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第152話 サービスタイム

 突如の爆発、と言っても俺達にとって、これは予定していた展開だ。何て事はない、小屋の外に召喚したシュラが、中に居るマム目掛けて不意打ちの滅多打ちを放ったのである。厳密に言えば爆発とはちょい違うかもだけど、結果だけ見れば似たようなものだろう。当のマムからすれば、本当に小屋が爆発したように見えたろうしな。


「うわこわ、急に出て来て面白~~~」


 ……だってのに、全部躱しちゃうとかないわ。シュラの攻撃の他にも、俺とオルカが同時に至近距離から仕掛けたんだぞ。更に回避先にはホワイトと杖ズミさんが待ち構えていたってのに、それも全部すり抜けて行った。何かの霊刻印の力か?


「おいおい、目が小屋の外にも付いていたのか? 完全な不意打ちだったと思うけど?」

「あ、不意打ち狙いだったの? わざわざ黒霊かって聞いて来るから、これから攻撃しますよって親切に教えてくれたのかと思ったよ~~~」


 マムは無傷だった。爆心地から踊るように抜け出し、台詞からも分かるように尚も余裕を崩さない。表情さえもさっきと同じ――いや、同じ笑顔だけど裏のある笑顔になってんな。


「さて、戦う前に確認しておこうかな? 何で私が黒霊だって分かったの? 仕草とか言い回しとか設定とか、完璧に青霊のそれになっていた筈だけど?」

「俺らも途中までは半信半疑だったよって、何だ、お喋りに付き合ってくれるのか? 言語を理解する黒霊ってのは初見なんだが、随分とサービスが良いじゃないか」

「フフッ、私はお喋り好きだからね~~~。口説き口説かれ、最終的にはピロートークに至りたい、みたいな? と言うか探索者が好きなんだよね、私。だから友好的に接していたんだし、あのまま泊まってくれればベッドインまであったよ? もったいないね? でも大丈夫、私達まだやり直せるよ? 性別とか種族とか、私は全然気にしないよ?」

「……なあ、こいつサキュバスじゃね?」


 桃色に頬を染め、急に色気のある仕草を取り始めるマム。いや、正体がバレる前とで雰囲気が違い過ぎるだろ。飛び出る話題がピンクに染まっているし、よくよく考えればマムって夢魔の逆読みだし――ハッ、これが正真正銘の夢魔だったのか!? 綺麗なサキュバスは実在していた!?


「ベクト、予め言っておくが、あの姿は恐らく借り物だぞ。青霊の姿を真似るとか、擬態系統の霊刻印だろう。実物は――」

「――それ以上言わんでくれ。分かってる、儚い夢を語ってみただけだよ……」

「あれれ? 私、何だか失礼な事を言われている気がするなぁ?」

「きっと気のせいだ。それよりも話を戻して、何でお前の正体に気付いたかを教えてやる」

「おっと、予想していたよりも更に親切な探索者だね。問答無用でまた斬りかかって来ると思ったのに」

「折角のお喋りの機会だからな」


 確かにそうするのも手だが、実際会話ができる黒霊なんて前代未聞なんだ。ひょっとしたら話のはずみで、何か情報を落としてくれるかもしれない。


「まず第一に、この小屋周辺が平和過ぎた事だ。俺らがここを発見してお前と会い、会話を続けるその最中に至るまで、それなりの時間があった。だってのに、周りから全く黒霊が寄って来ない。ちょっと炎で刺激してやれば、親の仇を討つかの如く襲って来たこの森の黒霊達が、だ。青霊って言う最高級の餌があるってのに、何も反応を示さないのはおかしいだろ?」

「あ~、そこか~~~。私、この森の中では相当格上の黒霊だから、周りの子達が遠慮しちゃったっぽいなぁ。ほら、生き物って自分よりも強い存在のテリトリーには入らないものでしょ? 野性味の濃い子達は特にそういう傾向が強くてね。大黒霊の巣とまではいかなくとも、私の周りにも似たような力が働いちゃったみたい。私は優しいから、相談一つで大運動会に参加させてあげたのに~~~」


