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第143話 トリプルの噂

 黒の空間への移動の際、俺はとある事に気が付いた。登録していた女神像の行き先、その名称が以前は『飢餓の蟲道』だったものが、『蟲道遺跡』に変更されていたんだ。これはエリア崩壊の影響なのか、ちょっと確認しに行きたい気持ちにもなったが、まずは探索者の街に赴くのが先決。そんな訳でゴーゴー。


「ベクトさん、それにオルカも、よくやってくださいましたわ~~~!」

「流石は我が盟友ベクト! 流石は我らが街が誇る花のオルカ! 君達ならやり遂げてくれると信じていたぞおおおッ!」

「今日はその話だけで店を貸し切りにできますね。好きなだけ飲み食いして行ってください」


 でもって探索者の街に到着した瞬間、猛烈な勢いで歓迎されてしまった。グレアさんとオーリー男爵だけでなく、街に居る探索者総出のお出迎えだ。アーノルドさんの屋台までわっしょいわっしょいと胴上げされながら運び込まれ、本日の主役席に座らされ――さっきから、ずっとこんな調子である。


「あー……この様子から察するに、巨大ワームの襲来は止まった感じですか?」

「ええ、その通りです! ベクトさんからの定時連絡がなくて、めちゃんこ心配しておりましたが、クソイベントの如く日々到来していた怪物の姿が消えた事で、私は確信しました! ああ、お二人がやり遂げてくれたんだな……とッ! で、実際どうなんです!? どうやってあの怪物を仕留めましたの!? やはり体内から重要器官を一突きですか!?」

「えーっと、どこから説明するべきか……」

「巨大ワームの内部が別エリアになっていて、その最深部近くに大黒霊が巣を作っていたんだ。その大黒霊の打破後、その奥に奴の心臓部らしき部位を発見。最後はベクトがそこを破壊し、奴の活動を止めたと言ったところか」

「「「「「は、はい!?」」」」」


 グレアさんが事のあらましを知り、他の面々も俺達が動いている事を察していたようだが、流石に大黒霊云々の話までは伝わっていなかったんだろう。オルカの端的で的確な説明も、上手く咀嚼できていないようだ。


「と、となると、つまりはこう言う事かね? 盟友ベクトとオルカはまた大黒霊を倒し、この騒動中にトリプルからクアッドの探索者になったと……?」

「そうなります……ね?」


 街の人達からすれば、オルカも俺と一緒にクアッドの探索者になった認識なんだ。正確にはちょいと違うけど、肯定するしかないだろう。絶対に混乱の元でしかないし。


「ク、クアッドの探索者、だと……? な、なあ、これって凄い事なんじゃないか? ひょっとしなくても、大分やべぇ事なんじゃないか?」

「やべぇつか、そこに行き着いた探索者は初めてだよ! トリプルですら、噂でしか耳にしなかったんだぜ!?」

「フフッ、オルカも遂にクアッドか。俺も鼻が高いよ」

「貴方のオルカセンサーは怖いくらい頼りになるけど、それはどういう立場からの後方腕組なの?」

「うおおおおおおッ! 本当に凄いぞ、盟友ベクトおおおおおッ……!」


 街の皆さんが驚愕する中、オーリー男爵から唐突な熱い抱擁、もとい貴族タックルをされてしまう。一瞬体がくの字になってしまったが、成長した防御力の偉大さが遺憾なく発揮されて無傷で済み――いや、本当に硬くなったんだな、俺。


「だ、男爵、どうか落ち着いて! と言うか涙が凄いな!? そんな漫画みたいな涙の量を流したら、脱水症状になっちゃいますよ!?」

「無理だああぁぁッ! 我々の友情が強い感動を呼び起こすぅぅぅッ……!」

「クッ、出遅れましたわ!?」

「何がです!?」


 驚きが伝播してしまったのか、事情を知る筈のグレアさんもよく分からない事を言っていた。とりあえず、一番感情が揺さぶられている男爵が落ち着いた頃には、ある程度他の面々も正常なメンタルを取り戻してくれたようで。まあ、それでもお祭り騒ぎなのは変わらないけど。


