第162話 魔法強化月間
はい、そんな訳でやって来ました皆大好き夢魔の森。先日の戦いで焼け野原ならぬ焼け森となってしまったこの場所だけど、その影響がどんな形で現れるかは不明。今回の探索でその辺を確認しつつ魔法を試し、堕落歓楽街に通じる秘密の道を探し出す事ができればなぁと思っている。で、実際どうなったかと言うと。
「なあ、森の殆どが焼け落ちていた筈だよな?」
「その筈だ。てっきり、全く別のエリアに変化するものだと思っていたのだが」
「ううむ、軽く引いちゃうくらい復活しておるのう」
森を入り口を見てビックリ、強烈な焼き畑を食らった森が完全に復活していたんだ。見上げるほど高い木々が生い茂り、草花の類もすっかり元に戻っていらっしゃる。
「まさか、マムが魔法を使って元に戻した? いや、そんな事をするタイプには見えなかった筈なんだが……」
「案外、夢魔の森が自力で復活したのかもしれないな。ほら、夏場の雑草は育ちが早いだろう?」
「雑草の成長と一緒にして良いのか、これ?」
「まあマムにはボロクソに言われておったが、魑魅魍魎を体現した森じゃからのう。一日やそこらで復活しても、まあ納得できる範囲じゃて」
「そ、そうかぁ……?」
俺としては納得できる範囲から外れているんだけど、この感覚は人それぞれなんだろうか? いやまあ、復活してくれた分には問題ないんだけどね。変に環境が変化して、更に強力な黒霊が跋扈した方がアレだし。
「いや、風景が元に戻ったからって、中身まで一緒とは限らないか。諸々警戒していこう」
「了解した」
「うむ!」
そんな訳で始まった本日の探索。結果から言ってしまうと、森の中身は以前と同じものだった。マッピングこそ最初からだったが、全体の広さは変わらないし、出現する黒霊も一緒である。となれば、警戒心マックスな俺達が遅れを取る可能性は皆無に等しく、踏破状況もガンガン進んでいくのであった。また、魔法についても進展があり――
「――魔法は限られた回数した使えないから、根気よく『融合』を狙っていく必要があると思ったけど、案外何とかなるもんだな」
「ああ、命中率に難のある『魔法・停滞』なども、使役した黒霊に棒立ちを命令してゼロ距離から詠唱すれば、殆ど確定で決まる。実績の解除には持って来いだ」
襲い掛かって来た蔓さん二世に『感染』を付与して使役、そのまま魔法の的になってもらう悪逆非道な方法で、試してみたかった魔法の組み合わせを存分に実験する事ができた。レベル4の魔法は9回まで使用可能なんだが、5回目辺りで『融合』できそうな感覚が生まれてきたんだよね。
「魔法をぶつける相手が他よりも強いから、実績作りも早くなっとるのかもしれんのう」
「少なくともレベル4同士なら、それで十分な実績って事か。『魔法・睡眠』と『魔法・幻覚』の組み合わせとか、『融合』判定が早かったよな」
その名の通り相手を眠らせる魔法と幻覚を見せる魔法な訳だけど、この二つを一緒に使う事で相手の夢を操れるようになったぞ。
「睡眠の時点で無防備を晒しておると思うのじゃけれど、更に幻覚を見せる意味はなんじゃ?」
「夢遊病みたいに対象が眠ったまま行動を操作できる、より深い眠りになって一度や二度の攻撃じゃ起きなくなるってところかな。まあ、どっちにしろ『感染』で操った方が色々と手っ取り早い気もするけど」
「『魔法・幻覚』と言えば『魔法・炎弾』との組み合わせも良さそうだ。本来は炎の玉を放出するだけの魔法だが、幻覚で偽物の攻撃を複数作り出す事で、相手をかく乱する働きが生まれた。敵からすれば、大量の炎弾に襲われているように見えるだろう。閉所で使えば更に効果的だ」
「うむ、強力なのは間違いないのじゃが……その、炎属性だと対抗馬がアレじゃからなあ」
「あー……」
