第149話 リベンジ
「――そんな事があってさ、どう思う?」
黒の空間での移動中、先日ゼラに言われた事をオルカとダリウスに話す。
「普通に受け取るとすれば、ベクトの身を案じての言葉だが……注意喚起の意味が強いだろうな。私ですら知らない黒檻の更なる深部、そこを探索するのであれば何でも使え、容赦をするなと言っているように思える」
「ワシは他にも探索者が居る、そして決して気を許すなと言っているように感じられたな。その者達がオルカやグレアのように善性に満ちているのか、それともハゲのように敵意を剥き出しにしてくるか、それは今の段階では何とも言えん。じゃが、相棒が黄霊や『融合』などの恩恵を得ているように、そこに至った者達はそれだけの強さと理由を持っておるのじゃろう。まあ、アレじゃ。相棒はいつものように石橋を叩いておれ」
「し、親友を叩くなんて、とんでもない!」
「オルカ、我が相棒はもう駄目かもしれん」
「多分冗談だぞ」
そんな会話をしているうちに、目的の場所へと到着した。眼前に広がるは鬱蒼とした最悪の森林、そう、皆のトラウマ『夢魔の森』だ。
「そういや、この森で謎の探索者の目撃情報があったんだよな。運が良ければ、いや、悪ければ遭遇する事になるかも?」
「相棒の運命力がどう転ぶか次第じゃないかのう」
「その話は随分と昔の筈だ。今も近くに居るとは思えないが……それよりもベクト、入る前に今一度確認するぞ。今回の『夢魔の森』への侵入は一気に走り抜けるのではなく、真っ当に探索をするのが目的なんだな?」
「ああ、未知の黒霊を倒し可能であれば仲間にしながら、この森の全貌を明らかにしていく! ……けど、入った瞬間に変な状態異常が飛んで来るんだよなぁ。幻覚って言うの、アレ? 何とか躱せないもんかねぇ……」
「恐らくは何らかの魔法による効果だろう。魔法から状態異常を防ぐには耐性系の霊刻印も有効だが、ステータスの魔防の値が高くても抵抗力が上がるぞ」
「えっ、そうなの?」
「まあ相手の魔力の高さに依るところもあるが、だとしても今のベクトは防御特化型、故に魔防も非常に高い。十分過ぎるほどに頼りにして良い数字だ――と、いくら言葉を足しても仕方ないか。百聞は一見に如かず、実際にやってみよう!」
良い顔で俺を送り出そうとするオルカ。うん、まあこの流れは読めていたんだぜ。
「覚悟を決めて……!」
森の中に足を踏み入れ、その場で様子見に徹する。……お? おおっ?
「前は気持ち悪いくらいに視界が歪んだ筈なのに、全然大丈夫だ……! こ、これが魔防の恩恵!」
「恐らくはホワイトや杖ズミさん、シュラも大丈夫だろう。ドラドラは……問題ないとは思うが、飛ぶには適していない場所と言う事もあるし、今回は留守番かな」
「そうした方が良いだろうな。それじゃ、こっから本格的に探索を始める訳だけど……オルカ、お願いできるか?」
「ああ」
オルカが正面に魔具をかざした、その次の瞬間――広範囲にばら撒くように、ドラゴンブレスが放出された。容赦なき炎の渦は生い茂る怪し気な木々を諸共巻き込み、次々に焼き討ちを果たしていく。普通の森ならば、一瞬で焼き払われる火力だ。だが、しかし。
「効果がないって訳じゃないんだが……表面が黒くなったり微妙に燃え移る程度で済んでいるのは、どういう事なんだろうな? 植物って燃えやすいもんじゃないの? 何でナット可燃物?」
「うーむ、この辺りが『夢魔の森』が難所である所以なんだろうが……」
「情報共有も良いが、そろそろ来るぞ」
ダリウスのそんな忠告の直後、ドラゴンブレスの火中にある森に変化が起きた。バキバキと音を鳴らしながら木々の一部が動き出し、こちらへと向かって来たのだ。木に擬態した黒霊、所謂トレントってやつだろうか。元々、月の光を完全に遮るくらいにでかい木だ。これが動き出したら殆ど巨人サイズ、いや、それ以上かもしれない。それが目視で確認できるだけでも複数体、ドラゴンブレスを嫌がりながらも、構わずこちらに向かって迫り来ている。
