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第161話 覚醒する教会

「教会が凄まじい成長を遂げたんです……!」

「お、おう?」


 数時間前の地獄マッサージ振りにイレーネと会ったんだが、彼女は珍しくもテンション高めであった。えーっと……どうやら悪い知らせではないようだな、よし!


「教会が成長って、どういう事だ? 今回の探索では大黒霊を倒してないし、新たな青霊も救出していないぞ?」

「あっ、す、すみません、説明が抜けていましたね。その、オルカさんの牧場から供給される堆肥の影響で、また菜園の質が上がったんです。それに伴い、薬草の種類が増えまして」

「えっ、この短期間で!?」


 堆肥の存在はもちろん知っていたけど、また効果が出たとは。オルカファーム、とんでもない施設だ……!


「それら薬草は特殊なものでして、魔法を伝授する際の補助薬として煎じて使うと……とっても凄いんです!」

「イレーネ、語彙力がまだ混乱状態じゃないか?」

「コ、コホン! 兎に角ですね、ベクトさんの探索中に使用できるものではないのですが、その代わりに教会で扱える魔法レベルが上がってですね……!」


 両腕を可愛らしくブンブン振るいながら、若干早口気味に喋り立てるイレーネ。それだけ貴重な薬草だったんだろう。ともあれ、イレーネの説明を纏めるとこんな感じ。


・懐かしの教会 ⇒ 薬草に新たな希少品種が追加、魔法レベルが全て4に、過去に入手した魔法系統の霊刻印を一覧に追加


 うん、うんうんうん……待てよ、何気にやばい事になってるぞ。


「習得できる魔法が全部レベル4になっているのも十分凄い事だけど、過去に入手した魔法が一覧に追加されたってのはマジなのか? え、マジなのか? 凄くね? とっても凄くね?」

「それが本当なんですよ、堆肥って凄いですね……!」


 今になってイレーネのテンションが高い理由を理解する。ああ、これはテンションおかしくなるわ! 現に俺もおかしくなってるもん! お陰で語彙力も死んだ!


「か、確認するけど、過去に入手したってのは……?」

「ゼラさんが教えてくれたのですが、一度でも魔具で倒した事のある黒霊や大黒霊が持っていた霊刻印、或いは使役して格納した事のある黒霊が持っていた霊刻印が対象になるようです。つまり、一覧にするとこう……!」


懐かしの教会・基本取り扱い魔法一覧

『魔法・回復』『魔法・解毒』『魔法・解呪』『魔法・除霊』『魔法・結界』

懐かしの教会・追加魔法一覧

『魔法・炎弾』『魔法・爆毒』『魔法・毒嵐』『魔法・幻覚』『魔法・睡眠』『魔法・停滞』『魔法・氷剣』『魔法・炎樹』


「つ、杖ズミさんとエンドの魔法も追加されてるううううッ!?」


 オルカの『魔法剣術・氷』こそないが、どれを選んでもレベル4で覚えられる。しゅ、しゅごい……! 浮き腰夢魔から入手した幻覚や睡眠って、確かレベル3だった筈だぞ? いや、それよりもレベルが均一でいつでも覚えられるって事は、在庫状況を一切気にせず『融合』の素材にできるって事だ。仮に魔法同士を素材にすれば、できあがるのも高確率で魔法になる訳で、それで入手した事になれば、またこの一覧に並ぶ訳で……あれ、これって本格的にやばくね?


「これは……魔法強化月間って事で、魔法統一構成を試してみるのもアリかもしれない。イレーネ、オルカを招集して、緊急会議に入るぞ! 今、耳飾りで連絡を入れとく!」

「は、はひっ! ダリウスソードさんは良いんですか!?」

「そうだな、そろそろアリーシャに拾われている頃か……アリーシャ師父のアドバイスも欲しいから、そのついでに持って来てくれないか!?」

「りょ、了解です!」


 こうして始まった魔法協議自由形、俺達は冴え渡る意見を投げ合うのであった。



    ◇    ◇    ◇    



「――って事があったんです。いやあ、本気で死を覚悟しましたよ」


 日にちとところが変わってここは探索者の街、アーノルド卿の屋台バー前。街の周囲に立派な石橋(作:グレアさん)が完成し、探索者達の活動も復活し始めた今日この頃。久し振りにバーにお邪魔した俺とオルカはグレアさん、オーリー男爵と酒と共に意見を飲み交わしていた。今は夢魔の森で遭遇した異常進化種のマムについて話していたところだ。


