第173話 謎のカード
堕落歓楽街の探索は屋内を中心に行う事にした。と言うのも、外の通りはその場を動かない青霊もどきが点在していて、とてもじゃないが歩き回れない状態なんだ。数十歩歩くごとにバトル、なんて流れは絶対に避けたい。時計塔の時とは違い地の利がなく、ある程度接近してからの戦いになってしまうからな。そこで自爆が起こった日には……想像もしたくない展開だ。
「建物の屋根や屋上まで『空蹴』で移動して、入れそうな場所を厳選アンド探索。もちろん、先陣を切るのはブリさんとハピさん――完璧な作戦だな!」
「相棒、急にどうした?」
「いや、何か説明しなくちゃいけない気がして」
ちなみに空を飛ぶ際はオルカを魔具の状態に戻し、俺とハピさんのみで移動している。
ああ、そうだ。今更だが改めて紹介しよう。狂犬ブリッジのブリさん、逆ハーピィのハピさんだ。当然の事ながら、命名したのはオルカである。まあ、うん、これで多少は親近感が生まれるんじゃないかな。……生まれるかなぁ?
「さて、この建物は看板に樽ジョッキが描かれていたから、酒場っぽいな」
「看板健在の店は分かりやすいが、中には破損している場所もあるからのう。そこに行く場合は、入ってみるまで何の店か分からんな」
「だからこうして、分かりやすい店を選んでいる訳で……おし、この窓から入れそうだな。ブリさん、頼んだ」
「うふふ、任せて任せてぇ~……」
人型のままブリッジし、そのまま屋根から壁へ、そして建物内部へと入って行くブリさん。人爆弾が居たら屋根部分も危ない為、その間に俺達は隣の屋根で待機である。……にしても、だ。
「変身しなくても、移動方法はあんな感じなんだな」
「流石に移動速度は遅いようじゃがの。いや、そもそもあんな体勢で壁も移動できるのがおかしいんじゃが……」
「人体の神秘だな。ハッ、もしや鍛錬を積めば私にもできる……!?」
「「やめれ」」
俺達は全力でオルカを止めるのであった。そう言うボケはダリウスの仕事だろと。
「相棒、今凄まじく失礼な事を思わんかった?」
「お前に対する信頼の表れだよ」
「ちゅ~も~く、ちゅ~も~く……」
とまあ、そんな馬鹿な事をしているうちに、ブリさんが窓から顔を出して、問題ないと合図を出してくれた。どうやら、あの酒場(仮)には黒霊が居ないようである。俺達はブリさんの後に続き、窓から酒場(仮)へ侵入を果たす。
「外から見た感じだと、三階くらいはありそうな建物だったな。ここは……宿用の部屋か?」
となると、すっかり我が家となった大猫の飲屋と同じ構成、一階部分が酒場スペースで、それ以外は宿として活用していた感じかね。尤も、ここの部屋はベッドなどの家具が壊されていて、とてもその機能を発揮しているとは言えないが。つか、扉まで外れているじゃんか。
「あー、ブリさん? さっきの探索中、ものを壊したりした?」
「壊してないよぉ、そう言うのがお好み~……?」
ブリさんの言動はノーツッコミを貫くとして……なるほど、元からこの状態だったと。探索中の物資発見は望み薄かもなぁ。
「それなりに広そうだし、二手に分かれて探索するか?」
「それが効率的かのう。一応、内部に黒霊が居ない事は確認できておる。万が一に何かあったとしても、オルカを魔具として手元に戻せば十分に対処可能じゃろう」
「ブリさんとハピさんをそれぞれに付けるのはどうだろう? 部屋を調べている間、扉の見張り役になってくれるぞ」
そんな訳で、俺とハピさん、オルカとブリさんの組み合わせで、別々に探索を始める事に。はじめは三階の宿、次は二階の宿、最後に一階の酒場エリアと順々に降りて行く形だ。手分けと言っても別の階を探索する必要はないからな。最低限の距離を保ちつつ、である。そんなこんなでこの建物の探索を終え、酒場で唯一無事だった丸テーブルに集合、成果確認を行う。
「ブリさんが前もって確認してくれた通り、黒霊の姿は居なかったな。お陰で安全に探索できたよ」
