↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/236

第154話 環境破壊

 桃色空間に召喚した蔓さんは、事前の命令通り、マムへ速攻を仕掛けようとした。蔓さんはこの『夢魔の森』出身の黒霊だ。『融合』を経ていないとは言え、実力的には他エリアの希少種クラスである。召喚からの攻撃は意表を突くには最高の状況だし、マム自身もシュラを注視するあまり、他に対する警戒が疎かになっていたのは確かだろう。だが、それでも……蔓さんは鞭を放つ事ができなかった。緑色の液体――恐らくは蔓さんの血だと思われるが、それを急に頭部から吐き出し、そのまま倒れてしまったのだ。マムからの反撃を食らった? いいや、奴はさっきの瞬間、何もしていなかった。どちらかと言えば、蔓さんが倒れた後にその存在に気付いた、と言う反応だ。


「おお、急に私の横に『彷徨う花人』が現れた……ほーん? そう言えば、そこのおっきくて逞しいお兄さんも、小屋の外に急に現れたね? ベクトちゃん達、一体何をしたのかな?」

「そっちこそ、今一体何をした? 完全に意識の外だったってのに、蔓さんが急に倒れたぞ?」

「えへへ、教えてくれたら私も話してあげる――なんて言いたいところだけど、ベクトちゃん、今日はたっぷりお喋りしてくれたもんね。ついでのサービスで教えてあげる。私の周りにあるこのピンク色の靄は『媚香(びこう)』、媚薬を練り込んだ香水みたいなものなんだ。まっ、フェロモンだと思ってくれれば大体合ってるよ。但し、効果対象は無差別だけれどね♡」

「び、媚薬、フェロモン……? おいおい、そんなものがホワイトの霧を防いでいたってのか? それに、蔓さんがぶっ倒れた理由にはならないだろ」

「それがなるんだなぁ。霧云々の話をするのなら、そっちだって元々はただの霧なんでしょ? なら、より高レベルであろう私のフェロモンが防壁を作ったって、何も不思議はないんじゃないかな~~~?」

「それは……」


 確かに、そうかも……? 言われてみれば、今のホワイトなら霧で防壁くらいは作れそうな気がする。


「媚薬だってそうだよ。適度に使うのなら相手を高揚させる、好意的に魅させる、大切なところを元気にさせる事に繋がるけど、薬も過ぎれば毒になるって言うじゃない? 私が今展開させているこれは、正にそれ。空間に入った瞬間に私のフェロモンが体中を犯しに犯し、肉体の限界を超えた興奮を侵入者に与えてくれるの。思考はそういう事しか考えられなくなるどころか、理性が沸騰してただの獣に。コンマ秒で使い倒された心臓や血管は破裂して、体中の穴と言う穴から諸々の体液が溢れ出す――私のフェロモンはね、そんな素敵な効果があるの~~~」

「とんだバイオ兵器じゃねぇか!?」


 ホワイトの濃霧以上にやべぇ代物がお出しされ、勘さんや石橋さんと共に驚きを隠せない俺。『感染』がやばいやばいと思っていた昨今、世の中にはそれ以上にやべぇものもあるのだと、真っ向から分からされた感覚だ。


「……植物である筈の蔓さんにも効いたところを見るに、生物であれば誰にでも効果がある感じか」

「ノンノン、私、無差別にって言ったよね? 生物だろうと無生物だろうと幽霊だろうと妖精だろうと、何にでも効くよ~~~?」

「いや、それはおかしい」


 本当にフェロモンかよ。


「けど、ベクトちゃん達は本当に面白いね? 何だかよく分からないけど黒霊を引き連れているし、二人の力自体も立派なものだよ~~~。ん~、これはもうひと押しで、私陥落しちゃうかも?」

「それは光栄な話だが、こっちとしてはさっさと倒されてほしいんだがな! 杖ズミさん!」

「ヂュッ!」


 お喋りと戦闘の継続、それを並行するのは相当に難儀だったが、お陰でまた情報を聞き出す事には成功した。作戦が一区切りついたところで、今度は杖ズミさんの新魔法をお見舞いしてやる。そう、『魔法・毒嵐』だ。


