第138話 キューブ
探索者の街に立ち寄り、グレアさんから補給品を受け取る。その足で巨大女神像に祈り、今度は巨大ワームの腹の中へ。転送後、大黒霊の巣の周辺は相も変わらず静かなもので、辺りには黒霊の姿もオブジェクトの欠片も残されてはいなかった。
「やっぱ吸収されちゃったのかねぇ……ま、今はそんな事よりも、大黒霊討伐に集中しなくちゃだが」
「ベクト、最初から倒そうなんて考えるんじゃないぞ? 最初は様子見、まずは相手の姿形を確認し、少しずつ特性を推し量るんだ。私の魔具が大黒霊になった時のような、後戻りができない状況とは違うのだからな」
「フッ、オルカは誰に向かってそんな事を言っているんだい? 俺ほど石橋を叩いて攻略する男は、そうそう他に居ないぞッ!」
「声を大にして言う事ではないと思うのじゃが」
石橋さんと勘さんは僕の大親友! ……さて、おふざけはここまでだ。
「まずは様子見の一度目、お邪魔しますよっと」
大黒霊の巣、その境目に足を踏み入れる。巣の中は先ほどまで居たトンネルと殆ど同じ光景が広がっている。唯一違うとすれば、床に僅かに残っていた粉々な地面が完全になくなっている事だろうか。床と直接触れ続けるのは不味いと思うが、今は正面に集中。見慣れた底なしのトンネル内に、これまでとは異なる空気が流れ始める。
――ガシャ。
金属質な音を鳴らして変化を起こしたのは、他でもないトンネルの壁だった。知っての通り、剥き出しとなったトンネルは巨大ワームの色と同じものなんだが、それと全く同じ色をしたキューブが一つ、また一つと壁から切り離され、次第に数を増やしていったのだ。キューブの大きさは均一で、どの面もエレベーターの床ほどのサイズがありそうだ。それでいてキッチリ正方形なのだから、結構なサイズ感である。それらは流れるようにして空中に浮遊し、今はまだ静寂を保っている。
「……これがこの巣の主?」
よく分からないが、とりあえず――
「――ブレス、発射」
宙に浮かぶ金属キューブの全てを巻き込むようにして、長剣から放射型の炎をぶっ放す。何かに擬態していようとも、これなら問題なく当たる筈だ。但し、この攻撃はあくまで挨拶代わり。放射は短い時間のみに留め、直ぐに状況の確認に移る。
「あー……ピンピンしていらっしゃる?」
炎の勢いに押される事はあっても、金属キューブ群がダメージを負っている様子は微塵もなかった。破壊不可オブジェクトの如く、焦げ跡一つ付いていないのである。もうピカピカもピカピカ、むしろ炎で磨かれた? ってくらいだ。
「あのキューブの破壊は無理だな。完全にこのトンネルと同じ材質だ」
「となると、大黒霊はまだ出現しては――むっ」
オルカの言葉を遮るように、トンネルの壁が動き出した。ああ、またあの回転だ。
「このタイミングでかよ。仕方ない、一旦外に出るか」
壁の回転はちょうど巣の境目以降で行われるようで、巣の外に出てしまえば安全は確保できる。俺はそのまま外に出て、壁の回転が収まるのを待つ事に。……したのだが。
「なあ、俺が外に出た瞬間に回転が止まったんだけど、回転の周期ってこんなに短いもんだったっけ?」
しかも、まだ回転が最高速に達していない状態でのストップである。その後、空中を漂っていたキューブ群は壁の中に移動し、元の何もないトンネルの状態へと戻るのだった。
「いや、これは明らかに……ベクト、もう一度入ってみてくれ」
「あ、ああ……」
お邪魔しますと巣に侵入。すると、また壁から沢山のキューブが出現し、宙を舞い、次にトンネルの回転が始まり――俺は即座に巣の外へと出た。回転、止まる。
「やっぱり偶然じゃなかったよ……! このトンネルの回転、完全に大黒霊戦のギミックだよ……!」
