第174話 新石橋さんの趣味はドラム
先行してハピさんに窓の外へ出てもらい、状況を確認してもらう。詳細は不明だが、青霊もどきの自爆が起こったのは間違いない。となれば、周囲の黒霊達にも影響が出ているだろう。
「この辺りは~、大丈夫だと思う~……?」
若干疑問形なのが気になるが、彼女の言葉を信じて俺達も外へ。上空にて周囲警戒を行うハピさんに続いて、俺達も周囲を見回す。
「……確かに、この酒場の周囲は問題なさそうか。青霊もどきが居るには居るが、待機状態のままだ」
「だが、ベクト」
「ああ、分かってる。向こう側の何ブロックか先は……軽く地獄だな」
俺とオルカがそんな話をしている間にも、さっきみたいな爆発音が視線の先より鳴り響いた。今回は外に居た事もあり、バッチリとその場面を目に焼き付ける事に成功。おいおい誰だよ、連続で人爆弾にちょっかい出している奴は? あっ、また爆発した。
「建物越しで爆発しか見えないけど、何かが起こっている事だけは確かだな」
「空にハピさんの同胞らが何体か見える。動きからして明らかに戦闘中、誰かと戦っているのだろう」
「誰かとは?」
「エリアによっては黒霊同士で戦う事もあり得るが、堕落歓楽街でそのような傾向は今のところ見られない。となると、私達以外の探索者である可能性が高い」
「俺ら以外の……」
堕落歓楽街に足を踏み入れられる、それどころかあんな無茶な戦い方を許容できる探索者、か。それが本当なら俺らよりも強いのは明らかな訳だが、マジで実在したんだな。
「夢魔の森で見たって言う、例の探索者かな?」
「困った事に、私ではその問いに答えられない。どうする、直に見に行くか?」
「えっ、あんな頻繁に爆発が起こっている現場にか? すんごく危険だと思うのじゃが……」
ダリウスの言う通り、あの戦いの最前線に近付くのは危険が伴う。使役した黒霊を使って安全な探索を目指す俺らとは違い、あの戦いの中に居る謎の探索者は相当に好戦的だ。探索者同士だからと言って、争いにならないとは限らない。クソハゲの件もあったから、尚更に警戒してしまう。そもそもの話、堕落歓楽街の黒霊がむやみやたらに起動してしまっているであろう、あの火中に飛び込む事自体が愚かな行為に当たるっつうか。探索者として石橋を叩くのなら、無視して見なかった事にするのが安牌だ。
「……けど、これを逃したらもう暫くは会えないよなぁ」
「まあ、会えないだろうな」
「探索者の街と言う例外を除けば、普通は遭遇できんもんじゃからな、探索者と言うものは。このクラスのエリアともなれば、尚更にそうなるじゃろう。噂話を情報源にするのもアレじゃが、早くも遭遇できたのが奇跡じゃよ」
だよなぁ。この場所、このタイミングで戦闘に遭遇できたのは奇跡も奇跡……そんな奇跡が日常的に起こっている気がするのは、まあいつもの事として。
「包み隠さずに言うけどさ、あの探索者と会ってみたいのが俺の正直なところだ。協力するにしても、敵対するにしても」
「ふむ、その心は?」
「一番のメリットは情報だ。堕落歓楽街を鼻歌交じりに攻略できる相手なら、俺達が知らないような事を知っている筈。仮に情報共有が可能なら、この点は見逃せない。他の上位探索者についても知っているかもしれないしな」
「確かにのう。じゃが、さっき相棒も言ったように、敵対するかもしれんぞ?」
「それはそれで、その探索者について知る機会になる。今の俺達とそいつの間にどれくらいの差があるのか、俺達とは違うどんな抜け道を通って強くなったのか、ヒントくらいは分かるかもしれないだろ? もちろん、その場合はとんでもなく危険が伴うだろうけどさ」
「ふむ、いつも石橋を叩いておる相棒らしからぬ発言じゃのう」
自分でもそう思うよ。爆発が起こった時から嫌な予感がしているし、新石橋さんも俺の心の中で元気にドラムを叩いているくらいだ。が、その隣で勘さんが難しい表情を作って悩んでいるのも、また事実な訳で――つまり、判断が難しい!
