第134話 炎獅子
再起動した敵は地上だけでなく壁、天井をも道とし、縦横無尽にトンネルを駆け巡った。しかも、どこを通ろうとも速度は据え置き、もとい最高速を維持したままだ。無駄な装甲を省いてサイズダウンし、スリム化に成功した賜物だろうか。
「まあその原因は、あのロケットブースターなんだろうけどッ!」
「ベクト、来るぞ!」
新たな姿となった奴は口からブレスを吐いてこちらを攻撃する訳でもなく、グネグネと予想し辛い軌道を描きながら、こちらへの突進を試みていた。見た目だけでなく、その動きは本当に蛇のようである。尤も速度が段違いで、スリム化した今もサイズは十分にデカいんだけどなッ!
「食らえやッ!」
「ギギッ……!」
盾で、氷の斬撃で、杖ズミさんの魔法で、各迎撃を一通り試してみる。が、超スピードの弾丸と化した奴は全てを弾き、或いは食らって尚も突貫を続けるばかりで、有効打になっている様子がなかった。更にそうこうしているうちに、俺の間近にまで迫っている訳で――多段ジャンプで回避先を攪乱しつつ、躱す!
「ふんぐ……!」
ゴーレムらしくない、まるで生物を相手しているような動きだったが、何とか矛先を見極め、スレスレのところを避ける事に成功。が、奴が俺の真横を通り抜ける際に、ロケットブースターから放出される炎に焼かれてしまう。焼かれて痛いとか熱いと言うよりも、焼かれた箇所が違う何かに変異していく、そんな奇妙な感触だ。そこを見ている暇はないが、多分炭化とかしてんじゃないかな。
「オルカ、霊薬を!」
「任せろ!」
「でもって、ただじゃ転ばないってなぁッ!」
回復作業をオルカに任せ、奴が完全に通り過ぎる前に一矢報いる。まあ放つのは矢じゃなくて、このグレアさん印の爆弾な訳だが。
「ギッ……!?」
アリーシャ師父に教わったブーメラン殺法、その延長線で磨かれた俺の投擲技術を舐めないでほしい。回避中、そして重傷を負った最中だろうと、奴の胴体に爆弾を当てるくらいは訳がないのだ。投擲した黄色い玉は奴にぶつかった瞬間にベタリと張り付き、猛烈な電撃を撒き散らし始める。
「悪いが普通の爆弾と違って、これのダメージソースは炎じゃない! ゴーレムってのは、雷が弱点なんだってなぁッ!?」
今回の巨大ワームを何とかしようの会に参加するに際し、俺はグレアさんより大量のアイテムを支給されている。その一つがこの爆弾で、以前にネズミの大黒霊戦で使った赤爆弾の亜種とも呼べるものだ。狙った目標に当たった後、トリモチの如く接着するこの玉は爆発後も暫くの間、電撃を発生し続ける。但し欠点もあり、効果範囲が思いの外狭い。装甲の厚いブラキオサウルス形態では、ごく一部しか電撃を通す事ができないと考え、使用を躊躇していたのだが……フフッ、ボディが細くなった今の状態であれば、十分に芯まで通す事ができるだろう!
