第144話 架橋
「よっしゃ! いっちょ橋を架けてやりますわ!」
祝宴の中、唐突に轟いたグレアさんの声。一体どういう流れなのか、彼女は街の周囲に形成された深い崖部分に橋を架けると言い出した。ハッハッハ、グレアさんの冗談は独特だなぁ! と、最初は笑っていた俺達だったが、この時のグレアさんは本気だった。隠し芸の一環か、それとも自分も頑張らねばと対抗心を燃やしてなのか――兎も角、グレアさんは小一時間ほどで、簡易的にではあるが崖に吊り橋を架けてしまったのだ。しかも、東西南北のそれぞれに四橋も、である。
「ふい~、まあ今日のところはこんなもんですわね。後日、しっかりとした橋も作りませんと!」
「えっ、これで終わりじゃないんですか?」
「何を言っておりますの? 崖は女神像の範囲外、こんな吊り橋では何かあった時に耐えられません。もしもに備え、頑強な橋を目指すのは当然の事でしてよ!」
……と言う事であるらしい。万能万能と散々思い知らされて来たが、グレアさんのものづくり能力は橋まで対応可能だったとは。冗談抜きにオンリーワン、唯一無二の探索者なんじゃなかろうか。ともあれ、これで街から外へ誰でも出られるようになった訳だ。俺も毎回この崖の上り下りをするのは避けたかったからな。素直にありがたい。
「あ、そうだ。グレアさん、ちょっと相談したい事がありまして……」
「アイテムの相談ですの? そう心配せずとも、前に支給した品なら今後も無料で提供致しますわ! 私、ベクトさんにとっても感謝していますの!」
「おおっ、マジですか!? でもただ貰ってばかりじゃアレなんで、俺からも――」
うちの特産品の融通、そして『融合』できそうなアイテムや武具があれば、無償でやらせてもらいまっせと約束。それと本題であったゼラ用の酒を相談し、こちらも諸々を約束。うん、良い相互利益になったんじゃないかな。これでゼラから睨まれる事も圧をかけられる事も、暫くはないだろう。
「お礼の筈が、結局取引になってしまいましたわね。ですが、良い取引でしたわ! ところでベクトさんは、これからどうしますの? 『夢魔の森』を気にしていらっしゃるようでしたが、やはりそちらの探索へ?」
「確かに森も気になりますが……まずは『寂寞放牧地』の南に向かおうかと」
「南ですの?」
「はい、ちょいと『飛竜の山』を見て回りたいなぁと」
◇ ◇ ◇
探索者の街を南側から出発し、南下し続ける。俺はフリジアンに跨り、オルカはホワイトの背に。未だ見渡す限りの地平線が広がるばかりだが、今はこの移動時間が旅をしているようで楽しく感じる。油断をするのは以ての外だけど、巨大ワームの腹の中とか、希少種ばかりが出る画廊とか、最近は心休まる探索がなかったからなぁ。あと、元の姿で実体化したオルカと一緒に、と言うのもデカい。メンタルがガラスな俺にとっては、誰かと共に行動すると言うのは、それだけでも有難い事なんだ。
「ベクト、そんなに私の方を見てどうした? ああ、さてはホワイトに騎乗したくなったな? 仕方のない奴め」
「いや、オルカの存在はホント心強いと思ってさ」
「そうか? 私なら、前回の探索の際も魔具として一緒だったと思うが」
「ワシも! ワシもおるからねッ!? 最初期からの相棒を忘れちゃならんよ!?」
と、ダリウスの意見をボチボチ聞き流し、もう少しで『飛竜の山』が見える! と言った辺りで一度休憩を挟む事に。
「そう言えば、『融合』についてなんだけどさ」
「む、もう新たな霊刻印の組み合わせができたのか? 狙いはあった筈だが、流石に早くはないか?」
