第140話 水晶
警戒を続けながらも、今回の大ボスである大黒霊について考えを巡らせる。戦闘中に奴が使っていたドラゴンブレス、アレは道中で飛竜や三つ首が使っていたものと同種の霊刻印『息吹・炎』で間違いないだろう。空を自在に飛んでいた辺り、『飛行』やそれに類するものを持っていると見るべきか。それでいて弱点部も頑丈であった事から、物理防御を純粋にアップさせる『肉鎧』も……これ、道中の黒霊が持っていた複合体とか、そう言う感じの能力なんじゃないか?
ただその一方で、俺のドラゴンブレスは普通に効いていたからな。三つ首の『吸収・炎』を有している線はなし。となると、全部を全部持っている訳ではなくて、ランダムにチョイス、或いは高レベルの霊刻印の四つか五つで構成されていると考えるのが自然か。流石にそれ以上の数があると、大黒霊としても化物が過ぎる。
「現在判明している主な攻撃方法は炎のみ。気を付けるとすれば、『噴射』を利用した物理的なアタックくらいか? それも三つ首の時のようなドラゴンブレスとの合わせ技、それ以上に高レベルな霊刻印で使われると、このギミック満載空間では十分に脅威だな」
「それ以前の話じゃが、こっから奴は復活するのか? さっきから注視しておるけど、何かバラバラになり始めておるぞ?」
ダリウスの言う通り、回転に巻き込まれたゴーレムは次第に分解され、既に人型の形状ですらなくなっていた。
「なるほど、破壊不可オブジェクトにも格差があったのか……なんて冗談はさて置き、まだ魔具に吸収される気配がないからな。多分だけど、もうひと働きする必要が――」
と、俺がそう言い掛けたその時である。俺達の上下左右を回転するトンネルの壁から、唐突に炎が上がった。炎は瞬く間に回転部の全てに広がり、大黒霊の巣は火炎車の車輪のような状態に……ここは地獄か? まあ、何はともあれ。
「……な?」
「な、じゃないのじゃが……」
まあ絵面的には地獄そのものだけど、冷静に考えればただ回復スポットが増えただけのような気もする。回転的な問題は据え置きな為、相変わらずトンネル部には近付きたくないが。
「ベクト、ダリウス、お喋りはそこまでだ。次の試練が来るぞ」
「ああ」
オルカの声色に嬉々としたものを感じたが、最早いつもの事なのでスルー。それよりも、今正に真下から上昇して来た新型に注目すべきだろう。
「第二形態ってところか? それに、お供まで連れて来やがって」
再び姿を現したゴーレムは、以前よりも一回り大きくなっていた。燃え盛る装甲を新たに装着し、砲口を持つ腕を二本から四本に増やしている。廃棄待ったなしだったモノアイヘッドも新たなものに付け替え、更にはドローン染みた小型ゴーレムが二機追加。それらも例の如く破壊不可オブジェクトと同じカラーリングな為、破壊するのは諦めた方が良さそうだ。本体のモノアイのような、明らかな弱点部位も今のところ見当たらないしな。
「ピピピピピッ……!」
電子音を鳴らし、四本の腕から火炎を放射し始めるゴーレム。俺を狙っての攻撃ではない。無作為に周囲にばら撒くような、ランダム性に特化した攻撃だ。しかも、今回の奴は『噴射』にもドラゴンブレスを用いた、どこかで見た戦法を使っている。移動速度が第一形態の倍以上となり、その動きもまたランダム性が強い。そんな本体の代わりに、ドローン二機は集束したブレスで俺を狙い、精密な攻撃を発射。実質的にドラゴンブレスが一度に六発も使われているようなもので、三つ首もビックリな弾幕となっている。また、火炎放射を浴びた回転トンネルは更に強火となり、足場となる筈のキューブにも引火し始め――もう、視界が真っ赤っかだよ。
第二形態と化したゴーレムの猛火を正攻法で攻略する為には、ランダム要素の強い奴の攻撃と動きに注意し、ドローンが放つスナイプを躱し続け、回転する壁に近付く事なく、引火していないキューブを探し出して、それらを上手く活用する必要があっただろう。それがどんなに綱渡りな行為であるのか、三つ首戦を経た俺には痛いほどよく分かる。うん、分かる。正攻法でやるのなら、確かにそうなんだ。そうなんだが……
「いやー……何かすっごい勢いで回復してる気がする」
奴の火炎放射、ドローンの精密射撃、ギミックの炎を浴びるたびに全快してしまう俺。いや、一応さっき予想した感じの別な攻撃とか、その他不安要素も発現しないか気を配ってはいるんだけど、一向にその気配がないと言いますか。で、怒涛の回復に若干引きつつも、こっちもこっちでモノアイを狙った攻撃をしていて、これも例の如く割と高い確率でヒットを重ねておりまして……うん、動きが速くなった分、第一形態の時よりかは避けられてはいるんだけどね? それを込みにしたとしても、当たる時の方が多いって言うね?
