第148話 手入れ
「しかし残念な事に、今のところドラドラと相性の良さそうな相手は居ないんだよなぁ」
んー、同じ『飛竜の山』の黒霊中心と言うのもあるかも? ホワイトとシュラは何度か『融合』を繰り返した組だし、その辺りも関係しているかもな。例えばドラドラと同じくらい強いゾンビが居たら、ドラゴンゾンビ系の何者かになれたりはしそうだ。ただまあ、今の段階で『感染』状態ではあるから、ゾンビ方面に特化する意味は薄くなりそうか。
「こればかりは巡り合わせだ。今はただドラドラと交流を深め、探索を進めて行こう。ああ、そうだ。フリジアンについても確認するべきではないか?」
「だな。ゼラ、悪いけどフリジアンの能力も確認させてくれないか? 今回の探索中に『融合』相手を発見してさ」
フリジアンの相手となったのは、今回仲間となった『馳せる飛竜』と『火食らい飛竜』だ。『火食らい飛竜』は巨大ワームの中で戦ったゴーレム飛竜、そのオリジナルと言えば分かりやすいだろうか。
一方の『馳せる飛竜』は名前に飛竜とあるんだが、どうも翼が退化しているらしく、またドラゴンブレスを吐く事もできない。どちらかと言えば地上を走る事を得意としていて、見た目もラプトル寄りだ。特徴的な霊刻印は『疾駆』で、シンプルに速度を底上げしてくれると言うもの。『肉鎧』の速度バージョン、って感じだな。そんな能力もあって、大地を駆るフリジアンとの相性は相当に良かったのかもしれない。
で、そんな二体とフリジアンを掛け合わさって誕生したのが――
「……確認できました。こちらになります」
炎翼の天馬(瞬発LV5、疾駆LV4、体力LV4、飛行LV3、耐性・炎LV3)
――炎の翼を持つ天馬、ファイアでペガサスなニューフリジアンなのであった。炎のたてがみ、炎の尻尾、炎の翼、どれもが熱々な要素満載だが、騎乗してみるに不思議と熱くない事は既に判明済み。ホワイトの濃霧よろしく、味方には害がないように調整可能なようだ。
「おお、見事なまでに機動力に振ってる! 地力を強化する『疾駆』も高いな。『肉鎧』が1レべごとに10アップだったから、レベル4の『疾駆』は速度を40アップか……!」
「特に『瞬発』が高レベルじゃな。ゼラ、これは『噴射』とどう違うのじゃ?」
「ゴーレムなどが持つ『噴射』が武器や空中など、どの場面で何にでも加速が行える万能なスピードアップだとすれば、『瞬発』は自身の肉体のみに限定した特化型です。フリジアンであれば大地を駆る、空を舞うなどの初速がより速くなるかと」
「特化型……そんなに違うのか?」
「同じレベルの霊刻印であれば、1.5倍ほどは違いますね」
結構違った!
「ひょっとして、フリジアンって仲間内で最速になっていたりする……?」
「それだけではありません。フリジアンには『体力』の霊刻印もありますから、スピードの持続力もピカイチです。最速にして持久力も搭載、更には陸空両用、これほどまでに移動に長けた黒霊は珍しいですよ」
「おおー……あれ、でもそうなると、今度は空を飛べたドラドラの存在意義が……」
「相棒、それ以上言ってはならん。ドラドラだって頑張っておるのじゃ」
「そうだぞ、ベクト! 思っても口にしてはならない事だってあるんだ! それにドラドラにはブレス攻撃がある! 空から一方的に攻撃できるのは、大きな利点だ!」
「そ、そうだな、ごめん……」
口は禍の元と言うべきか、ボッコボコの俺である。クッ、どちらにせよ今度は、ドラドラの『融合』相手を見つけなきゃだな……!