「今回の話はそっちじゃなくて、黒霊の方。実はさ、レベルアップした影響なのか、今の仲間達の中から新たに『融合』できそうな感じがあって……とりあえず、皆出て来てくれ」
俺は『召喚・屍』より杖ズミさん達の全員を召喚した。
「今の俺の手持ちはホワイト、ハゼ斧、ハゼ槍、ハゼ金、杖ズミさん、やっちゃん、フリジアンの七体な訳だけど……この中で、フリジアン以外の全員が『融合』できそうな気がするんだ」
「なん、だと……!?」
オルカ、今日一の神妙な顔になる。うん、まあ予想はしていましたとも。
「それはまた、豪勢と言うか一気に来たと言うか……具体的には、どういった組み合わせになるんじゃ?」
「ちょっと意外かもしれないんだが、まずはホワイトと杖ズミさんだ」
「ほ、ホワイトと杖ズミさん、だと……!?」
オルカ、僅かに頬を染める。モフカワとモフカワが合わさり何とやら、そんな新たな姿を想像したんだろうか。
「次がまた規格外な組み合わせで、ハゼーズ三体とやっちゃん、何と四体同時の『融合』だ。ホワイト達については何となく想像がつくんだが、こっちについては全くの未知、本当にどんな姿になるの……って感じだな。二人の意見も聞いておきたかったんだけど、どうする?」
「どうするも何も、やるしかないと思うがの。先のゴーレムとの戦い、率直に言ってホワイトでも手に余る強さじゃった。出してしまってはのヒットアンドアウェイも理に適っておるが、出しっ放しにしても問題のない戦力が居る分に損はない。それにネズミっ子の片割れが死んでしまったように、弱いまま保持していても良い事は皆無じゃろう。故に一択じゃ」
「ダリウスは賛成っと。オルカはどうだ?」
「ホワイトと杖ズミさん、ホワイトと杖ズミさん……!」
「……賛成で良いですかね?」
オルカも賛成してくれたところで、まずはホワイト達の『融合』に着手したいと思う。何となく杖ズミさんをホワイトの背に乗せて、っと。
「おっと?」
結論から言ってしまうと、『融合』を経て一心同体となったホワイトと杖ズミさんの新たな姿は、前の姿とそう変わらないものとなった。ホワイトは背に鞍を装着し、発する霧に魔力めいたものを感じるようになっただけで、前述の通り見た目に大きな変化はない。一方の杖ズミさんはと言うと、まず身に着けていた三角帽子やローブが真っ白に変色し、ホワイトのカラーリングとお揃いとなった。また手に持つ杖も白く、より高位のものへとランクアップ。杖ズミさんの体毛もこれまた白で――もう纏めて言ってしまうが、全部純白仕様である。どうやらホワイトにライドした状態がデフォのようで、魔法使いが騎兵になったって感じかな。全体的にワイルドからテンプルな要素にチェンジされているように思える。心なしか杖ズミさんの表情もキリっとしているかも……?
「一番の変化は杖ズミさんの装備と見た目、なんだけど、今までの『融合』と比較すると大人し目の変化だよな、やっぱ」
「じゃが、より高位の魔法使いっぽくなったのではないか? 雰囲気はもう賢者のそれじゃぞ。それに恐らく、強さも様変わりしておるな」
「うん、それは俺も思った。白の空間に戻ったら、ゼラに能力を確認してもらわないとだ」
「ホワイトに杖ズミさん、こんなにも立派になって……! 触り心地も良くなって……!」
オルカが感極まって泣く寸前になっている。えーっと……よし、今はそっとしておこう。
「よし、次はハゼーズとやっちゃんの番だ」
四体同時に触れるのは難しいが、そこはまあ、ぎゅうぎゅうに詰めてもらって何とか、何とか――
「――よし、何とかなった! って、ええええええッ!?」
まだ『融合』の最中なのだが、この段階でハゼちゃん達の肉体が急激にデカくなり始めた。




