第163話 御神木
魔法強化月間の成功と言う幸先の良いスタートを切り、夢魔の森自体も特に変化がない事を知り、今回の探索はこの時点で大成功と言って良い成果を叩き出した。だが、俺達の目的はまだ一つ残っている。そう、堕落歓楽街に続く道の発見だ。
「マム曰く、屍街の近くである森の西側の辺りにあるって事だったけど……隠し通路の類だと、見つけ出すのは至難の業だよなぁ。まっ、その為のホワイトなんですけどねッ!」
「なあベクト、ホワイトの負担を減らす為にも、一度この森を焼き切った方が――」
「――はいストップ、落ち着け落ち着け」
森の西部を丸焼きにして、死角を減らす! なんてオルカの案もありはしたが、それは最終手段と言う事で、まずは自力で探す事に。いやあ、こんな森にはないと思うけど、移動手段が転送装置の類だった場合、それごと破壊しちゃったらが怖いからな。森は復活しても、何もかもが同じ保証がある訳でもないし、ここは新石橋さんを叩かせてもらいますぜ。
魔法強化月間を実施したのもあって、魔法の残弾は心許ない。が、通常種が出て来るだけであれば、正直シュラが相手するだけで事足りる。ホワイトが探索、シュラが殲滅、俺とオルカが止めと言った感じで西武制圧を進めて行く事、数時間――俺達はある大樹の根本に到着するのであった。
「これまたデカい木だな。トレントも大概だけど、こっちはもう御神木レベルなんじゃ?」
「これがトレントの希少種とかなら、流石に苦戦しそうじゃのう。で、これって黒霊? また相棒のデスティニーがやっちゃいました?」
「ひ、酷い言い草だ……」
俺が悪い訳じゃないのに。けど下手に実績がある分、強く言えないのが悔しい……!
「クンクン……ゴォル!」
「ふむ、どうやら黒霊ではなく、普通に森に芽吹いた木であるようだ。とんでもない樹齢であるのは間違いないだろう」
「昨日のマムの攻撃からも上手く逃れたのか。幸運に恵まれた大木じゃて」
「ああ、その幸運を少しでも分けてほしいもんだよ。って、今は感傷的になっている場合じゃなくてだな……」
「ゴォルルゥ!」
「ヂュッ!」
「ふむふむ? ベクトよ、そう焦るな。ホワイトと杖ズミさんは既に当たりを付けているようだぞ」
と、一直線に根本の方へと進んで行くオルカ達。あれぇ、何か俺よりも意思疎通できてない? などとセンチメンタルになっている暇もなく、俺もその流れに付いて行く。
「これが道、か?」
「ヂュヂュッ!」
根本の一部に人がギリギリ一人通れるほどの小さな穴が開いている。巧妙に感じるほど、絶妙な角度で生い茂った草花が入り口を隠しており、自力での発見はまず無理であろう仕上がりだ。いやいや、これ絶対自然にできたもんじゃないだろ。意図してこんな分かり辛い構造にしてんだろ。
「まあ、まだ罠がないだけ有情か。ホワイトに杖ズミさん、いつもながらに素晴らしい仕事振りだ。その調子で穴の探索も――と行きたいところだけど、これだけ狭いとホワイトは通れないか。杖ズミさん単体なら余裕だけど」
「ヂュ―……」
それは無理と首を振り、頑なにホワイトの背から降りようとしない杖ズミさん。ホワイトと杖ズミさんは二体で一体の表裏一体、一心同体型の黒霊、見た目は別々に行動できそうでも、実際のところ背から離れる事はできないんだろう。
「となると、ここからは俺とオルカのみで行かなきゃか。道中で仲間にした蔓さん三世や山姥の山さんなら、一緒に来られそうだけど……」
「ここまで狭いと、正直肉の盾にしかならないだろうな」
「流石にそれ前提の運用は避けたいし、フェイクの用意をしておくか」
防御性能は蔓さん三世の方が高そうだから、やるならフェイク蔓さんの方で。
「ホワイト達の召喚も解除して、っと……先頭は俺、後ろはオルカで頼む。じゃ、いつも通り油断せず行こうか」