「それはそうとベクト、貴方の霊刻印もまた『融合』のできる組み合わせができたのでは? それに伴って霊刻印の空きもできそうですね」
「あ、ああ、実はそうなんだよ、うん」
グレアさんから新たな酒を購入したお陰なのか、最近のゼラは大変にご機嫌だ。率先して案内人の仕事や助言までしてくれる。それ自体は良い事の筈なんだが、どうにも慣れない自分も居て、何だか調子が狂ってしまう。
「えーっと……炎で回復していたとは言え、ずっとダメージ判定が起こっていた影響なんだろうな。『肉鎧』と『再生』が組み合わせられそうなんだ」
「ああ、ずっとその両方も発動しておったのか。で、シナジーが生まれたと」
「しかし、その二つはレベル差が結構あるのではないか?」
「ぶっちゃけある。『再生』がレベル4で、『肉鎧』がレベル6だからな。ただ、キンちゃんの保管庫に『肉鎧』のレベル5があるから、そっちを『融合』に代用しようかなって」
「なるほど、それなら無駄がないな」
てな訳で、この二つをフュージョン!
霊刻印を融合
再生LV4+肉鎧LV5⇒強健LV4
出来上がったのはレベル4の『強健』、その効果は先の二つがそのまま発動するものであるらしい。
「ちなみに、この『強健』とレベル6の『肉鎧』を同時に装備した場合、防御力アップ効果がどっちも発動したりは……?」
「しませんね。効果が重複している場合、よりレベルの高い方が優先されます。ここでレベル6の『肉鎧』を再び構成に組み込んだとしても、頑強の値が20上昇するだけ。それをするくらいなら、別の霊刻印を選んだ方が効果的でしょう」
「ぐっ、そこまで上手くはいかなかったか……!」
なら、レベル6の『肉鎧』はキンちゃんに預けて、代わりに『噴射』か『浮遊』辺りを入れるのがベターだろうか。レベルも高いし、『空蹴』とのシナジーもありそうだ。
「ふう、やれる事が多くなると、考える量も比例しちゃうもんだな」
「嬉しい悲鳴と言うやつだな。フフッ、ベクトがより高みへ近づいてくれて、私も喜ばしいよ」
「うむ、相棒のワシとしても喜ばしいぞ。次の探索は『夢魔の森』じゃったか。より一層気合いを入れんとな!」
「うんうん、その通りだ。ああ、そうだそうだ。実はグレアから手入れ用の砥石を貰っていてな、今なら時間があるし、これでダリウスをメンテナンスしてやろう」
「えっ、砥石……? い、いや、気持ちは嬉しいが、白の空間での暴力行為は禁止されておるから……」
「何を言っている? それはダメージが発生する行いだろう。グレアだって自らの白の空間で作業をするし、魔具の手入れだって完全に別枠だ」
「そ、それはそうかもじゃが、そんな事をしなくてもワシはいつでも万全で――」
「――手入れはどんなに優れた武具にも必要な事だぞ。安心しろ、グレアほどではないにしても、これに関しては私もそこそこ腕に覚えがあるんだ。流石に私と言う魔具は自分で手入れなんてできないから、この前グレアに頼んだのだが、やはりその後の調子は全く違ったぞ! そんな訳でベクト、ダリウスを借りても良いか?」
「おっけ~。ダリウス、良かったな!」
「良くないのじゃ! ワシ、シャリシャリされるとすっごくくすぐったいの! 人の身で言うところのくすぐり地獄なのッ! ままま、待ってくれぇぇぇい!」
「待たない! さあ、私の『修繕』が火を吹くぞ!」
「その霊刻印の効果は今関係ないじゃろおおおおッ!?」
ダリウスはうきうきなオルカに連れられ、向こうへと消えて行ってしまった。うーん、これは……合掌しておくべきか?
「順調ですね、驚くほどに」
「ん? ああ、探索の話か。うん、自分でもビックリするくらい順調だよ。黄霊としてオルカが仲間になって、『融合』の存在が輝き出して、クアッドの探索者としても認められて……他の探索者よりも選択肢の幅が広がっているのは、本当にありがたいよな。ちょっと反則をしている感じもあるけどさ」
「……ベクト、ここより先に進む探索者は、いずれも何かしらの方法で常識を覆し、偉業を成し遂げた者達ばかりです。卑下する必要なんて全くありませんよ。むしろ、もっと盲点を突いて行くべきですね。黒檻の世界は、決して優しくはありませんから」
「あ、ああ、助言に感謝するよ」
おかしいな、ゼラが初期の頃の雰囲気に戻っている気がする。それに、何だか重要な事を言われているような気も――
「それはそうと、この先も新たなお酒との出会いに期待していますね。密輸くらいは目を瞑りますよ」
――おい、速攻で雰囲気を店仕舞いするんじゃない。




