第151話 森小屋
俺が指し示した先には生い茂った森――の中にひっそりと佇む小屋があった。恐らくは手作りであろう木製の簡素なつくりで、壁の表面に苔が生えていたりと年季が入っている。しかし、無人のようには見えない。小屋の近くに洗濯ものが干されていて、所々に生活感が漂っていたんだ。まだドラゴンブレスをぶっ放していないエリアだったから、辛うじて無事だったんだな。良かった良かった。うん、だけど、なぁ?
「どう思う?」
「小屋か……味わい深い出来だが、黒霊に破壊されている様子は一切ない。多くの場合、ああいった場所には何かがあるものだ。女神像であったり、宝箱であったり――或いは、自身が死んだ事を忘れている青霊であったりな」
オルカの考えは俺と同じものだった。となれば、これを探索しない訳にはいかなくなる。
「けど、少し違和感もあるんだよなぁ」
「何がじゃ?」
「いや、それにしたって小屋が小奇麗過ぎると言うか……まるで今も本当に生活しているかのような雰囲気、って言うの?」
「あー、何とな~く相棒の言いたい事が分かった気がするのう。アリーシャの時然り、サンドラの時然り、青霊が居たとしても、その場所は何かがあった後の姿になるものじゃ。あの小屋は逆に生活感があっておかしいと、そう言いたいのだな?」
「そうそう、そんな感じ! 最悪、この森のサキュバスが住んでいる小屋かもしれないぞ。まあ、あの黒霊が洗濯ものを干すかって疑問もあるけど」
「ふむ、確かに黒霊や罠の可能性もあるだろう。まあ何が出るにせよ、探索するのであれば警戒するしかあるまい。それとも今のうちに、外から小屋を吹き飛ばすか? いつものようにドラゴンブレスで――」
「――いやいやいや、流石に探索してからにしよう!? 本当に青霊が居るかもしれないし!」
そんな訳で、レッツ小屋訪問。
「……ノックとかいるかな?」
「相棒、それマジで言っとる?」
だって目の前まで来ちゃうと、小屋の中から人一人分の気配がするって分かるんだもん! 料理をする良い匂いまでするし! まあ流石にノックは冗談だけど、マジで生活感が凄いな。ここが『夢魔の森』だって、思わず忘れてしまいそうだ。
さて、気を取り直して小屋の扉と向き合う。いつ何が起こっても良いようにホワイトを近くに召喚して、俺とオルカは臨戦態勢。さあ、行くぞ――
「うんたったった~♪」
――俺が扉を開けようとしたその時、ギギッとこれまた年季の入った音がした。御想像の通り、立て付けの悪い扉の開いた音である。そしてその中より一人の少女が出て来て、ご機嫌な鼻歌を披露してくれまして。
「……あら?」
「ど、どうも」
目が合い彼女の鼻歌が止まり、ぎこちない挨拶を返してしまう。栗毛色のショートカット、粗末ながらも可愛らしい衣服を纏った彼女は……全身が青みがかっていた。これは決定的な青霊の特徴だ。
「や、やだ、お客さんが来ていただなんて! 私ったら全然気付かず……!」
わたわたと慌てふためく少女。年齢的にはサンドラの少し下、ってところか? しっかりとした言葉を喋っているし、チラッと小屋の中を確認した感じ、他に黒霊が居る様子もない。と言うか、外と同じく中も綺麗なものである。探索者の街レベル? うん、とても黒の空間とは思えないな。
「……突然訪問してしまい、申し訳ない」
「いえいえいえ、そんなそんな! えと、その装い……もしかして騎士様ですか? まあまあ、こんな辺鄙な場所にわざわざどうもどうもです!」
「あ、ああ、こちらこそどうも……」
「わあ、おっきな狼ですね! 私より賢そうなネズミさんも居ます! 最近の騎士団は人種も多種多様なんですね~」
人懐っこい笑顔を浮かべる少女。俺の、と言うよりもオルカの鎧を見て何か勘違いしているようだ。と言うか、ホワイトを見ても一切驚かないとか、なかなか肝が据わっていらっしゃる。ここは話を合わせるべきだよな? と、そんなアイコンタクトをオルカと取りつつ、会話を続ける。
「えっと、それでどういったご用件で? 見ての通り、ここは何の変哲もない森ですし、危険なモンスターも出現していない筈。騎士様がいらっしゃるような事は……あっ、税金!? もしかして払い忘れた!?」
再びわたわたな少女。そしてまた勝手に勘違いを――いや、それよりもこの森が普通? 君は戦闘民族か何かの末裔なのかな?