「相棒より前に陣取っている辺り、真の先頭はワシなんじゃけどね~」
「こう言うのは武器の持ち手から数えるもんだろ」
「どちらが先頭でも構わないが、恐らくこの先は逃げ場の少ない閉所だ。音も響くだろうし、中に入ったら極力大声は出さないように」
「了解」
そんな訳で、根本の穴へと潜り込む。せ、狭い……! が、降りた先は石造りの階段か。ふんふん、ここから更に降る訳ですかい。さて、この階段から危険な臭いは……よし、今のところは大丈夫そうかな。勘さんも新石橋さんもセーフ判定を出しております。
「入口こそぽっかりと開いた穴でしかなかったが、内部は完全に人工物だな。相当に頑丈そうだけど、何の用途で作られたものなんだろう?」
「仮に城塞都市のどこかに繋がっているとすれば、そうだな……そこに住まう地位のある者の緊急避難経路として、秘密裏に建造されたとみるべきか」
「あー、城やお屋敷在住のお偉いさんが、もしもに備えてってやつ? 確かにありそうだな。おっ、今度は狭い通路の一本道か……」
階段を降りた先には、これまた石造りの通路がずーーっと奥まで続いていた。黒檻の仕様で一定の明るさは確保されている為、暗くて見えないって事はないんだが、発せられる物音が俺らのものしかないくらい静かで、それがかえって不気味である。
「……今のところ、黒霊が現れるどころか罠一つないな」
「一本道が淡々と続いておるだけじゃのう」
「夢魔の森から屍街へ一直線に行くにしても、結構な距離がある筈だ。まだ相当歩く事になるぞ」
「魑魅魍魎の森の中を進むより精神に来るな、それは……しかし、よくこんな通路を作ったもんだよ。一本道の狭い通路とは言え、耐久性も――ん?」
歩みを進める通路の先に、今までとはちょいと異なる区画を発見。通路は通路なんだが、そこに沿うようにしてちょっとした小部屋? のようなものがある。
「これは……休憩室? いや、寝袋や保存食が備蓄されているところを見るに、緊急時用の保管庫みたいなものか」
通路沿いにある為に扉はなく、本当に小屋程度の大きさしかない部屋だ。但し、物資がぎっちりと詰め込まれており、中身を拝見すれば何かがありそうな予感もする。そう、例えば暫くご無沙汰になっている宝箱とか……!
「通路の先は……また同じような道が続いているな。相変わらず黒霊や罠の気配もない。オルカ、ここでちょっと休憩を挟まないか? ついでに物資を漁りたいし」
「ただ漁りたいだけだろう? まったく……さ、くまなく調査しようか。もしかすれば、キンちゃん用の玩具があるやもしれん」
「ハハッ、ブレないなぁ。まっ、俺もアリーシャ達用の良い土産を期待していたりするんだが」
「お偉い方用の物資なのじゃろう? ならば、ゼラが喜ぶ酒もあるのではないか?」
とまあ結局、俺らはやる気になるのであった。通路の見張り役として蔓さん三世と山ちゃんを前後に召喚し、詰め込まれた物資の山の仕分け作業にいざ突入。結構期待しているけど、長年放置された状態から有用なもんが出て来るかは正直運――う、ううん? 何だこれ、全然動かねぇ……!
「ふうううううん……!」
「どうした相棒、そんなに鼻息を荒くして? そんなに楽しみじゃったのか、物資漁り?」
「違うって! 何かこの荷物だけ異様に重くってさ、全力で持ち上げようとしてもビクともしないんだ」
「ベクトが持ち上げられない? それは何の冗談だ……と言いたいところだが、どうやら本気のようだな。どれ、私も確認してみよう。この包みか?」
「あ、ああ……」
「ふむ、中身は何だ?」
激重な物資を床に置いたまま、その包みを剥がしていくオルカ。すると、その中から――
「――女神像が出て来たぞ」
「なるほど、女神像かぁ……」
そりゃあクソ重い訳である。探索者が動かせない仕様だもの。




