第142話 融合作業
霊刻印を融合
剣術LV5+飛剣LV5⇒飛剣術LV5
統率・屍LV5+格納・屍LV6⇒召喚・屍LV5
「……マジで融合できちゃったよ」
物は試しに、そんな軽いノリで始めた霊刻印同士の融合作業だが、本当に軽いノリで成功してしまう。俺、困惑。
「早速成功したようですね。先ほどは親和性の高いものと説明しましたが、具体的には探索中に併用し、ある程度の戦法として成り立たせている事が条件になりますングング」
と、酒樽から酒をすくい、豪快に飲み始めるゼラさん。おい、いつの間に酒樽を置きなさった?
「な、なるほど。確かに『剣術』と『飛剣』の組み合わせはオルカがよく使っていたものだし、俺もそれを真似て戦法に組み込んでいた。ダリウスの『統率・屍』と『格納・屍』のコンボも言わずもがな……なんだけど、何かレベルが下がってないか?」
「レベルの異なる霊刻印同士を融合する場合、低い方のレベルが基準となって生まれ変わりますので。ああ、それと融合した霊刻印は現状、その後の素材元になりません。ご利用は計画的にゴクゴク」
「そう言う話は先に言ってほしかったんだが?」
まあ操れる数と格納できる数がイーブンになったくらいだから、そこまで影響がある訳でもないか。むしろ、他の組み合わせで失敗する前に気付けて良かったくらいだ。
「ちなみに新たに出て来た霊刻印、名前が『召喚・屍』になってるけど?」
「名前自体が変わっていますが、機能は融合元の二つの霊刻印と変わりません。11体まで屍系統の黒霊を格納可能で、11体まで屍系統の黒霊を同時に操れます。『飛剣術』についても同様ですよ」
「ふむ、となれば能力自体に変わりはなく、純粋に魔具に刻める枠が増えたと考えるべきかの? ……あれ、それってとんでもなく強くね?」
「ああ、探索者としては垂涎ものの能力だ。私が黄霊となって倍化した霊刻印の枠を、更に圧縮して空ける事ができるのだからな。戦術が広がるどころの話じゃないぞ」
「しかも、これからも組み合わせ次第で融合できる可能性があるんだもんなぁ」
今なら『夢魔の森』も攻略できそうな勢いである。トリプルの探索者になって間もないが、こんな僅かな期間でその次の、ええと……その次って何て呼べば良いんだ?
「オルカ、今の俺ってトリプルの次の呼び名になったんだよな? 次の名前って何?」
「ん? ああ、クアッドだ」
「クアッド? クアッド、クアッドか。黒檻の巫女への道を開くには、大黒霊を八体倒す必要があるんだよな? 漸くこれで折り返し地点、まだまだ道のりは遠いなぁ……」
「ベクト、そうは言うが、これは偉業なんだぞ? 私の知る限り、クアッドに至った探索者はこれまでに居なかったからな。最上位でもトリプルが一人だけだった。もっと誇ると良い」
「そ、そうは言ってもなぁ……」
オルカやグレアさんの助けがあってこその結果だし、そこまで得意満面の自信満々にはなれないって。
「そういや、その最上位がトリプルだったって話、前にオーリー男爵からも聞いたっけ。探索者の街には居なかったけど、その人は今どうしているんだ?」
「分からん」
「わ、分からんって……」
「実際そうなんだ。私やグレア、オーリーのように探索者の街を利用する訳でもなく、黙々と探索に繰り出すタイプ、だったらしいからな。実のところ、私も噂を聞くだけで実際に会った事がない。故にそれ以上の事は何も知らないと言う訳だ。その話をしたオーリーなら私よりも詳しいかもしれないが……いや、むしろこういった話題は、アーノルドの方が専門か」
「アーノルドさんか。確かにあの人、探索者の噂話とか詳しそうだもんなぁ。うん、次に街でオーリー男爵達に会えたら、ちょっと聞いてみるよ」
今のところの人物像は、孤高な探索者って感じだろうか。それにしたって探索者の街を利用しないのは、少々孤高が過ぎると思うけど。
