第145話 シュラ
どんどんサイズを増していくハゼーズ+やっちゃん。俺はその真下から見上げに見上げ、遂には首が痛くなる角度に達しようとしていた。やがて『融合』の輝きが止まり、その中から現れたのは――
「おー、これはまた強烈な……」
――巨人サイズの全身鎧、それも腕が八本もあり、それぞれが別の武器を持っていた。それでいて色調がゴーレム仕様で、鎧と武器の各所に噴出口が確認できる。
「ブラキオサウルスほどではないにしても、それに次ぐほどの巨体。得物は斧に槍に金棒に、前はなかった筈の剣やモーニングスター……? みたいなもんまであるな。何て言い表せば良いのか分からないけど、ええと……騎士鎧型阿修羅ゴーレム?」
ハゼーズの総体積が合わさって更に倍となり、その上でやっちゃんの腕要素が組み合わさった、って感じだろうか。
「そこに立っているだけでも、強者の圧を感じてしまうのう。じゃが、これだけドデカいと出しどころは選びそうじゃ。屋内とか絶対に出せんし」
「それは……そうだな。出した瞬間に建物が崩壊するし、破壊不可オブジェクトだったらセルフ拘束状態待ったなしだ。あのトンネルくらい広い場所なら問題ないが、普通はそこまでのスペースなんてないからなぁ」
「名前、そう、名前はどうするべきか。ハゼちゃんとやっちゃんが完全に同一の存在となった今、過去の呼び名は相応しくないだろう。ううむ、これは難題だぞ……!」
「オルカがまず気にするのは、やっぱりそっちの方向性か……」
命名権については、オルカに任せる流れが俺達の中で既にできている。俺のセンスで決めるよりかは良い筈だし、何よりもオルカのモチベーションにかかわる事だからな。
「よし、さっきベクトが喩えたものから命名するとしよう。シュラ、と言うのはどうだ?」
「……!」
沢山の腕で複数種のガッツポーズを決め、賛同の意を示す騎士鎧型阿修羅ゴーレム――改め、シュラ。以前の特徴的な叫び声は鳴りを潜め、超巨大サイズの割に物静かな性格のようだ。尤も、動いた際の駆動音はでかいのだが。
「シュラ、良い名前を貰ったな。ちなみにニューホワイト達はどうするんだ? こっちも改めて再命名?」
「いや、ホワイトと杖ズミさんはそのままで良いだろう。しっかりそれぞれに意思があるようだしな」
「ヂュッ!」
その通り! と、どこか誇らし気な杖ズミさん。
とまあ、そんなこんなで『融合』作業は無事終了し、俺の新たな手持ちはホワイト&杖ズミさん、フリジアン、シュラの三体となるのであった! ……随分とスッキリしちゃったもんである。
「空いた枠分、『飛竜の山』で新たな黒霊を仲間にしておきたいところだな。それじゃ、そろそろ出発しますか」
そうして再出発する俺達……が、ニューホワイトが初速から尋常でない速度を叩き出し、俺とフリジアンは大きく出遅れてしまい――それに気付いたオルカが、数秒後に引き返してくれた。その後、俺も一緒にホワイトに乗る形となり、フリジアンは格納内へ。うーむ、これはフリジアンの『融合』相手も、取り急ぎ探す必要があるか?
