第175話 マスクド探索者
マスクド探索者の間近で起こった爆発は、これまで目にして来たものと遜色ない威力を誇っていた。要は俺なら一撃で死ねるであろう、そんな高火力だったのだ。つうか、爆発に青霊もどきの血も混じっているから、尚更に洒落にならない攻撃なんだよね、アレ。今の俺らは耐性を持っているから別に良いが、そうでなければ悲惨の一言だ。
「く、うっ……これだけ離れていても衝撃が凄まじいな……!」
「おいおい、流石に今のは死んだのではないか? もろだったぞ、もろ」
「思いっ切り悲鳴を上げていたからな。あそこまで至近距離だと、躱す手立ては――むっ」
爆風がギュルギュルと渦を巻き始め、竜巻の形状へとその姿を変化していく。次第にそれらは周囲に四散して行き、やがて爆破が起こった中心部を見通せるほどにまで晴れ渡った。
「ヒィィヒャハハハハハハ! ビビった、今のはビビっちゃった! 目の前で自爆とか、洒落にならない蛮行を働いてくれるものだよ、全くもう! でもどうかご安心を、僕はこの通り無傷――とまではいかないけど、まだ全然やれる感じなのですよッ! 僕の最新鋭作品の前では無力無力無力ぅ~~~!」
で、そこから現れたのは多少装備が焦げ付いた、あのマスクド探索者。どうやら背中の腕を振り回し、爆風を吹き飛ばしてしまったようだ。でもって、この長台詞からも分かる通り、あの爆発を直に受けたってのにダメージを殆ど受けていない。冗談みたいに元気である。
「何事もなかったかのように戦闘続行しておるの。怖ぁ……」
「やせ我慢してるって線は?」
「あの爆発をやせ我慢できるのなら、それはそれで大物だよ。まあ、実際にダメージがない線が濃厚だろうか。奴の口振りから察するに、作品――要は奴の装備性能が凄まじいのかもしれないな」
「えっと、もしかしなくても自作の品か?」
「戦いの最中に素材云々とか言っておったし、可能性はありそうじゃわい。言ってしまえば、グレアの娘っ子と同じタイプの探索者かの」
グレアさんと同じタイプ……そう言われると納得し辛いっつうか、何つうか。けど、言わんとしている事は分かる。仮にマスクド探索者が鍛冶師系統を極めてここまで来たのであれば、あのよく分からない装備があるのも納得できる――
「僕の技術は常識に囚われず! ほらほらほらぁッ! もっと必死にならないと、その可愛いお顔が吹き飛んじゃうよおおおおおって、もう遅いか! ごめんねッ!」
――いや、何かアームの先から短いビームらしきもんをぶっ放し始めたな? しかも、あれだけ強固な青霊もどきの土手っ腹に、一発で大穴を開ける威力だ。……何その未来兵器?
「アレって鍛冶師云々で会得できる技術?」
「素人のワシらに分かる筈もなく……」
「今度、グレアに確認する必要があるな」
「グレアさんも流石に専門外なんじゃないか?」
まだ短時間しかマスクド探索者の戦闘を見ていないが、そのスタイルは朧気ながらに分かって来た。近距離から中距離にかけては背中のアームを使い、常に有利な位置を陣取っての殴り合いに興じている。アームの動きは青霊もどきのスピードを軽く上回り、四方から一斉に迫られても対処可能。オマケにあの頑丈さを貫通できるほどのパワーも備わっているから、基本的に一発で黒霊を仕留め――いや、待てよ? 一発で仕留めているって事は、奴には青霊もどきの弱点が見えているのか? それとも、その力もまた自慢の作品とやらの効果の一つ、なんだろうか? ううむ、分からん……
上空にて攻撃の機会を窺う逆ハーピィに対しては、さっき放出していたビーム弾で対応。これも例の如くとんでもない威力で、アームの一撃と同じく一発で青霊もどきをノックアウト。機関銃の如く連射! ……は流石にできないようだが、それでも一定の間隔で再び使用可能となるみたいだ。見た感じ、六本のアームがそれぞれ別枠でチャージしている仕様かな。六本分同時に発射しない限りは、常に別のアームが次に撃てる状態を維持していると思う。つか、実際そんな風に戦っている。一見荒っぽい戦いをしているように見えるが、その辺りの配分はしっかりしているようだ。