「まあ自然な流れで考えれば、彼女の生前は普通の森だったって事なんだろうが……」
「えっ、何か仰いました?」
「いえ、こちらの話です。それと税金も関係なくてですね」
「よ、良かった~~~……! ですよね、仕留めた鹿肉とか納めましたもんね!」
おお、鹿肉。見かけによらず、狩人だったりするのか。
「少し伺いたいのだが、貴女はここで暮らしているのか?」
俺が感心していると、今度はオルカが問いかけた。
「そうです。私の家は昔から狩人として生計を立てていて、今もお婆ちゃんと一緒に――って、あれ? お婆ちゃんが居ない? 黙って狩りに行っちゃったのかな? ついさっきまで居たと思ったのに……」
「ほう、祖母と暮らしているのか。実のところ私達、貴女の祖母に用事があってな。戻るまで待たせてもらっても構わないだろうか?」
「あ、そうだったんですね。それなら中へどうぞ、そのうちお婆ちゃんも戻って来ると思いますので~」
そんな流れで小屋の中へと通され(ホワイト&杖ズミさんは外待機)、用意された椅子に座る俺達。なるほど、青霊は黒霊にとってはご馳走のようなもの。ましてや、この森には狡猾な敵が幾らでも居る。この場で待機する事で奴らからこの子を守り、救出する為の同意を貰う算段か。最短で助けるのであれば、今この瞬間に白の空間に連れて行くのがベストなんだろうが、それだと唐突過ぎて彼女からの同意を貰えないだろうからな。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。俺はベクト、彼女はオルカです。貴女の名前は?」
「ああっ、これは失礼しました! 私、マムって言います。お婆ちゃんに曰くまだまだ未熟な狩人らしいんですけど、個人的には一人前だと思ってます。猪だって眉間にズドンですし!」
「そ、それは凄い……」
眉間にズドンって、矢を使っての狩りの話だよな? 銃じゃないよな?
「まあお婆ちゃんなら、放った矢で獲物を両断できちゃったりするんですけどね。確かにそれに比べたら未熟かも~」
「ハッハッハ……」
お婆ちゃんは本当に人間なのかな?
「そうだ、お二人とも小腹がすいていたりしません? ちょうど今スープを作っていたところでして、良ければ味見をどうかなと」
「へえ、スープですか? それはありがたい、是非とも頂戴したいです」
「よ、良かった~~~! 今日のスープは私十八番の自信作、お肉ゴロゴロじっくりコトコト割と濃い味スープなんですよ~~~」
「主食になりそうなパワー系のスープですね……」
そして結構な大皿を用意され、ゴロゴロとスープを用意される俺達。うーん、スープを入れる音じゃないなぁ。
「ささっ、どうぞ! 熱いうちにどうぞどうぞ!」
「ありがとうございます。早速……ああ、ただその前にもう一点、お伺いしておきたい事がありまして」
「えっ、このタイミングで!? えっと、何です?」
「いえ、大した質問ではないんですがね――」
スープをテーブルに置き、ダリウスの柄に手を添える。
「マムさん、貴女って黒霊だったりします?」
「こく、れい……? えと、何のお話でしょうか?」
「「……」」
「……あはは、嫌だなぁ。その目、もう確信している前提で質問してますよね? もう、性格悪いな~~~」
直後、小奇麗だった小屋が爆発した。