「俺の中に住まう勘さんが言うに、あの怪物は単体でもドラドラさん並みなんだそうだ。つまり、普通に出て来る黒霊が他エリアの希少種レベルだ」
「それは一大事だな。どうする、逃げるか?」
「ハハッ、まさか!」
シュラを近くに召喚し、オルカはブレスの射線上にシュラが入らない木の上へと移動。その後、オルカが再びブレスの放射を、シュラはトレントらと激突した。シュラとしては強敵複数体を纏めて相手する形だが……よしよし、問題なさそうだ。八本の腕と得物を十全に使い、あの怪物達と真っ正面から互角以上にわたり合っている。いや、むしろ攻勢に出て押しているくらいだ。
「オルカ、正面は任せた! 俺とホワイト達は隠れている奴らを処理してくる!」
「ああ、行って来い!」
ホワイト&杖ズミさんを召喚しつつ、俺自身も宙を蹴りながら木々の上へと飛び移り、枝伝いに目標へと接近する。これも魔防が高まった恩恵なのかな? 何となくだけど、嫌なもんをぶん投げられている感触が分かるんだよ。主に方向的な意味で。
「よう、さっきからとんだ歓迎の挨拶をどうも」
「ア゛ヴア゛ッ……!?」
ある木の裏に隠れていたのは噂に聞くサキュバス――とは似ても似つかない、紫色の肌をした山姥のような黒霊だった。俺の言葉を理解する知能があるのか、それとも全く関係のない言葉を発しただけなのか、兎も角、理解不能な返答をしてくれた。
で、何やら怖い顔でこちらに手を向けてもいる。尚更に嫌な感覚があったので、くの字を宙で描きながら死角に移動。黒檻に来たばかりの時なら、奴の形相に腰を抜かしていただろう。が、ゾンビに慣れ親しみ、ある程度の耐性ができた今の俺が相手では、隙を作るには至らないぞ。その間に『飛剣術』で斬撃を飛ばし、山姥の首を首をカット。耐久面はそれほどなのか、その一発だけで山姥はダリウスに吸収されていった。
「これがサキュバスとか、夢がないな……ホワイト達は大丈夫か?」
俺がさっきの山姥を担当する一方で、ホワイト達には別の場所に隠れている黒霊を担当してもらっている。そちらを確認すると、元気にホワイトの上で杖を振る杖ズミさんの姿が――いや、その後ろで同じく元気に手を振る山姥の姿もあった。どうやらゾンビ化に成功したようで。
「まあ、手を振らせているのは使役している俺な訳だけど。しかし、コミカルに動かしてみても怖いもんは怖いな」
「ゾンビ達にも慣れたんじゃ、相棒なら問題なく慣れるじゃろ。そのうち愛着まで持ち始めるぞ、絶対」
「言ってろ言ってろ。ええっと、嫌な感覚がなくなったから、これでこの辺りに隠れている奴らは一掃できたかな。オルカの方は……ああ、あっちも終わったみたいだ」
確認すると、オルカ&シュラも殆ど無傷で勝利していた。ちょうどトレントらがオルカの魔具に吸収されていて、一体だけ氷漬けの状態で拘束されているのも見える。
「お疲れ、何か問題はなかったか?」
「いいや、殆どシュラの独壇場だったよ。きっちり私に止めの一撃を残してくれた。それと、一応『感染』もさせようと思ったんだが……どうもシュラの力では無理のようだ」
「あー、非金属相手だからか。ホワイト、こっちも頼むよ」
氷漬けトレントの周りに霧がかかり、そのままゾンビにさせる事に成功。うーん、直接攻撃する必要のないゾンビ化ってマジ便利。戦闘内容も完勝そのものだし、スタートとしては最高だな。
「うし、このまま森を燃やしながら前進しようか! 隠れている奴も擬態している奴も、ガンガン炙り出して行こう!」
「相棒、時と場合によっては相当に最低な発言じゃのう」
違います。『夢魔の森』が相手なら、このくらいがベストなんです。




