第137話 霊刻印説明会
「良い機会だ、今保管している霊刻印について説明しておこう」
「相棒、どうした急に?」
「いや、その方が皆に分かりやすいかなって。さっきゼラから一通り説明を聞いて来たしな」
久し振りのアップルパイを食し、気分も上々の中での作戦会議。俺は気遣いの名士となった。
「まずは『強酸』レベル4の霊刻印、これは血塗監獄の大黒霊を倒した時に手に入れたもんだな」
「ああ、あの厄介な肉スライムか。奴から奪った『融合』は大活躍中じゃよね」
「ダリウスの霊刻印とのシナジーも強かったからな。他にも触れた相手から耐久値を奪う『吸収』なんてものもあったんだが、いまいち使いどころに困っていたから、キンちゃんの保管庫からは除外されてる」
ちなみに今回入手した『吸収・炎』と名称が似ているが、その特性は結構違ったり。『吸収』は攻め手側、『吸収・炎』は受け手側で効果を発揮するもんだ。
「まあ、優先度は下がるか……それで、『強酸』はどのようなものなんだ?」
「『感染』や『猛毒』のように攻撃に付与する形で発動して、対象をシュワシュワと溶かします」
「前置きの霊刻印とのコンボで酷い事になりそうじゃが、それとは別にダメージも発生するぞい。で、レベル4ともなれば、その部位が脆くなって更にダメージも通りやすくなる。先の三つ首との戦い、これがあれば随分と展開が楽になっていたじゃろう」
「それ単体で杖ズミさんの魔法みたいに遠くに液体を飛ばす事もできるけど、遅いし精度が低いしで実用的ではないかな。ただ、ブーメラン殺法と併用すれば実用的な攻撃も可能だ。持っていて腐るような事はないだろう」
「相手は腐るんじゃけどね!」
「ハハッ、笑えねぇ……」
「うむ、相手にとっては笑えない力だな」
ああ、そうそう、『感染』はホワイト達に任せている為、こちらも除外となった。枠が、枠が本当に足りないんです……
「同じ入手先と言えば、周囲一帯の黒霊を集める『招集』レベル3がある。これは……まあ、血塗監獄でオルカも体験した通りの力だ。めっちゃ黒霊が集まってくる」
「あの時はなかなかの試練だったな。一見デメリットしかない力だが、逆に考えれば戦闘が容易に行え、経験値を稼ぎ霊刻印を吟味できるうま味もある。問題は使いどころだが……大黒霊戦での出番はないな」
「うん、絶対ない」
安全に使うとすれば、格下のエリアでの希少種を探す時だろうか。レベルが上がったら他のエリアからも黒霊を集め始めそうで、できればいつまでもそのままの君で居てほしい、そんな霊刻印だ。
「三つ目は……『再生』レベル4の霊刻印だな。これは常時能力を発動していて、耐久値が少しずつ回復するってもの――なんだけど、レベルのせいなのか結構な速度で回復してくれるんだよねぇ。ちょっとした傷なら一瞬、ズバッと一太刀入れられても数分で、四肢を欠損したら流石に相応の時間は掛かるけど、これだけで完治まで持って行ってくれるんだ」
「じゃがまあ、相棒はふんだんに霊薬を持っておるし、ワシとオルカの判断で勝手に回復もできるからのう。セルフで同じような事ができるから、絶対に組み込まなきゃ! とはならんのよね」
「以前のベクトならまだしも、今のベクトは防御と回避が上手くなったからな。確かに優先度は低いかもしれん」
「耐久戦とかなら一考の余地があるんだけどなぁ。あとはまあ、そこに居るだけでダメージを受ける空間とかがあったら、活躍しそう? こう、ダメージと回復が相殺する感じで」
「そんな場所なんてあるのか?」
黒檻の世界は広いから。そんなエリアもきっとあると思うから。
「次は『束縛』レベル3の霊刻印、アイアンメイデンの黒霊から手に入れたものなんだけど、これは……まあ、対象を物理的に動けなくするもの、かな?」
「……正直、一番使いどころが難しいかもしれんな」