「それはそうと、他に融合できそうな霊刻印は……むむっ、この組み合わせはいけそう! けど、『息吹・炎』のレベルの方が高いか。少しもったいない気が……」
「相棒、先の大黒霊が同種同レベルの霊刻印を持っておったから、思い切って使うのもアリじゃと思うぞ?」
「あっ、そういやそうだな! じゃ、これをこうして……!」
色々と試してみた結果、追加で以下のものが出来上がる。
霊刻印を融合
剣術LV5+魔法・氷剣LV5⇒魔法剣術・氷LV5
息吹・炎LV6+吸収・炎LV5⇒竜人・炎LV5
「ほう、セット運用していたものが順当に組み合わさったな」
「『飛剣』と『魔法・氷剣』が別々の『剣術』と組み合わさったから、オルカと一緒に探索する時は斬撃に氷を乗せる、みたいな事ができなくなったんだけど……そのデメリットを余裕を踏み倒せるくらい、霊刻印の枠が増えるのは喜ばしい! 次、構成について考えてみよう!」
と、オルカやダリウスとああでもないこうでもないと話し合う事、数十分。
霊刻印(ダリウス)
◇飛剣術LV5
◇増殖LV5
◇召喚・屍LV5
◇融合LV6
◇空蹴LV4
◇再生LV4
◇肉鎧LV6
霊刻印(オルカ)
◇魔法剣術・氷LV5
◇耐性・氷LV3
◇竜人・炎LV5
◇修繕LV6
◇照準LV6
◇強酸LV5
◇隠密LV3
「ハァ、ハァ……と、とりあえずの基本はこんな感じで良いか?」
「ゼェ、ゼェ……う、うむ、後は使い勝手を確認しつつ調整すれば良いんじゃね?」
「フッ、やはり『修繕』は私の手で直にやってこそだな」
途中からオルカの趣味趣向が割と入って、纏まるのに随分と苦戦したような……いや、きっと気のせいだろう。コンセプトとしてはオルカと共に動くのが基本で、防御と回避に秀でた俺が前衛を、ドラゴンブレスや氷剣で遠距離から狙撃のできるオルカが後衛となる。相手が炎や氷を使う黒霊なら、ポジションが逆になる事もあるだろうが、まあそこは臨機応変にだ。やろうと思えば、俺にはアリーシャ師父直伝の投擲術もあるからな!
「話し合いは終わったかい? 霊刻印とやらを入れ替えまくっているせいなのか、さっきからキンちゃんがご機嫌斜めみたいだよ」
ひと息ついたところで、サンドラが手作りのクッキーと共に、ありがたい助言の差し入れをしてくれた。
「おっ、美味そうじゃな! 相棒、ワシでそのクッキーを斬ってくれ。それで咀嚼できるから!」
「だから人化しろっての……サンドラ、そんなにキンちゃんご機嫌斜め?」
「わりかしね~」
「あー……」
まあ、話し合いが難航すると共に、金庫番のキンちゃんにポイポイと霊刻印の入れ替えを頼んじゃったからなぁ。ちな、現在の保管庫の中身はこれ。
①息吹・炎LV6
②招集LV3
③浮遊LV5
④束縛LV3
⑤水泳LV4
⑥噴射LV5
⑦飛行LV3
⑧肉鎧LV5
入れ替える度に見事なキャッチングを見せてくれたんだけど、流石に酷使し過ぎちゃったか。いつの間にか、酒場からキンちゃんの姿が消えてるし。
「ふむ、ならば私が何か差し入れを持って行こう。いや、別にモフモフしたいとか猫吸いがしたいとか、決してそう言う訳ではないのだ。純粋に謝罪したい気持ちが強い。うん、この気持ちは逸早く伝えるべきものだな。それじゃ、行って来る!」
既にキンちゃんの匂いをキャッチしているのか、オルカはそう捲くし立て酒場から飛び出してしまった。すげぇ、一瞬だけど残像が残ったぞ……
「……餅は餅屋と言うし、全面的にオルカに任せようか。いやあ、クッキーが美味しいなぁ」
「サンドラ、酒粕でできたクッキーはないのですか? 私、貴女なら作れると睨んでいるのですが」
「えっと、そもそも酒粕って何さ?」
俺はダリウスソードでクッキーを刻みながら、ゼラの無茶振りに巻き込まれない事を願うのだった。
「マジうまデリシャ~~~ス。ミルク成分がワシの骨を健康的にしてくれるぅ~~~」
「背が伸びて更なる大剣になれれば良いな」