「なあ、ひょっとしてなんだが……このまま倒せてしまう感じか?」
「もしかしてなんじゃが……このまま倒せてしまう感じかもしれん」
「場合によっては……このまま倒せてしまう感じだろうな」
と、何とも言えない空気の中で戦う事、数分。俺、大黒霊討伐を達成してしまう。
「『吸収・炎』、無敵過ぎんか?」
「こ、今回の戦いは相性が良過ぎただけだから、うん……」
「ギミックも店じまいを始めている辺り、本当にこれで終わりなんだろうな……」
炎と共に回転していたトンネルは正常な状態に戻り、宙に浮いていたキューブ群も壁の中へと御帰還。そうして巣がなくなっていく様を、俺達はこれまた何とも言えない空気の中で見送っていた。相性って本当に大事なんだと、今日ほど痛感した日はないよ。
「っと、それよりも状況確認! 大黒霊の巣が消失した事で、巨大ワームの方で何か変化は……って、確か今は休眠時間だったっけ。街の方に居ないんじゃ、確認のしようがないか」
「どうする? 奥はまだあるようだが、このまま進むか? それとも帰還して、強化を経てからにするか?」
「んー、そりゃあ一度帰還するのが安牌――ん?」
「相棒、どうしたんじゃ?」
目を凝らし、トンネルの奥の方を確認。『照準』が搭載されている今の俺は、通常よりも遠くが見えるようになっているんだが……やっぱアレ、そうだよな。
「いや、漸くゴールらしき地点が見えて来てさ。今までの道中と比べれば直ぐそこみたいなもんだから、この際行ってみるとしよう」
ダリウスに切り替え、ホワイトに先導してもらう。そして特に何事もなく、俺達はゴール地点――トンネルの最奥へと到着するのであった。
「ふむ? 入り口のような一面の壁、そこにでかい水晶らしきもんが埋まっておるのう」
「ああ、このエリアで初めて目にするものだ。状況からして、外部から新たに取り込んだものでもないだろう」
「つまり、これが巨大ワームの弱点?」
「そう俺は踏んでいるけど……まあ、悩んでいても仕方ない。折角ここまで来たんだ。破壊しないって選択肢はないよな?」
「破壊した瞬間にこのエリアが崩壊するとか、そっちの心配をした方が建設的じゃね?」
そのパターンは普通にありそうだから困る。
「じゃ、速攻で女神像のところまでダッシュできるように、ホワイトの上に乗って……」
炎に満ちた大黒霊戦のお陰で、俺の耐久値はまだまだ元気。と言う訳で、渾身の一点突破型強酸性ドラゴンブレスを水晶にお見舞いする。ど真ん中に攻撃を受けた水晶は、ドラゴンブレスと接触した瞬間にバキリと割れ、次いでバラバラに砕け散って行った。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!
そして連鎖するように、特大の地響きがエリア全体を襲う。
「本当に予想通りの展開になっちゃったな……じゃ、帰りますか」