顔を上げ、辺りの惨状を再確認する。完全復活を果たした夢魔の森はいつぞやの如く焼け焦げ、その大部分が壊滅状態に陥っていた。その原因となったのは――
「――エンドの『魔法・炎樹』、か。確かに比較対象がこれだと、なかなか難しいところがあるよなぁ」
「ギュルギュルリ……!」
それは勝利宣言のつもりなのか、エンドが森の上空にて特徴的な咆哮を轟かせている。
「マムが使っていた樹牙って魔法に似ていて、周囲の樹木が動き出して暴れ回っていたけど、こっちはその樹木自体も燃え盛って更に火力が桁外れな事に……」
「使い勝手も凄まじかったぞい? マムのはトレントの如き巨人の物理攻撃のみだったが、エンドは大地の中からも炎の茨を生み出し、トラップとして活用しておった。夢魔もどきが捕まっておったろ?」
「ああ、アレは悲惨な光景だったな」
茨が脚に絡みつき、生きたまま燃やされる生き地獄な倒し方だった。山姥の断末魔と相まって、それはそれは地獄の様相で――そういや山姥な黒霊、また出現し始めたな? 前に来た時は隠れっ放しだった筈だけど、警戒心がリセットされたのか? うーむ、絶妙に迂闊。
「茨がアリなら、他にも様々な植物で応用が利きそうだ。フッ、流石はエンド、我らが期待の星」
「後方腕組みでドヤっているところ悪いが、放っておいたら全焼きにしそうだ。確認ができた事だし、エンドの召喚は解除するぞ」
ちなみにエンドはブレスの方も炎と植物の混同攻撃で、炎を有した種が放出中に開花し、巨大な花となって相手に襲い掛かると言うものだった。一見『魔法・炎樹』と同じような力に見えるが、ブレスが頑強を、魔法が魔防を参照してダメージを与える為、スタイルをそのままに臨機応変に戦う事が可能となっている。これまで魔法は杖ズミさんやオルカに頼り切りだったけど、その辺りも更なる補強が見込める訳だ。相手に対空攻撃手段がなければ、空から一方的に沈める事もできるしで――うーむ、マジで強くなったなぁ。
「ワシはあの組み合わせが良いと思うぞ。ほれ、『魔法・氷剣』と『魔法・停滞』のやつ!」
と、ダリウスの言。確かに、そのブレンドは革新的だった。相手の動きを時間を止めたようにストップさせる停滞は強力な状態異常なんだが、如何せん命中率に難があり、実験で行ったようなゼロ距離で使わない限り成功しなかったんだ。更に効果時間も極端に短く、レベル4でも1秒程度しか止まらない仕様である。だが、ここに『魔法・氷剣』が加わる事で氷を相手に食らわせると同時に、この状態異常も発生させる事に成功。魔具に氷を纏わせて殴るもよし、遠距離に氷を飛ばすもよしと発生率が激的に改善された。特に接近戦における一秒は大きく、その間に敵が隙だらけになるメリットがデカ過ぎる。中には耐性持ちも居るんだろうが、この森では一方的に停滞を押し付ける事ができた。残弾の数を考えれば、最大で9秒も止められるのだから――
「――あれ? この魔法が優勝じゃないか?」
「じゃろう?」
「いや、まだそう決めつけるのは早計だ。『魔法・回復』と『魔法・解毒』も無難なセットではあるが単純な回復力が増し、毒を消すだけでなく一時的な耐性を持たせる効果も付与されて、場所によっては必須級の代物に変化したぞ」
「それを言ったら『魔法・解呪』と『魔法・除霊』で、ゴーストな敵を屠るのに特化した魔法もなかなかに強力で――」
とまあ、議論が盛り上がるほどに魔法強化月間は大成功だった。これらを実際に『融合』するのは白の空間に帰ってからだが、その時には教会のラインナップがとんでも強化されている事だろう。唯一残念だった点を挙げるとすれば、これはいけるだろうと考えていた『魔法・結界』と『魔法・毒嵐』の組み合わせが機能しなかった事だろうか。ううむ、竜巻の結界って感じで、攻めと守りの一体型を目指せると思ったんだけどなぁ。魔法の規模が違い過ぎると『融合』できないとか、そんな仕様があるのかな?