「なら、御礼はベッドで――」
「――じゃ、成果を確認しようか」
ノーツッコミと言った手前、強く反応したら負けである。何だろう、このマムの別個体が近くに居るような、悲しき感覚は……
「私から報告しよう。宿部屋の破壊された収納箱に紛れて、指輪が一つ落ちていた。どんな効果があるかは不明だ。帰還し、ゼラに確認してもらうまでは装備しない方が良いだろう」
「こんなエリアだし、妙な効果が付与されていたら一大事だもんなぁ」
「他にも衣服系の装備を幾つか発見したが、こちらはどれもボロボロの状態だった。装備できない事もないが、持って帰るかどうかはベクトの判断に任せるよ。まあ、あまり役立ちそうにはないな」
「あー、それは俺も見つけたよ。一応、何か特殊な効果があるかもしれないから、収納スペースに余裕がある限りは詰め込んでおこうと思うけど、まあその程度の認識かな。あっ、もしかしたらグレアさんが解体して、素材として再活用してくれるかも?」
「確かにグレアと店の者達なら有効活用してくれそうだな。うん、その認識で良いと思う。それでベクトの方はどうだった?」
「フッフッフ、俺はだな」
テーブル席から離れ、酒場のカウンター裏に集めておいた戦利品を取り出す。見よ、これが俺達の成果だ!
「うちの白の空間にはない酒数種! 栓も開いていない美品です!」
「ワシが見繕いました!」
「……そうか。他は?」
「「ないよ?」」
「……」
あかん、オルカがすっごい渋い顔をしている。
「いや、これはこれで俺らには必要なもんだから。具体的にはゼラのご機嫌取り用として……!」
「案内人のご機嫌取りが必要なのは、恐らくベクトの白の空間だけだろうな」
「いや~、何であんなに我が強くなっちゃったんじゃろうなぁ……」
そう言って、チラリと俺を見る二人。知らんよ! 俺が教えてほしいくらいだよ!
「そ、それはさて置き、実はもう一つだけ見つけたものがあってだな」
「実はあったのか……」
「本当はサプライズのつもりだったんだが、これ以上は俺の評価に直結しそうだったから、さっさと出す事にした。それで、これなんだけど」
テーブルの上に発見物を置く。クレジットカードほどの厚みがあり、表も裏も黒色のみで統一された一枚のカードだ。傷一つなく、実に綺麗なものである。
「これは?」
「何かのカード、としか言えないな。ぶっちゃけ、見た目以上の事は何も分からない。二階の部屋を漁っている時、珍しく壊れていないベッドがあってさ。これは何かあるんじゃないかって、シーツやらを全部ひっくり返して調べたんだが、そこからペロッと出て来たんだ」
「ワシが第一発見者です!」
「ふむ……」
ダリウスソードの主張を気にする様子もなく、カードを手に取り表から裏へ、また表を上にしてまじまじと見つめるオルカ。
「何も記されていないな。それでいて、信じられないほどに滑らかだ」
手触りは完全にプラスチックのそれだからな。まあ、これを言ってもオルカには通じないだろうが。
「ワンチャン装備の類かもと思ったんだが、どう思う?」
「私からは何とも言えないな。そもそも初めて目にするような代物だ。用途が全く思いつかない」
「だよなぁ。となると、これもゼラの確認待ち――」
――ドゴオオオオオオン!
突如、俺の言葉を丸っと掻き消すほどの轟音が鳴り響いた。
「オルカ!」
「ああ!」
この轟音に聞き覚えしかない俺達は即座に行動を開始する。物資を魔具にしまい込み、脱出口である三階の窓へと急ぐ。
「のう、今のはやはり……」
「ああ、人爆弾な青霊もどきが爆発した時の音だ」
建物に軽く衝撃が伝わって来たが、爆発で建物が破壊されるような事はなかった。つまり、距離はそこまで近くない筈だ。だが、そうなると何がトリガーとなって青霊もどきは自爆した? 気紛れに自分勝手に爆発する、なんて事は止めてほしいんだが。
「もしくは、全く別の要因で……?」
この時点で俺には嫌な予感しかしなかった。