「なんて、上から目線で言える立場じゃ全くないんだが、見た目以上に冷静なのは敵対した時に厄介な要素だな」
「バデンの時のようにはいかない、と言う事か」
「協力関係を築ければ、こうして胃を痛める必要もないんじゃがなぁ」
いや、ダリウスお前、胃とかないじゃん。などと言う不毛なツッコミを心の中でしつつ、マスクド探索者からは視線を外さない。あれだけ引き寄せられていた青霊もどきの大群は、今や半数を切っている。このまま行けば問題なく殲滅されるだろう。
「できる事なら変身前に潰したい、全ては僕の目の保養に為に! あと仮初であろうと女の子と会話がしたい、全ては僕の心の平穏の為に! さあ、僕の作品をもっと見て、存分に味わってくだされ! このバージョンと戦えるのは本日限定、なぜなら最新は常に更新されてこその最新なのだからッ!」
「……しかし、よくあのテンションを維持できるもんだな」
「発散しとるんじゃないか、色々と」
「常に高い士気を維持できている、と考えればあながち馬鹿にならないぞ。あれだけの連戦を重ねても、集中力や体力を欠いている様子がない」
「確かに、言動とのギャップが凄まじいな……」
激戦は尚も続いている。ただ、マスクド探索者が新たな手札を見せる気配はない、か。まあ、これ以上の奥の手を出す必要がないほどに、戦況はマスクド探索者が支配しているからな。当然と言えば当然である。後はもう、どのタイミングで接触を図るかが問題かね。
「それでも、あれだけ作品を見せびらかしたい奴なら、多少なり情報を出す可能性が――オルカッ!」
「受けるな、避けろッ!」
俺とオルカは左右に分かれ、その場より全力で飛び退いた。
「野郎、今までこっちを見向きもしてなかった癖に、唐突にビーム弾を撃ってきやがった……!」
ビーム弾は俺らが隠れていた遮蔽物を貫通――どころじゃない。建物の屋上部分の一部までもを抉って行きやがったぞ!? 見た目よりも範囲が広い、いや、射程が長くなるほどビーム弾がでかくなったのか? クッ、ここに来て新事実が判明するとは……!
「おっ、何か潜んでいるなとは思っていたけど、やっぱ居たでげすねぇ。僕のセンサーから隠れようったって無駄無駄! 何と言っても、この僕が手ずから創造した最新の作品なのだから!」
「センサーだと? チッ、あのマスクの機能か!?」
マスクド探索者はまだ青霊もどきと戦っている最中だが、それが奴の手枷に認定するには些か力不足。どうする、このまま戦闘に突入するか? それとも敵でない事を弁明し、覗き見していた事を謝罪するか?
「むむっ、この辺りでは見た事のない黒霊ですねぇ!? つか、男と女が対になってる? 希少種? まさかの希少種? つまりは希少な素材が貰えるって事? なら狩るしかねぇ、このビッグな好機でッ!」
そんな大声で長台詞を吐いて喉は疲弊しないのかと聞きたいが、今はマジでそれどころじゃない。周囲の青霊もどきを一通り倒し終わったマスクド探索者がこちらに向き直り、今にも攻撃を仕掛けて来そうな雰囲気を晒している。これは一刻を争うどころの話じゃない。ああもう、決断するしかねぇか!
「落ち着け、俺らは探索者だ! 戦闘の様子を覗き見していたのは謝るが、別に敵対したい訳じゃない!」
「嘘つけえええええ! 犯罪者は皆そう言うんだよおおおおおッ!」
「黒霊は犯罪者じゃないだろ!?」
俺の弁明も空しく、マスクド探索者は追加のビーム弾をぶっ放しやがった。クソッ、やっぱ新石橋さんのドラムさばきは正しかったのか!?