「となると、大黒霊との戦闘中はずっとあの回転が続くと言う事か? それ、空でも飛べんと無理じゃね?」
「一応、『空蹴』で滞空時間稼ぎはできるけど……トンネルの壁が使えないってのはなぁ。リチャージができなくなって、どの道詰むぞ」
「キューブが一通り出現した後に回転、か……」
「オルカ?」
「あのキューブ、ひょっとして足場の代わりなんじゃないか? 回転前にキューブが形成されるのは、暗にそうしろと言っているように思える」
「あー……やっぱり?」
薄々そうじゃないかな~と思い始めていたんだけど、オルカもそう思うのならビンゴじゃないかな。他に乗り移れそうな場所も見当たらないし。
「もちろん、足場と見せかけた罠と言う線もある。そこも踏まえて踏む必要があるだろう」
「それはまた、なかなかに難しい注文だ。けど、俺は石橋さんの親友! きっと勘さんも手伝ってくれると思うから、何とかなるよ、きっと!」
「フッ、本当に頼もしくなったな、ベクトよ」
「何か最近、相棒の言動がおかしくなっていると思うのは、ワシだけか?」
そんな訳で、キューブ活用を試みる。
「お、おお、普通に乗れたな」
トンネルが回転する前にキューブに飛び移り、そのまま立ち上がる。抜群の安定感。
「浮遊している筈なのに、案外違和感なく立てるもんだな。で、ここからが初見な訳だけど」
安定はしているけど、周囲から来る回転の圧が凄まじい。あまり長居はしたくないなぁ。このまま巣の向こう側まで走り抜けるのは……うーん、ちょっと無理そうか。足場となるキューブが結構あって移動こそできそうだが、あっちに向かい始めたら、もう安全に戻るのは難しくなる。十中八九、これからこの巣の主が現れる訳だし――っと、噂をすれば。
――ガシャ、ガシャガシャ。
壁からキューブが現れた時のように、回転するトンネルの壁から新たなキューブが出現し始めた。但し、今回のキューブは大きさが不均一で、それらが集まり結合する事で何かを形作ろうとしている。人型、と言うよりも、それに近いロボットのような見た目だ。赤く光るモノアイを頭部に宿し、両腕の部分は砲撃でもして来そうな筒が装着され、脚部は……足がない。その代わり、特徴的なタンク容器らしきものが付いている。見たかによっては尻尾に見えなくもない、だろうか? 兎も角、奴は他のキューブよろしく空中に浮遊していて、姿を形成して以降も落下する様子がなかった。
「で、こいつもトンネルの壁やキューブと同じ色をしている、と。ゴーレム型の破壊不可オブジェクトです、ってオチじゃないよな?」
「ピピピピピッ……」
それは俺の言葉に対する返事のつもりなんだろうか? ゴーレムから電子音が鳴り響く。そして――
「つまらないものですがッ!」
――改めて、俺はブレス攻撃をぶっ放す。命中重視の放射型、避けるのは難しい筈だ。俺は受け手側の経験者、ブレスの事は少しだけ詳しいのである。
「ピピピッ……!」
が、炎の中から先の電子音が再びしたのを耳にする。いや、それだけじゃないな。これは……噴射音か!
俺の放った炎の中から猛烈な勢いでゴーレムが現れ、両腕に備えた砲をこちらへと向けていた。そこから何が出るのかは不明、故にギリギリまで引き付けて――おさらばする!
「この勝負、いったんお預けだ!」
キューブから後退するように跳躍し、大黒霊の巣から脱出。こうして大黒霊ゴーレムとの第一ラウンドは幕を閉じるのであった。ゴーレムもその事実を確認してか、放っていた攻撃をストップ。自らの巣に戻ろうと――
「――しているところ悪いけど、場外からの追い打ちを受け取ってくれ」
次に俺が放ったのは、ブレス攻撃の一点集中型。狙うポイントはただ一つ、奴のモノアイだ。




