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第139話 ドラゴンブレス

 大黒霊の巣の外からの攻撃、本来これは殆ど意味の成さない行為だ。オーリー男爵の矢やバデンの銃弾、そのような攻撃であれば敵に届かせる事はできる。が、巣とその外を区切る境界、そこには目に見えない膜のようなものがあり、射撃や魔法が通過すると、その時点であらゆる影響力が弱体化してしまうんだ。よって身の安全こそ確保できるが、外からは殆ど攻撃や支援が行えない――と言うのが、オーリー男爵から聞いた巣の仕組みだ。


 そこで俺は、この攻撃に『照準』の霊刻印を組み合わせてみる事にした。『照準』は自身が放った遠距離攻撃、その命中率に補正を与え、更には距離によって影響を受ける攻撃威力の減衰を防ぐ働きがある。要はどれだけ離れた場所に相手が居ようとも、攻撃さえ届けば百発百中の命中率を誇り、その時に与えるダメージも一切腐る事がないのだ。だからこそ、俺は巣の特性を覆すと言う意味で、この点に目を付けた。


 ただ、この挑戦を行うのに際し、一つ問題が発生する。大黒霊は獲物となる探索者が巣の外に出ると、その後を追う事もなく、あっさりと姿を消してしまうのだ。しかも、その瞬間に全回復すると言う特大のオマケ付き。巣の中に探索者の誰かしらが残っていれば別だが、今回の戦いに参加しているのは俺単独。思いっ切り大黒霊が帰ってしまうパターンなのである。


 が、大黒霊が姿を消すのは外に出たその瞬間に! と言う訳ではない。ネズミの時を思い出してみよう。奴は俺が外に出たのを確認し、下水道の通り道に入って行くまでに僅かな間があった。そう、別に瞬間移動するとか、不合理に空間から消える訳ではないんだ。オルカに確認したところ、他の大黒霊にも似たような間があったと言う。となれば、あのゴーレムも姿を消すまでに僅かな隙が生まれる事になる。更に言えば、今は戦いの序盤も序盤だ。大したダメージも与えていない今であれば、全回復されたところで困る要素は一切ない訳で。まあ、アレだよ。この方法であれば――


「――安全圏から、安心して検証できる!」


 ゴーレムが止まったこの刹那、俺は一点集中型のブレスをぶっ放した。狙うは奴のモノアイである。前述の通り、『照準』を搭載したこの攻撃は的がどれだけ小さくとも、正確に狙った場所を貫いてくれる。言わばホーミングミサイルのようなものだ。


 それと同時に目の前の光景に集中、奴の行動、周囲の状況――ありとあらゆる変化を目に焼き付け、この戦いの在り方を検証、次のビジョンを想定し続ける。


「ピ、ピピ、ピッ……」

「やっぱ効果アリか、その目はッ!」


 ブレスをもろに受けたゴーレムは大きく仰け反り、放ったいた電子音も途切れ途切れになっていた。一方、挨拶代わりに使った放射型ブレスを受けてもピンピンしていたところから察するに、モノアイ以外の部位は破壊不可オブジェクトと見て良いだろう。また推定弱点部位であるモノアイも、放射型ブレス程度ではダメージを受けないくらいに頑丈……と。なるほど、あいつにダメージを与える為には、それなり以上に強力な一撃をピンポイントで当てる必要がある訳か。それも、あのギミック満載な空間で。


「普通に戦っていたら、クソほど面倒な相手だったんだろうな、きっと!」


 実のところこのブレスには、『照準』の他にも隠し味に『強酸』を練り込んでいる。つまりこの攻撃、正式名称は一点突破型強酸性ドラゴンブレス! 『強酸』は接触した箇所を溶かし、物理的な防御力を低下させる!


「ピピ、ピッ……」


 空中で体勢を立て直し、素早くこちらへと向き直るゴーレム。が、遅い。既に俺は巣の中に舞い戻り、グレアさん印の黄色玉を投擲&刃の太陽もぶん投げたところだ。これらも『照準』の効果により、相手が凄まじい回避力を発揮しない限りは命中する事が約束されている!