「ああ、そうだ。グレア達に問いたいのだが、たまに噂になるトリプルの探索者について、何か知らないか?」


 と、いつの間にか屋台の奥の方に移動、いや避難? していたオルカが、マイペースにそんな質問をば。お、おう、オルカはモフカワや試練がかかわらないと、本当にビックリするくらい冷静だな……けど、その質問は俺もしたかったものでもある。


「トリプルの探索者ですの? 確かにそういった噂はたま~に耳にしますが、所詮、噂は噂、ベクトさんやオルカの他に、そんな探索者は――」

「――本人かは分かりませんが、噂の出どころと思われる話なら知っていますよ」

「ええっ、アーノルド卿!?」


 シャカシャカとカクテルをシェイキングしていた屋台の紳士店主、アーノルドさんがまさかの爆弾発言。


「とは言え、遠い昔の話ですけれどね。今はもう亡くなってしまった探索者から、酒代として彼の冒険譚を頂戴していたのですが……そこでその者の話題が上がったのです」

「ど、どんな話だったんです?」

「話をしてくれた彼はそれなりの腕を持つ探索者で、この『寂寞放牧地(せきばくほうぼくち)』でも特に難所とされる西側を主な活動場所にしていました。彼は活動範囲を更に広げようと、更に西へ西へと探索を進めて行ったのですが、ある日、誤って『夢魔の森』に足を踏み入れてしまったのです」

「あー、あそこか……」


 真っ当に攻略できそうになかったから、ホワイトに乗って一気に駆け抜けた場所だな。だが、きっと今なら――いや、それよりも話に集中しよう。


「『夢魔の森』を通って来たベクトさんはご存じでしょうが、あのエリアのレベルは周囲と比べても異様に高い。彼のように一歩踏み入れただけでも、湯水の如く状態異常が襲って来ます」

「すっごい覚えがある……」

「そんなエリアを踏破したベクトさんは、やはり凄いですわ!」

「い、いえ、本当に全てを無視して走り抜けただけなんで……それで、その人は?」

「私にこの話をしてくれたくらいですからね、もちろん助かりましたよ。ただ、脱出する間際に見たんだそうです。鬱蒼とする森の中で黒霊と一人戦う、真っ黒な探索者の姿を」

「真っ黒?」

「ええ、影のように黒い装備を身に着けていたようで。あまりにレベルの違う戦いで、目で追うのがやっとだったと、興奮気味に語っていましたよ」

「はえ~……」


 あの森の黒霊と単独で戦えるって時点で、俺がトリプルだった頃よりも強い気がする……


「ん? えっと、ちなみにその探索者がトリプルの探索者だって、その人はどうやって知ったんです? 戦いの後で助けてもらって、話す機会があったとか?」

「いえ、彼は動けるうちに自力で森から去りましたし、その探索者も戦いながら森の奥の方へと消えてしまったそうですので、特にそのような機会は。それでも彼がトリプルの探索者だと断定したのは、彼の身近に居た探索者の最高位がダブルで、それ以上の強さを知らなかったから……つまり、そのくらいの強さだろうと勝手に予想したんですね」

「「「「「ええっ……」」」」」


 俺含め、この場に集った全員がそれはどうなんだ? と言う顔になってしまう。


「そ、そう言う話だったのかね!? 吾輩、トリプルの探索者が存在するものだと思っていたんだが!?」

「噂の又聞きで、些か内容が変わっていたのかもしれませんね。まあ元の話も酒の席での冒険譚ですし、多少は肉付けがされるものです。ただ彼は本気でそう思っていましたし、私も心躍る良い話だと感じましたよ」

「な、なるほどですの。それでアーノルド卿の嘘発見能力を突破したんですわね……」

「ま、まあトリプル云々はさて置くとして、とんでもなく強い探索者が居たのは事実、なのかな……?」


 しかし、『夢魔の森』か。その探索者も気になるし、そろそろ再チャレンジするのも良いかもしれないな。

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