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第150話 森の猛威

 森の奥へと前進前進前進、向かう先にドラゴンブレスを放射放射放射、炙り出した敵を掃討掃討掃討、通った道をマッピングマッピングマッピング――そんな工程を繰り返して暫く、俺達は順調に『夢魔の森』の探索を進めていた。いや、順調ってのは流石に言い過ぎかな。別の区画に炎を放射する度に新たな黒霊が現れては、それを恐れる事なく戦闘に突入。こいつら、やっぱ炎が効かないんじゃね? って勢いでドラゴンブレスの中を突っ切って来るから、逆にこっちが恐怖を感じてしまうくらいだった。森自体も全然火事にならない。不思議! それ以上に怖い! ……で、やっぱそいつらは全員、他エリアの希少種くらいの強さがあるもんで、数が揃うとマジで脅威でしかない。


 よく出現するのが木に擬態しているあのトレント。こいつは本当にどこにでも居て、オルカが炎をぶっ放したら最低でも一体は出て来る。再生能力を持っているのか、生半可なダメージでは倒し切れない相手だ。図体に見合うタフネスもあるから、防御面ではこの森でもトップクラスの敵だろう。ただ、物理的に殴って来る、踏みつけようとして来る以外の手札はないようで、擬態さえ解いてしまえば何とかなるレベルかな。特にシュラに相手をさせれば、まず負ける事はない。


 そんなトレントの陰に隠れるような戦法を取るのが、見えないところから嫌がらせ魔法をして来る山姥サキュバス……なんだけど、最初に戦ったグループ以降は姿を現す事が一切なくなり、あの嫌がらせ染みた状態異常の感覚もすっかり鳴りを潜めている。最初の一戦だけで俺達に魔法が通じない事を理解したのか、もう完全に避けられている感じだ。こちらとしては問題ないんだが、この狡猾さは今も要警戒中。ホラーな顔もそうだけど、今までにないタイプの黒霊ってのが引っ掛かる。忘れた頃に変な事をして来そうな奴、って言うか。


「オルカ、例の蜂(・)がそっちに行ったぞ! 見落とさないように気を付けろ!」


 で、ここからが新顔。こいつは通常サイズの蜂にしか見えない黒霊なんだが、スピードが凄まじく、それでいて的も小さいものだから非常に見失いやすい。だがそれ以上に厄介なのは、いつぞやの鼠ら以上に複数の状態異常攻撃を持っている事だ。奴の針に僅かでも触れると、毒はもちろんの事、急激な睡魔と幻覚作用に襲われてしまうんだ。魔法が原因でもたらされる状態異常と違って、物理的に伝って来たものには魔防耐性もクソもない。万能薬があったから良かったものの、何もなしの状態だったら普通に不味い状況だった。俺達はステータスを共有しているから、片方が状態異常になったら、それも共有になってしまうからな。幸い、奴の飛行中に聞こえて来る羽音が特徴的で、それで大よその居場所は察知可能だ。と言う訳で、この蜂はサキュバス以上に気に掛ける必要がアリ! ハチだけどアリ!


「ベクトもだ! その先には食人植物が居るぞ!」


 はい、これも新たな黒霊、見た目は人サイズまで大きくした食虫植物のウツボカズラ。虫の代わりに同サイズの探索者を食おうとして来るから、食人植物と呼ばせてもらっている。ひょうたんみたいな形状をしたこいつは、その中身にたっぷりと強酸を貯め込んでいて、それで餌と認識した俺達を消化しようとして来やがる。オルカが扱う『強酸』よりもレベルが低いのか、思ったよりも即効性はないんだが、こいつにもそれ以上にやべぇポイントがあるんだよ。それがウツボカズラから発せられる二種類の香り、端的に言うと無意識に近付いてしまうくらいにクッソ良い匂いと、思わず意識が飛んでしまうくらいにクッソ臭い臭いを場面ごとに使い分けて来るんだ。迂闊に近付くとこれら激臭に頭をやられて、ちょっとした洗脳状態になってしまう。だから発見でき次第、遠くから一方的に倒すが吉! 移動先の死角にこいつが居たら泣いちゃうぞ!


「相棒、向こうから人っぽい何かが来ておるぞ!」

「ぽい何かなら、絶対人じゃないな!」


 ここで木々の枝に蔓(つる)を巻き付け、ターザンの如く飛び掛かって来たのが新人類、もとい蔓人間な黒霊だ。遠目には人型に映るのだが、よくよく見てみると幾本もの蔓が人の形に押し込まれ、無理矢理にそんな形状を保っている。頭部には鮮やかな花を咲かせ、まるでお洒落な帽子の如く着飾っているのがまた何とも……ともあれ、こいつはなかなかにアクティブな敵で、俺らを発見するや否や、ああやって蔓で移動しながら急に襲い掛かって来るんだ。体の一部の蔓を解き、鞭にように叩きつけるのがメインの攻撃で、これには『麻痺』が付与されている。下手に受けると動きを制限される事になるし、ダリウスや盾で防ぐにしても蔓を巻き付け、巧みな蔓の技術で奪おうとしてくるわで――あれ、俺よりも器用じゃない!?


「どいつもこいつも厄介な敵ばかりだな、もう! 普通の敵でこれなら、希少種とかどんなだよ!?」

「おっ、相棒自らフラグ立てか? 今日は乗っておるのう!」

「全然違うからね!?」


 こんな激戦の最中でも、俺の相棒兼愛剣はいつもの調子である。ただまあ、こんな馬鹿なお喋りができている間は、精神的にもまだ余裕がある証拠だろう。状態異常を治す霊薬がそろそろ心許ないのが気になるけど、新顔達のゾンビ化お仲間計画も好調だ。ホワイト達なんて、俺よりも余力があるくらいだよ。


「ふぅ~~~……! こ、今回のグループは敵の数が多かったな。つか、森の中心部に行くにつれて、炙り出される敵が確実に多くなってるわ、これ」


 まだまだ新種が出て来る気が余裕でするし、戦力の底が見えん。寂寞放牧地(せきばくほうぼくち)ほどではないにしても、同じような風景が続くのも辛い。主にマッピング的な意味で。


「それでも互角以上に戦えているんだ。凄いぞベクト、偉いぞベクト」

「褒め方が雑ぅ……」

「む、そうか? 私渾身の称賛のつもりだったんだが」

「それはそれとして、結構な連戦続きだ。ここらで一度帰還して、霊薬の補充をしたいところじゃな。新入りの能力確認に戦果確認もあるしの」

「ただ、いつものように女神像は全然見つからないんだよなぁ。ついでに宝箱も未発見だし、最近は青霊だって影すら見当たらない」

「いや、女神像はもちろんそうだが、宝箱や青霊もそうそう出会えるものではないからな?」

「相棒、そろそろ理解しよう? これまでの相棒の旅路は、黒檻の巫女の寵愛があってこそなんじゃって」

「出会いと比例して攻略難度も上がってる気がするけどな! んー、もうちょい進んでみるか? 仮に発見できなくても、フリジアンに乗って来た道を戻れば直ぐに街には戻れる……し?」


 何気なく辺りを見回したところ、あるものが視界に入った。それはこの森においては大変に珍しいもので。


「ベクト、どうした?」

「……あそこ、小屋がある」

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