「うむー……」
この霊刻印は対象に一定時間触れ続ける事で、その相手に黒い縄のようなものが絡みつき、徐々に拘束していくと言う代物だ。今は亡き『吸収』のようなジワジワ系で、決まりさえすれば一方的に状況に追い込む事ができる! ……うん、ぶっちゃけまどろっこしい。そんなチャンスな状態であれば攻撃した方が早いし、拘束するにしても魔法・氷剣で氷漬けにした方が効率的だ。レベル3でそこそこ高い霊刻印の筈なんだが、対象のサイズが大きくなるほど発動にも時間がかかり、これがまた使いどころを悩ませる。格下相手なら可能かもだけど、そもそもそんな相手なら拘束する意味も薄く……
「黒霊と化したクロノスは頭部にあったアイアンメイデンを用いて、恐らくこの力を発動させていたんだろうけど……一秒だって惜しい場面では、なあ?」
「相棒よ、なぜこれを残した?」
「オ、オンリーワンな力ではあるから……!」
あと、クロノスが残した霊刻印は除外し辛かったと言いますか……
「ベクト、私に気を遣う必要なんてないぞ。あの敵討ちを果たした時点で、クロノスとの因縁は断ち切ったんだ。過去に縛られた探索者の寿命は短い、きっとクロノスもそんな未来は望んでいないだろう」
「……ああ、分かったよ」
オルカには全てお見通しだったようである。
「こっからは新顔だ。まずは『照準』レベル5、ブラキオで三つ首な獅子蛇から入手した霊刻印だ」
「呼び名が多彩じゃのう。まあ、しゃーないのじゃが」
「それで、この霊刻印はどういったものなんだ?」
「遠い場所に居る相手に攻撃する時、その命中率に補正を与え、距離における威力の減衰を抑える働きがあるそうだ。三つ首の奴、やたらと正確で強力なブレスをスナイプしていただろ? アレと同じで俺のブーメラン殺法も、より遠くに飛ばせて更にはコントロールもよくなるって事だ。魔法や『飛剣』みたいな技にも有効で、正に遠距離攻撃の補助装置って感じだな。あと、遠目が利くようになるって言う裏効果もあって、ストレートに強力な霊刻印だと思うぞ」
「なるほど、確かにな。限られた巣の中で戦う大黒霊戦での役割は望めないかもしれないが、通常の探索の際はいくらでも活躍の場面がありそうだ」
うんうん、次の霊刻印と併用して使いたい一品なのですよ。
「同じく三つ首から『息吹・炎』レベル5と『吸収・炎』レベル4の霊刻印、あいつが戦闘でやったような事ができるようになるぞ!」
「思いっ切り大雑把になったのう」
「大雑把に強いからな。ゼラに確認したところ、ブレスは別に口からじゃなくても出せるみたいだ。魔法みたいな要領で手から、或いは魔具から放出する事も可能! 魔法じゃないから回数制限もなし! ……と思いきや、あんまり連発し過ぎると俺の耐久値が減って行くらしい。更に物理攻撃的な扱いになるから、幽霊系の黒霊には効かないとか――あれ? 思ったよりも弱点があるな?」
「じゃ、じゃが『吸収・炎』と一緒に使えば、攻撃と同時に回復もできるから……!」
「大胆に霊刻印の構成を変えて、それ専用に組んでみるのも面白いかもしれないな」
その後、大黒霊戦で使うかどうかは相手との相性次第、と言う話となった。
「最後に『肉鎧』レベル5、こいつはステータスの頑強を底上げする力だ。数字的にはレベル1ごとに10、つまりこのレベル5なら50も上昇するぞ!」
「ド直球に強力じゃな。疑似的にワンランク上の装備を纏うようなもんじゃわい」
「しかし、それは物理的な攻撃に対してのみだ。魔法攻撃に対しての過信は厳禁だな」
「「うんうん」」
そんな訳で霊刻印説明会、終わり! ここで幾つか組み合わせを考え、大黒霊の巣で相手の様子を窺いつつ相性の良さそうなものを見繕うのがベストな戦法だろう。さあ、探索者らしく黒檻に抗い、嫌がらせを考えようか!




