
「っと失礼、自己紹介がまだだったっぽい! 僕の名はクレストロ・デカルチ! 君らと同じ探索者ではあるけれど、誰よりも最新と言う名が似合う者としての自覚がある! 周りの皆はクレちゃんと呼んでるよ! まあ、僕の周りに探索者は集まらないから、今のところ推奨ニックネームでしかないんだけれどね! と言うか、同業者に会う事自体がレアケース過ぎて推奨もできないって言うか? 最後に会ったのはいつの事だったかな? うん、本気で忘れた! まあそれくらいどうでも良い事だったって事だ! 多分相手は異教徒だったんだろうね、反純愛派の変態だったんだろう! きっとそうだ!」
「は、はぁ……」
どうしよう、マスクド探索者もといクレストロ・デカルチもとい、クレちゃんのトークが止まらない。微妙に背景が読める内容ではあるが、今のところは中身がないに等しいだけに、マジで何とも言えねぇ。この流れと止める為にも、俺から何か言っておくべきだろうか。
「あー、折角なんで俺らからも自己紹介を。俺はベクトで――」
「――私はオルカだ」
「ほう、ベクトきゅんにオルカちゃん……で、ファミリーネームは?」
「え?」
「いや、だからファミリーネームは? 純愛系夫婦探索者なのだから、お揃いのファミリーネームは必須でしょ? これ、常識」
「……いや、ファミリーネームはないんだが」
「なん、だと……!? あっ、なるほど、夫婦ではなく恋人の段階かッ!? それならば納得、納得するしかないですよ! 今が一番楽しい時期じゃん、やだなぁもう、勘違いしちゃうところだったよ僕ぁ!」
「「……」」
これは……そういう事にしておいた方が良いんだろうか? 何か否定したら更に面倒な事になりそうな気がする。新石橋さんがドラムを叩きながら必死にそう訴えているし、勘さんも首を横に振っているし。
「……」
あれ、何でオルカもオルカで少し頬を赤らめているの? そ、そういう感じだったっけ、オルカ? いや、俺も意識しちゃうんですけど?
「おお、マジで初々しいな、おい。こいつは決定的だ。クッ、いつまでもお幸せに……! ナイス純愛! フォーエバー、純愛ッ! 結婚式には是非呼んでね! いっぱい御祝儀と言う名の投げ銭を投げるよ!」
「ど、どうも……」
「いやはや、誤解が解けて良かったよ! 誤解と言えば、さっきは悪かったね! まさかこんなにもお熱い同業者が同じ空間に居るとは、僕の作品をもってしても予想外だったんだ! いや~、僕も理想の相手と早く出会いたいものだよ! まっ、こんな世界で生きているうちは土台無理だと理解しているし、だからこそ作品にお熱なんだけれどね! ベクトきゅん、彼女を大切にしなさいよ~? うりうり!」
「えっと、もちろん……?」
にしても距離の詰め方が凄まじいな、この人……!
「うーん、しかしこんな言葉だけの謝罪をしたところで、真のお詫びにはならないか? ベクトきゅんにオルカちゃん、何かこの最新の僕にやってほしい事とかあるかな? 今のご機嫌な僕なら、喜んでお手伝いしちゃうよ? ものづくりにかけては最新だからね、僕ぁ!」
「良いのか?」
「良いのだ!」
おっ、これは思いも寄らぬところから、協力体制を築ける流れが来たか? ただ、まだ知り合って間もないこのタイミング、クレちゃんを本当に信用できるかは未だ不透明で、その装備とやらに変な仕掛けが施されないとも限らない。さて、どう答えたものか。
「まあウエディングドレスを仕立ててくれと言われたら、今のテンションだと完全武装化したバトルドレスになりそうだから、その線ではあまりおススメはしないかな! ボタン一つの押し間違いで、式場が火の海になっちゃうからね!」
……うん、やっぱり装備の方向は縁がなかったと言う事で。
「ええと、それはまたの機会に……今はそれよりも、クレちゃんの知る探索者について教えてほしいかな?」
「は? 浮気でもするつもりか……!?」
「違ぇよ、単純に同業者の情報が欲しいだけだよ……!」
「……なぁ~んだ、そういう事か~。僕、また最新の誤解をしちゃったよ。シット、僕とした事が純愛を疑ってしまった! これはもっと謝罪しなければ……!」
よし、段々と地雷の設置場所が分かって来たぞ。誤って踏んで爆発した時がマジで怖いな、これ。
「……」
で、オルカはいつまで赤くなってんの? 演技か? 演技なんだよな?
「ええと、僕の知る探索者についてだっけ? 良いよ良いよ、それくらい。別に隠すような事じゃないからね~」
「何か軽いな。結構重要な情報だと思うけど」
「うん、だって僕自身の情報って訳じゃないもん。とは言っても、そんなに数は多くないし、会ったのも相当昔の話だから、この話自体は全然最新じゃないって点には注意してね?」
「ああ、了解した」
「まずはどこから話そうかな? うーん、最後に会ったどうでも良い変態は……ああ、そうそう! マチだ、マチ!」
切り離したアームを拾い、背中にガコンと取り付け直しながら思い出すクレちゃん。そのアーム、そんな簡単にくっつくのかよ……
「マチ?」
「うん、マチ・イタミって女の探索者。君のような黒髪で僕が認めるくらいの美人さんなんだけど、それ以外の要素が残念で――あっ、美人と言っても、僕的にはオルカちゃんの方が綺麗だと思うよ! ヒューヒュー、幸せにしろよこの野郎!」
「待て待て、脱線しとる脱線しとる……」
器用に指笛まで吹きおって――いや、マスク越しにどうやって吹いてんの、それ!?
「で、そのマチって探索者のどこが残念なんだ?」
「いやあ、もう容姿を抜いたら全てが残念って感じ? 見た目はいかにもなクールビューティーなんだけど、実際のところは極度のマゾヒストでね。僕が最新の探索者としたら、彼女は被虐の探索者とでも呼べるかな?」
「マ、マゾ……」
おお、相棒と趣味が合いそうじゃのう! と、ダリウスが無言でそう言っているような気がしたので、軽く小突いておく。
「いやあ、本当に理解できない趣味だよ。毒沼があればストロー持参で飲み始め、マグマが流れていれば自ら飛び込み、初見の攻撃が迫ればとりあえず受け止める変態だからね」
「そ、それはマゾヒストの域を超えているのでは……?」
「この世界の痛みは全て私が受け入れる! お前らになんてやるものか! なんて、大真面目に公言するような奴だから、まあある意味で超越者かも。多分、構成している霊刻印もおかしな事になっていると思うよ、アレは」
「絶対に真似したくはないな……それで、そのマチって人とはどこで?」
「暫く前の話だから場所までは覚えてないかな~。けど、ちょっと至高の痛みを体験してくる! とか何とか、わざとマムの根城に捕まりに行くとか言っていたよ。あ、マムって知ってる?」
「……」
どうしよう、初っ端から理解不能だ。
「ふむ、なるほど、これが好意……」
そしてオルカもよく分からない状態に陥っている。本当にどうしよう?