「オルカはどう思う?」
「メリットもデメリットも大きいな。虎穴に入らずんば、とはよく言ったものだ。その上で、会うのはアリだと思うぞ。少なくとも、こちらが不意を打たれる状況ではないからな。それにだ、どのような展開になるにしても、異常進化種であるマムに遭遇するよりかはマシだろう」
「それを言われると、反論できんのう……」
うん、マムだから仕方ないね。
「最悪、会話せずとも遠くから見るだけでも良いんだ。それだけでも相手の見た目、戦闘スタイル、その他諸々が分かるってもんだろ?」
「よし、そうと決まれば向かうとするか。例の如く空を移動して行くか?」
「そうしよう」
方針が決まったところでオルカを魔具の姿に戻し、ハピさんに先導役を頼む形で現場へ急行――あ、違った。道中の青霊もどきを刺激しないよう、かもしれない運転な気概で鈍行するのであった。
「ふう、移動中に戦闘が終わらなくて良かった」
「おもっくそ時間をかけたのう……」
無事に数ブロック先の建物、その屋上へと何とか辿り着く。で、オルカを再び探索者モードに変化してもらって、と……ここらで一息入れたいところだが、ダリウスソードに更なるツッコミを入れられそうな為、もうひと踏ん張りせねば。つか、ここからが本番だ。俺らが隠れている塀の向こうから、ドガンドガンと激しい戦闘音が鳴り続いている。あの爆発からそれなりに経っている筈だけど、未だに戦いが終わる気配はない。
「オルカ、上手く隠れつつ状況を探るぞ。ここはまだ戦闘の中心地から離れてはいるけど、それでも視界に入ればギリ認識できる距離だ」
「ううむ、外して来た『隠密』があれば良かったのだが、それを言っても今更だな。では、こっそりと覗き見するとしよう」
「ワシ、何だかいけない事をしている気分……!」
最後に戯言が聞こえた気がしたが、当然の如く捨て置く。そのまま気配を消し、オルカと共に物陰よりそーっと覗き込むと、そこには――
「興味あるの、私に興味あるの~……?」
「変わったマスク、それって流行りもの……?」
「見せて見せて、私に見せて……」
「ヒャッハハハハ! モテる男は辛いですなぁッ! でもごめん、僕ってば純愛過激派なんだ! でもって新品しか受け付けないのッ! 本当にごめんお詫びに素材として使ってあげるぅぅぅッ!」
――青霊もどきとの熱烈な会話をしながら(?)戦闘を行う探索者らしき男が居た。鳥のくちばしのような形状したマスク、ええと、ペストマスクって言うんだったっけ? 奴はそんな妖しさ満点なマスクで顔を隠していた。更に頭にはシルクハット、体にはスーツにマントと言う出で立ちで、どこを見ても黒一色だ。素肌を晒している箇所はなく、正に全身防備である。
「どうしよう、姿も言動も奇天烈だ……」
戦ってハイになっている可能性もあるが、今のところまともに会話できる自信がない。バデンを抜いて過去一に危ない探索者にしか見えないし……これは今が帰り時か?
「けど、言動よりも気になるのは……」
「ああ、あの意味の分からない武器だ」
奴の背中には伸縮する六本の腕が、いや、アームの一種なんだろうか? 鞭の如くしなり、ゴムのように伸び、鉄腕さながらに対象を撃滅する武器が備わっていた。それは攻撃だけでなく移動にも活用できるようで、建物の壁などを使って疑似的な空中殺法を実現。四方から迫り来る青霊もどきの猛撃を、驚く事に同時に相手して――
――ドッガアアアアアン!
「うばあああああああ!?」
青霊もどきが奴の間近で爆発しちゃったよ。直撃だよ。凄い悲鳴だよ。