「ギ、ギギギッ……」
「おっと、思った以上に効果的!?」
現在、胴体にて絶賛電撃発生中。そんな奴の動きは明らかに鈍っており、炎の噴射口も部分的に機能していない場所がある。
「これは……部分的に麻痺状態になっているのかもしれないな」
「新しい状態異常が出て来たな。名称からして、動けなくなる感じか?」
「完全に動けなくなる訳ではないが、動作が大分制限される。それと時間経過で自然治癒する類の状態異常だから、過信は禁物だ」
「じゃが、少なくとも電撃トリモチが機能しているうちは麻痺る筈。相棒、アイテムの在庫は?」
「まだまだたっぷり!」
ゴーレム相手ならこっちの方が効果的だと、グレアさんが気を利かせて属性を変更させた上で持たせてくれたからな。ダリウスとオルカのアイテム枠、その半分はこの黄色玉で満たされている。……あの人、本当に何でも作れちゃうよなぁ。
「って訳で、他の場所にもボチボチ!」
胴体や尻尾が長いだけあって、ぶつける場所には事欠かない。すれ違う時間が許す限り、奴に黄色玉を投げまくる。最後の辺り、俺を尻尾で薙ぎ払おうとしていたようだが、麻痺状態では上手く動かす事ができないようで、それを躱すのは容易だった。
「ギッ、ギギギギッ……!」
黄色玉は相手を麻痺にするだけなく、継続的にダメージも発生させる。それが弱点属性、それもこれだけの数ともなれば、継続ダメージだけでも致命傷なりそうなものだ。だが、奴はまだまだ倒せそうにない。それどころか機能する噴射口からより強いブレスを吐き出し、強引にトップスピードを叩き出そうとしていた。放出するブレスの炎が自身に当たり、それでスピードアップと同時に回復効果も働かせているんだろう。攻防一体に加えて速度にも秀でた、何とも合理的な戦法である。やっぱこいつ、あの氷の騎士より数段頭が切れるタイプだよ、絶対。
「けど、無理をしているのは明らか! 最初の突進よりもキレがないぞ!」
奴の突進コースと炎が噴き出す箇所を見極め、剣と盾と黄色玉で攻撃を繰り返す。それを行うごとに奴のダメージは蓄積し、噴射口も潰されていき、結果スピードと回復力も低下するばかり。万が一にも炎に掠ってしまったとしても、こちらには花畑で増産した霊薬がある訳で――これは勝ったな!
「なんて欠片でも考えたら、また新たなフラグが立ちそうだからな! お前が倒されるまで、徹底徹尾全力でやらせてもらう――よっ!」
そう宣言するのと同時に、機能していた最後の噴射口を麻痺させる。うし、これでブレスの吐き口は完全に塞いだ!
「ギギッ、ギギギッ……バキ、ボギッ!」
「あ?」
麻痺させたのも束の間、奴が発する不快音の中に何か砕けるような音が混じった。しかも、奴の口だけじゃない。蛇となった金属ボディ、その全身から似たような音がしたんだ。見れば、奴の蛇ボディに深々とした亀裂が幾つも走っている。ああ、どこもかしこも傷だらけ、そこに剣を突き立てれば、それだけでクリティカルヒット判定になりそうだ。だが――
「こいつ、まだこんなものを……!」
――次の瞬間、奴の装甲の亀裂から夥しいまでの炎が吹き荒れた。炎は一瞬で奴の全身を覆い隠すまでに至り、炎の蛇としか形容のしようのない姿となる。炎が溢れても装甲が再生しないところから察するに、回復機能を切り防御は完全に捨てているのだろうか。炎を絞って噴出している訳ではない為、以前よりもスピードも落ちているが……ああ、それでも圧倒的な殺意を感じる。火力特化の奥の手、必ず俺を屠ると言う奴の意志の表れ、それがあの姿なんだろう。
全身の炎も厄介だが、一番の問題は頭部を中心に展開された炎の渦だろう。獅子のたてがみの如く、いや、今の形状からすると、エリマキトカゲの襟飾りか? 兎も角、そんなお洒落で物騒なものがメラメラってんだ。さっきも言った通り突貫のスピードは落ちている。が、あの炎の渦が広く展開されているせいで、横に回避するのはもう無理だ。火力特化の形態なら、それに伴うダメージも酷いもんだろう。なら、もうここで止めを刺すしかない。
「そっちが火力特化なら、こっちは氷力特化だってなぁ……!」
刃の太陽に氷剣を使い、刃と氷を一体化させる。氷刃の太陽とでも名付けようか。
「さあ、いい加減この戦いに決着をつけようか!」
迫る敵さんの口目掛け、残る全ての力を集約して渾身の投擲を行う。最大火力と最大氷力、互いの命をかけた正面衝突が巻き起こったその瞬間、トンネル内に轟音が鳴り響いた。