「ヒット!」

「――ッ!」


 奴のモノアイは『強酸』によって腐食し、その表層を大きく歪めていた。となれば自慢の防御力もガクンと下がり、ダメージも内部へと浸透しやすくなる。そんな弱体化した弱点部位のモノアイに、今度は黄色玉がぶつかり、破裂。ベタリとトリモチが付着し、ゴーレムの弱点とされる電撃を直に食らわせるに至る。


 ――ガコォン!


 更にそこへ追撃を加えたのは、後詰めとして時間差で投擲した刃の太陽。このエリアで猛威を振るったその凶刃は、大黒霊に対しても例外なく刃を突き立てる。ちなみにこのブーメラン殺法にも『強酸』は適用させており――うん、アレですよ。奴の防御力は今、間違いなくどん底です。


「ピ、ピ……!」

「麻痺ってる中、よくやる!」


 嫌がらせ攻撃を何重にも受ける最中でも、ゴーレムはその両腕の砲口をこちらに向けていた。そして俺も奴に止めを刺すべく、攻撃を放とうとしている。このままいけば撃ち合いとなり、被弾する恐れも出てくるが――それでも、ここは退けない。いや、退く必要がない。


「やっぱりそれか!」


 ゴーレムが砲口より放ったのは炎の息吹、俺が放とうとしていたドラゴンブレスと同じ攻撃だった。二門のどちらもが、矛先一杯に拡散する命中重視の炎である。肌感ではあるが、単純な威力で言えば前に戦った三つ首のそれよりも上、だと思う。もちろん俺のよりも強力、それでいて今から回避するのは不可能だろう。


「けど、それはもう視た……!」


 ついさっき、俺が巣の外へと脱出しようした時、奴はその両腕からドラゴンブレスを僅かに放出していた。と言うのも、その攻撃が届くか届かないか、そんなギリギリのタイミングまで俺が巣の境界線上で粘っていた為、その砲口から何を出して来るのかが事前に分かっていたんだ。故に、この攻撃を避ける必要はない。


 ――ゴオオオォォッ!


 強大なドラゴンブレスが俺を丸ごと飲み込み、それどころか巣の大部分を炎で満たしていく。あの三つ首よりも強力な攻撃だ。俺如きの探索者なんて、本来は骨も残らないような火力なんだろう。だが、すまないな。今の俺には『吸収・炎』があるんだ。


 即死級である筈の炎が俺にもたらすのは、ダメージや痛みなどではなく真逆の回復と癒しの効果。ドラゴンブレスを使うに際し消費していた俺の耐久値が見る見るうちに回復し、霊薬以上の働きをしてくれた。痛めていた筈の腰もすっかりと良くなり……と言うのは流石に冗談だが、もうこの時点でこの霊刻印が大活躍する未来がヒシヒシと感じられる。


「感謝!」


 お礼としてお返しするのは、一点突破型強酸性ドラゴンブレス再び。いっぱいの炎で視界がクソほど悪いが、『照準』を搭載したこいつに隙はない。炎の波を穿つように放ち、ドロドロになりかけている奴のモノアイ目掛けて、ブレスは一本の線と化した。


「ピ、ガ、ガガッ……!」


 炎の奥より聞こえる電子音。それはまるでゴーレムの上げる悲鳴、明らかに破損している事を示したものだった。そしてその直後、目の前を塞いでいた大量の炎が四散。ゴーレムは……破壊不可オブジェクト部分は健在、傷一つ付いていない。しかしその一方で頭部のモノアイは悲惨な状態であり、そこに灯っていた光もまた消えていた。


「ガ、ピ――」


 浮遊能力まで失ってしまったのか、ゴーレムはそのまま真下へと落下。途中、二つほどのキューブとぶつかりながら、更に転がり落ち――トンネルの回転に巻き込まれてしまう。


「破壊不可オブジェクトと破壊不可オブジェクトがぶつかったら……いや、それでも損傷はしないか」


 そんな事を呟きながら、境界線近くのキューブへと着地。いつでも巣から脱出できる状態を維持しながら、俺は事の成り行きを見守った。

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