 杖ズミさんが繰り出したのは、毒の爆発ならぬ毒の竜巻。鋭利な風の刃が何層にも重なり合い、高速回転する事で周囲の物体を吸引&カット。現にこの森に存在していた木々は杖ズミさんの魔法に吸い込まれ、その巨体を四散させている。あれだけの重量をものともしないんだ、広範囲にしてほぼ必中、それでいて超火力――敵にとっては悪夢でしかないだろう。


 しかも、この竜巻には『猛毒』とホワイトの『感染・濃霧』が含まれており、仮に命からがら助かったとしても、その身が病魔で侵される最悪が待っている。これを逃れるにはピンポイントな耐性がなくてはならず、まず間違いなく効果が働くって寸法だ。更に賢者となった杖ズミさんの卓越した魔法操作は止まるところを知らず、この魔法における敵味方の区分けまで付けてくれるのだ。つまり俺達は竜巻に飲み込まれないよう、どこかにしがみ付く必要もないって訳。魔法が発動している間も悠々と行動可能で、戦況を一方的有利に進める事ができる。何気にこれが一番利点! ……なんだが。


「ひゃ~、こんな事もできるんだ?」


 何でこいつ、敵の癖に悠々と竜巻を眺めてんの? 奴自身はもちろんの事、桃色空間もそのままだ。吸引力が働いていない? いや、周りのパイルバンカー要因達は次々と呑み込まれている、そんな筈はない。それよりも遠くに居た野次馬な黒霊だって、問答無用で巻き込まれているんだぞ? なぜだ?


「不思議? ねえねえ、不思議~~~? 何で私が無事なのか、知りた~い?」

「……お得意のお喋りで教えてくれるのか?」

「ううん、そろそろサービスタイムも終わりって事で、これ以上は教えてあげな~~~い。ただ、私の『魔法・樹牙』は見事に破ってみせてくれたからね。お礼に次の手を見せてあげる」


 そう言ってマムは真上に片腕をあげ、更に人差し指を立ててみせた。すると、その先に――木の高さよりも上に当たるずっと先に、とんでもなく巨大な水の塊が形成されていった。


「ッ……!」


 それを視界に入れた瞬間、俺は中に宿る勘さんと石橋さんと共に悟る。駄目だ、こいつは戦って良い相手じゃない、と。


 今の今まで何とか戦えたのは、マムがそのレベルの実力を演じていたからだ。それが今、偽りの姿を脱ぎ捨て、その力が如何に強大であるかをまざまざと見せつけられている。一見アレは大量の水が空に浮かんでいるだけだが、それは間違いも間違い、大き過ぎるほどの間違いだ。一言で言い表せば死の体現、だろうか。あの中のほんの一滴でもこの身で受けてしまえば、成す術もなく死に至ってしまう――そんな予感が痛いほどにしてしまう。お陰でたった今、勘さんがぶっ倒れた……!


「これは『魔法・爆水』と言ってね、接触と同時に爆発を起こす特殊な水なんだ。安易に触れないように気を付けてね~~~? って、もう二人のレベルなら似た魔法を見た事があったかな?」


 勝ち筋がなくなった今、打てる手は逃げ、或いは交渉だが……どう見ても奴は攻撃する気満々だし、全力で逃げる方が現実的。だが、アレが降り注ぐ前に間に合うか……!?


「さて、何人生き残るかな? 生き残ったら私のペットになる権利を贈呈するから、皆、張り切って頑張ろう~~~」


 冗談のように気の抜けた宣言の後、冗談のような攻撃が開始される。天高く浮遊する水の塊から小さな小さな水滴が、それこそ雨サイズにまでサイズダウンした弾丸が次々と降り注いだのだ。不幸にもこの日、『夢魔の森』は前代未聞の環境破壊に晒される事が確定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。