第164話 不毛
包装されていたのは女神像であった。いや、女神像って言うか、ミニ女神像……? いつも目にするそれよりも随分と小さく、人差し指程度のサイズしかない。包みの中には他にも色々な木彫りや石像が入っており、その中の一部として混在していた感じだ。
「ええと……サイズは兎も角として、ごちゃごちゃっとしてない? 何でこんな状態に?」
「貴重な品として保管されていた、と言う割には扱いが適当に見える。緊急時に使うようにも思えんし、ううむ……」
「持ち主が収集家で置き場所がなく、単にここにしまったまま存在を忘れてしまったのではないか? もしくは表に出せない代物で、隠しておきたかったとかかの。まっ、あれこれと想像しても無駄じゃて。今は女神像を発見できた事を喜ぼうではないか」
「……そうだな。うん、そうだ。女神像の場所を記録すれば、また転送してもらう時にこの場所の名前も知る事ができる。この先がどこに繋がっているか、何かしらのヒントになるかもな」
そんな訳で俺達は、ミニ女神像を発見するのであった。サイズがどうであれ、機能が変わらなければ何も問題はないのだ。あ、ちょっとだけ機能は変わるか。この小ささだから、安全圏も相応の狭いんだ。この小部屋がすっぽり収まる程度で、前後の通路に居る蔓さん三世と山ちゃんはギリ入室禁止状態。
「この辺に黒霊が居ないのって、小部屋の女神像で通路が分断されているからじゃないか? ここを通れないとなれば、黒霊からすれば来た道を戻るしかないぞ」
「通路上に黒霊が発生したとしても、夢魔の森や通路の向こう側に向かうしかない、と言う事か。それであれば、よほどタイミングが悪くない限りは遭遇しないだろうな」
「つか外から入ってくるにしても、あんな小さな穴を見つけて潜る奴自体、そもそもワシらくらいしか居なくね?」
「そりゃあ秘密の避難経路だったとすれば、発見されるのはご法度だろうし、知っているのもマムくらいしか――いや、あいつこの小部屋をどうやって素通りしたんだよ? 異常進化種だろうと黒霊なんだから、女神像には近付けない筈だろ」
「それは、まあ……」
「マムじゃし……?」
「……それもそうか」
手の内を明かしていない格上について、あれこれと考えても仕方がない。それ以上、俺達は深く考えない事にした。その後、小部屋の整理を一通り終えたところで女神像に祈り、白の空間へと帰還。物資漁り? ああ、全部古くなってて使えそうなものは殆どなさそうだったよ。一応、ギリギリなものだけ持って帰るけど……いやあ、ままならないものである。
◇ ◇ ◇
「女神像と一緒になっていた木像やら石像、持ち帰ってみたは良いけど、見事にガラクタだったなぁ」
「ゼラに出来の悪い贋作扱いされておったなぁ。収集家な割に、持ち主の見る目はなかったようじゃ」
「それはまだ良い方だ。ベクトが冗談半分で古くなった酒を渡した瞬間、彼女の顔が見た事のないものになっていたぞ。流石の私も心が挫けるところだった……」
「べ、別に悪ふざけで渡した訳じゃないぞ? 本当に良かれと思ったんだ。でも、お陰で学べたよ。ワインってさ、古いほど良いって訳じゃないんだね……」
「まあ、保管環境とか最悪じゃったし……」
帰還後、直ぐに黒の空間へと復帰した――と言うよりも、ゼラから逃げて来た俺達の心には、少しばかりの隙間風が吹いていた。うん、嘘だ。ぶっちゃけ暴風レベルでビビっちゃった……
「今後はゼラを怒らせないようにしないとな、切実に」
「そ、そろそろ気を取り直して行くとするかの! おっしゃ、今日も頑張るのじゃ!」
「ダリウス、あんま大声出すなって」
「そうだぞ、いくら黒霊の気配がないとは言え、事前の約束は守ってもらわねば」
「このタイミングで責められる事ってある?」