「なんと、黒檻には理性ある黒霊が居るのかね!? ううむ、一度会ってみたいような、怖いから遠慮しておきたいような……!」

「男爵、絶対に止めておいた方が良いですよ。会えるかどうかは運次第、遭ったところで生死を賭けたギャンブルになりますから。と言うか、全然理性的じゃないです。言葉が通じるだけで、己の本能に忠実な奴でしたから」

「そうですわよ、オーリー男爵。そもそも夢魔の森を探し回る時点で自殺行為ですの。『夜逃げ卿の正装』も、あのレベルの場所では殆ど通用しませんもの。まずは大黒霊の一体でも倒す方が先決なのではなくって?」

「正にその通りだな。オーリーの弓矢がバリスタほど強力になれば、僅かにチャンスが――いや、それでも可能性は皆無か。すまない、つまらない事を言ってしまった。忘れてくれ」

「信じられないほどの滅多打ち! うう、吾輩自慢のひげも弱々しく垂れ下がってしまっている……」

「いやいや、純粋に心配しているんですよ」


 このくらい釘を刺しておかないと、好奇心旺盛なオーリー男爵は突撃して行きそうで怖いんだよな。下水道行き止まり事件、再び! みたいな感じになりそうじゃん?


「結果的に私達は何とか無事だったが、明らかに目を付けられた様子だったし、相手の気分次第では死んでいた可能性も十分にあった。興味本位で野次馬して良い黒霊ではないな」

「その通り! あの悪辣な黒檻が、こんな前情報をわざわざ案内人に渡して来たくらいなんです。それ前提で攻略しろ、って言っているようなもんですよ。事実、俺とオルカが全力でやっても、一切歯が立ちませんでした。同じ異常進化種に属する百亡の獅子とか、最大レベルの大黒霊を捕食するらしいんで、こっちも最低それくらいできないと、正直話にならないかと」

「さ、最大レベルって、つまりは八体分の大黒霊を倒さなくては、と言う意味かい? ……それができたら、もう死の巫女への道が開くんじゃ?」


 それもその通り、もうゴール目前です。そもそも黒檻のシステム的に、異常進化種を倒す必要は全然ないんだよな。ゼラの話じゃ、死の巫女を発見した時点で失われた記憶が戻るらしいし、それを使って願いを叶える事ができてしまう。未だに何を願ってこの世界に飛び込んだのかは謎だけど、発見さえしてしまえば万事解決、と言う訳だ。……うん、やっぱり異常進化種とかかわる意味がないな。正直、デメリットしか思いつかん。


「何はともあれ、夢魔の森に近付くべきはありませんわね。ところでベクトさん達は、今後どうする予定ですの? そのような事があった後では、ベクトさん達も夢魔の森には行けないでしょうし……」

「いえ、夢魔の森に行きますよ? 新しい魔法の組み合わせとか試したいですし、堕落歓楽街へのルートも発見したいですからね」

「そうでしょうそうでしょう。なら、新たに発見された蟲道遺跡にでも一緒に――ってぶふうううッ! マママ、マジですの!? 危機に瀕したばかりですのに!?」


 オーリー男爵に向かって盛大に酒を吹き出すグレアさん。まさかここまで驚かれるとは……不意の被害を被ったオーリー男爵は――何か良い笑顔になってる!? さ、流石は男爵、咄嗟なのに紳士的対応だ……!


「し、失礼しましたわ。ですが、本気ですの?」

「夢魔の森を探索した感じ、マムの登場さえなければエリアの攻略自体は順調だった。私達の適正を考えても、もう次の難度に挑む段階なんだ」

「今のところ、目星を付けているのがそこくらいなんですよ」


 あの巨大城塞都市の中心部も、実は結構気になっていたからな。え? 街とかはマムの活動範囲じゃないかって? いや、それを言い出したら他の異常進化種と遭遇する可能性もあるっつうか、俺の運命力で気にしても今更仕方ないっつうか、はい、うん……確率は天文学的に低い筈なんで!

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