◇ ◇ ◇
「さて、白の空間から再び戻って来た訳だが……見るからに暑苦しいな」
「まあ、暑いどころで済む場所ではないからな」
当初の予定通り『飛竜の山』へと到着した俺達は、運よくその場で女神像を発見……いや、そう言うと語弊があるな。と言うのも、この女神像は予めオルカが場所を知っていたものなんだ。故に運がどうこうは全く関係なく、俺の黒檻の巫女に愛され云々の話も全く関係がない。関係ないったらないのだ。
と、そんな俺の個人的な戯言はさて置き、女神像の場所を記録する為にここで一旦帰還。ついでに『融合』を経て新たな姿となったホワイト達についての情報をゼラ(新酒効果でご機嫌)に確認しておいた。その結果は以下である。
賢者と古狼(狼術LV6、穴掘LV4、感染・濃霧LV5、魔法・毒嵐LV5、魔法・結界LV5)
八つ腕の巨甲機(武芸百般LV6、肉鎧LV5、耐性・物理LV4、感染・金属LV4、噴射LV4)
黒霊名については……まあ、その通りだろう。問題なのは霊刻印の方だ。どちらも霊刻印五つと言う豪勢な構成であり、またその中身も初見のものが散見された。無論、これら霊刻印についてもゼラ(ご機嫌)に確認して来たぞ。
まずは賢者と古狼、杖ズミさんとホワイトの方。『狼術』は『嗅覚』、『瞬発』、『咆哮』の複合霊刻印で、これ一つで三種全ての能力が使える優れものだ! ……薄々勘付いてはいたけど、霊刻印の三種『融合』もあったんだなぁと学びました。うん、黒霊の複数『融合』があるのなら、霊刻印もあるよねって話。
でもって『感染・濃霧』はそのまんま『感染』と『濃霧』の組み合わせで、ホワイトが生成した霧を吸い込むと、相手はそれだけで……恐ろしい力である。ちなみに『感染』効果は自在にコントロールできるようで、俺やオルカに対する二次被害の恐れはないらしい。身内に優しい安心仕様でマジで良かった。そうじゃなかったら無差別生物災害になってしまう代物ですよ、これ。
「『魔法・毒嵐』は……実際に使って試してみたいな」
「む、杖ズミさんの新必殺魔法の事か? ああ、私も是非この目で見てみたい! いや、むしろこの身で受けて――」
「――はいはい、モフカワの拗らせも良いが、ライン越えをしない範囲で弁えないとな」
とりあえず、今回の探索で実演してもらおうと思う。
次に八つ腕の巨甲機についてだが、こっちもこっちで霊刻印が凄まじい事になっていた。まずはトップを飾る『武芸百般』、こいつは武器を扱う全ての技術に補正をかけると言うもので、言うなれば『剣術』や『槍術』などの武術全般が集約された霊刻印である。説明していて改めて思ったが、マジでおかしい性能をなさっている。ただ、この『武芸百般』をしっかりと活かすには、複数の武器を使うのが大前提になっちゃうんだよなぁ。基本、剣と盾ブーメランしか使わない俺にとって、そこまで有用な能力なのかと言うと……うーん、八本も腕があるシュラだからこその霊刻印かな、やっぱ!
そんな『武芸百般』が攻撃面での要とすると、これから説明する『耐性・物理』は防御面の要と言えるだろうか。その名の通り物理的な攻撃に対して耐性を持つこの霊刻印は、高レベルの『肉鎧』と併せて使用する事でシュラの護りを更に強固なものとする。『肉鎧』と同じく魔法的な攻撃には全くの無力だが、尖った力には浪漫がある! ボディが馬鹿デカい分、魔法の的にならないよう注意する必要があるだろうけど、使いどころをしっかりと選べば、普通に無双できるだけのポテンシャルはあると踏んでいるぞ。
最後に『感染・金属』について。さっきまでのが真っ当に真っ正面から強い能力だとすれば、こいつは少々トリッキーに傾いた『感染』能力だ。前の探索で分かった事だが、ゴーレムなどの無機物が主体の黒霊は『感染』状態にならない。故に、そういった黒霊は仲間にする事ができなかったんだが……何とこの『感染・金属』は、無機物の相手のみを『感染』状態にする事ができるんだ。つまり、これからはシュラを通してゴーレムもゾンビにし、仲間にする事が可能となったんだ。いやあ、痒いところに手の届く力と言うか、本当によくぞ来てくれました! って感じだよ。
「その代わり、ハゼちゃん由来の大部分、外れた顎と霊刻印は消えちゃったんだけどな。『咆哮』とか『嗅覚』とか……あ、いやでも、その殆どはホワイトが持っているもんだし、特に問題ないか?」
「ああ、シュラとなり、漸くハゼちゃんの顎も正常な状態になってくれた。まあ、頭の兜で顔は見えないんだが……中身が獣人になったと言う線も、なくはないか? 元を正せば、大猩猩は猿人の事なのだろう?」
「だったとしても、やっちゃん効果で骨になってんじゃないかな……」
オルカの守備範囲の広さに一周回って感嘆しつつ、俺は『飛竜の山』の探索を開始するのであった。