 アレな言動は兎も角として、会話が通じるだけでなく、この黒檻のシステムについても理解が深い様子だ。うん、言動はアレとして。


「相談……お前以外に言葉を喋る黒霊が他にも居るのか?」

「まあ、多少は? 尤も、この森には私以外に居ないだろうけど~~~。弱いのばっかだしね」

「他にも居るのかよ……」


 でもって、『夢魔の森』の黒霊が弱い判定を食らうのか……


「差し支えなければ、そんな黒霊達がどこに居るのかを教えてもらいたいものだな」

「私が黒霊だってバレた理由をもっと教えてくれたら、考えてあげても良いよ~~~?」

「良いね、お喋りはキャッチボールが基本だからな」


 そう簡単にはいかないか。頭の中がピンクなだけじゃなく、知能も高いよな、やっぱ。


「第二に小屋に生活感があり過ぎた。あんなのが黒の空間にあったら、探索者は逆に警戒するわ」

「ええっ、そうなの? 私ならここで休憩できる♪ って機嫌が良くなるけど? あっ、フリータイムって看板立てておいた方が良かった?」

「色々と言いたい事はあるけど、感覚に致命的な差があるんじゃないかな、多分」


 いや、やっぱり馬鹿なのか?


「スープを出したのもミスだ。青霊は縁のある場所を誤認する事はあるが、実際にそこでものを提供するなんて事はしない」

「うわわ、思ったよりもミスしまくり? ちぇっ、上手く行くと思ったのにな~~~。ああ、そうそう、喋る黒霊がどこに居るのかって話だっけ? ここよりもずっと深いところ、そこでもたま~~~に居るくらいで、基本出会う事はない筈だよ。それくらいレア。だから私、お喋りには飢えているんだよね。仮に会えたとしても変な奴らばかりで、私とイイ事をしようとしないし。うーん、生物としての大事な部分が機能していないのかな? 機能不全?」

「……黒霊も探索者も、一応生物ではないからな?」

「だ、だからか!? 道理で何の反応も示さない訳か、納得!」


 うん、やっぱり馬鹿だな。


「あっ、でも一つだけ例外的な場所があったっけ。あの変人達がどこに居るのかは分からないけれど、そこに行けば会話のできる黒霊が絶対に居るよ。それも沢山!」

「……何か含みのなる言い方だな?」

「そりゃあ、ね? その場所は『堕落歓楽街』と言って、向こうにある城塞都市のどこかにあるよ。とっても楽しい場所だからおススメ!」

「へぇ」


 何かある場所なのは確かなようだ。もちろん、悪い意味で。


「サービスタイムって事で、これも教えてあげる。この『夢魔の森』には『堕落歓楽街』に直通する道があるから、興味があるのなら探してみると良いかもね~~~。具体的にはあっちを探すのがおススメ!」


 と、『屍街』がある方向を指差すマム。まあ城塞都市内にある場所ってんなら、そっちの近くにあるのがセオリーか。


「ホント、サービスの良い事で。じゃ、こっちもオマケして教えておこうかな。第三に……つうか順番的には割と最初の方で発覚していたんだが」

「何々?」

「うちのホワイト――そっちの真っ白な狼が、お前と対面した瞬間に『嗅覚』を使って教えてくれたんだよ。こいつからは何だかよく分からないにおいがする、青霊じゃないかもしれないってさ」

「……ハハッ、何それ~~~? それじゃ本当に最初から怪しまれていた感じ? 何それウケる~~~。……で、お喋りの間に周りが霧でいっぱいになったみたいだけど、これはベクトちゃん達の仕業?」

「だったら、どうする?」

「ん~~~、そろそろお喋りの時間も終わりかな♡」


 直後、ホワイトが展開させていた濃霧を操り、それを四方からマムに叩きつけた。

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