とは言いつつダリウスの掛け声を境に、スイッチを切り替える俺達。ああ、ちなみにここの女神像の場所は『夢魔の森・地下備蓄庫』と言う名前になっていた。どうやらまだ森の真下部分に居るらしいが、残念ながら行き先のヒントにはならず。オルカが予想していた通り、まだまだ歩きそうだなぁ。
「まっ、ゼラがキレる前に諸々の準備を終わらせていたのは幸いだったな。新しくできる気配のあった魔法も無事に『融合』できた事だし」
先の探索の大きな成果と言えば、物資でもなくステータスの成長でもなく、新たな魔法を乱獲できたその一点に尽きる。いや、だってさ、持ち帰った物資はあんなんだったし、あれだけ沢山の黒霊を倒したってのに、遂に全く成長しなくなっちゃったんだぜ? そりゃあ魔法くらいしか縋るものがないってものである。しかし、そうかぁ。夢魔の森でも成長できなくなっちゃったかぁ……
「今回の探索、相棒は新たな魔法を組み込んで来たのか?」
「ん? ああ、もちろん。『魔法・氷刻』を使えるようにして来たよ」
『融合』を経て新しく誕生した魔法は全部で五つ、内容は以下の通り。
魔法・睡眠+魔法・幻覚=魔法・幻夢
魔法・幻覚+魔法・炎弾=魔法・幻弾
魔法・氷剣+魔法・停滞=魔法・氷刻
魔法・回復+魔法・解毒=魔法・快復
魔法・解呪+魔法・除霊=魔法・退魔
いずれもレベル4に仕上がった優秀な魔法で、俺はその中から氷と時を操る『魔法・氷刻』を選ばせてもらった。で、霊刻印の構成はこんな感じ。
霊刻印(ダリウス)
◇飛剣術LV5
◇増殖LV5
◇召喚・屍LV5
◇融合LV6
◇空蹴LV4
◇強健LV4
◇魔法・氷刻LV4
レベル5の『浮遊』を外し、レベル4の『魔法・氷刻』をイン。本当は『空蹴』と『浮遊』の合わせ技も試したかったんだが、時間がなかった為に次回以降に回す事に。まあできたとしても浮遊は暫くのホバリングができるくらいで、必須な能力でもないからな。新たな魔法戦術に慣れる事を優先した訳だ。間接的に『飛剣術』に含まれている『飛剣』との併用も可能となるぞ。
霊刻印(オルカ)
◇魔法剣術・氷LV5
◇竜人・炎LV5
◇修繕LV6
◇照準LV6
◇強酸LV5
◇隠密LV3
◇魔法・炎樹LV4
一方のオルカはレベル3の『耐性・氷』を外し、『魔法・炎樹』をイン。氷属性の耐性を付与するよりかは、『竜人・炎』を活用してガンガン炎で攻め立てつつ、自身も回復した方が便利じゃね? と言う考えの下で変更したようだ。エンドの魔法よりもワンレベル下の霊刻印ではあるが、強力である事に変わりはない。俺と同じく、今のうちに慣らしておくのがベストだろう。
「にしても、だ。やっぱこの通路、長いな……」
備蓄庫を出発してから、一体どれだけの時間が流れただろうか。景色は相も変わらず一本道のままで、何の変化も起きていない。
「避難経路をこっそり作ったとしても、これだけの距離だと相当な私財を投じておるじゃろうな。やれやれ、最終的にどこへ通じておるのやら」
「ベクト、ダリウス、さっきから同じ会話ばかりしているぞ。もう少し緊張感を持て」
「そう言うオルカは、さっきから謎に宙を撫で回しているようだけど?」
「ホワイト不足をイメトレで補っているだけだ。エア撫での向こう側でホワイトの毛並みを堪能している」
「そ、そっちの方が不味いんじゃ……?」
などと色々な意味で不毛な会話をしつつ、更に歩を進め続ける。やがて、一本道の先に見えて来たのは――
「待て、アレって出口じゃないか? 光が見える……!」
「いやはや、マジで長かったのう」
「ダリウス、お前は俺に運ばれるだけだったろうに……だけど、また戻るにしても備蓄庫を起点にするのは厳しいな。毎回この道を通る事になる」
「新たなエリアでも女神像の発見が優先事項になりそうか」
「オルカ、それはそうなんだけど、そろそろエア撫でを止めてもろて――って、んん?」
「どうした、相棒?」
「……気のせいなら良いんだけどさ、あの出口、何かピンク色の靄で充満していないか?」




