第132話 三つ首
新たに出現した2つの首は、元々あった首と同じ見た目をしたものだった。となれば、搭載されている機能も恐らくは同様である。
「「ギギッ……!」」
「あ、声も同じく不快な感じなのね」
「言っとる場合か、相棒!」
次の瞬間、放射型のドラゴンブレスが前方より繰り出された。一点集中型との合わせ技となり、余計に隙間がなくなってしまう。で、当たったらアウトな仕様は変わらず、と。……ふっざけんなッ!
「ベクト、左だ!」
「了、解……!」
回避に全神経を集中させ、針の穴の如き隙間に身を捻じ込ませる。こうなってくると、接触していなくても暑さで参ってしまうと言うもの。体感、常時サウナ状態だ。これ、ダメージ入ってないよな? 幸い、慟哭装備による痛覚の増加効果は暑さにまでは対応していない様子。これが親切対応だったら、今頃悶え苦しんでいた事だろう。
「ギリ、ギリッ……!」
奴の声真似ではない。本当にギリギリのところで炎を掻い潜り、死線を越えたかと思えば、また新たな苦難が即座に発注される。しかも、奴は攻撃パターンを器用に変化させて、三本全てが放射型のブレス、三本全てが集中型、またはランダムにぶっ放す等々、攻撃を考える頭も備わっているようだった。これは本格的に不味いぞ、明らかに前の大黒霊(氷の騎士)より頭も良い……!
だが、それでも俺は食らいつく。放射型で逃げ道を防がれたのであれば、斬撃を飛ばし少しでも時間と空間を作り、その場に留まり杖ズミさんの結界魔法、氷剣で作り出した氷壁で耐え忍ぶ。殺意増し増しの集中型で攻められれば、機動力全振りで避ける、避ける、避ける――俺のメンタルがボロボロになるのを対価に、首の皮一枚で命を繋げるのであった。
ただ、そんな死線を何度も越えたお陰で着実に前へと進み、奴のブレスの特性についても分かって来た。首が最初の一つだけだった時、あのブレスは止まる様子が欠片もなく、休憩もなしに放出され続けていた。が、首が一気に三つに増えた今、ブレスの砲口が増えた弊害なのか、途中途中で攻撃が止むタイミングが生まれるようになったんだ。どんだけ図体がでかくとも、そして首が増えようとも内包するエネルギーは有限であるらしい。何ともありがたい話だ。
「隙ぃぃッ……!」
「「「ギッ!?」」」
小さな隙間、ブレスの僅かな隙、隙、隙、隙――俺はあらゆる隙を積み上げ、奴の懐に、つうか胴体の真下にまで辿り着いた。
「よお、貰ってばかりじゃアレだから、俺からも精一杯のお返しをさせてくれよ!」
ゼロ距離からの氷剣を放ち、間髪入れずにダリウスへと変更。ホワイトらを一斉に解き放ち、それぞれに最大の一撃を入れさせる。ニューハゼちゃんズが足を攻撃して敵の姿勢を崩し、フリジアンが突進して最後のひと押しをかます。巨体が倒れたところで予め仕込んでいた氷が纏わりつき、奴と地面を凍り付かせて拘束状態に。更にそこへホワイトとやっちゃんが畳み掛け、可能な限り奴の頭部を切り裂いていき、最後に皆を離れさせたところで杖ズミさん達による魔法が発動、爆風が奴を飲み込んで行った。
「まだま――ッ!」
追い打ちを仕掛けようとダリウスを構えたその瞬間、爆風の中より赤き炎が放出された。俺は即座にホワイト達を戻してオルカへと移行、空中へと逃れる。
「思ったよりも元気だな、ちくしょう!」
「だが距離が近い分、放射型のブレスも拡散し切る前の段階で躱す事ができる!」
「うむ、距離が近い分、その場その場の判断はより迅速にする必要があるが、そこを何とかしてくれるのが相棒なんじゃよね!」
ハハッ、ぬかしおるなぁ二人とも! まあ言わんとしている事は分かるし、あの巨体で氷漬けのボディを起き上がらせるのは至難の業だろう。事実、前よりも攻撃は躱しやすくなっているし――いや、待てよ? 爆風の中から向かって来るブレス、2つ分しかない……?
「ギギギギッ……!」
「ッ! こいつ、自分の体にブレスを!?」
残る1つの首はブレスを自身に向けていた。確かに氷を解かす最善策かもだが、それにしたって思い切りが良過ぎる。
「ベクト、氷を解かすだけじゃない。先ほど与えた数多の傷、奴のブレスを浴びるごとに塞がっている」
「は? ダメージを受ける訳でもなく、逆に回復しているって事か?」
「炎の耐性、その上を行く炎の吸収能力があるのかもしれん。とんでもなくレアものではあるが、霊刻印の中にはそういった種類もあるのじゃ」
「マジかよ……!」
ここまで苦労してダメージを与えたってのに、そんなお手軽に回復されたら号泣もんだぞ。近距離でブレスを回避するのだってメンタルが削られるってのに、これ以上俺を虐めないで頂きたい。それに自分にブレスを吐いている影響で、炎が奴の周囲一帯に広がってしまっている。これじゃあ下手に近付く事もできないぞ……!
「これは……一度退却するのも手かもしれんな。今回の探索で倒した飛竜のゴーレム、構成する霊刻印が同じであれば、『耐性・炎』を持っている筈だ。再戦を目指すのであればそれを組み込むなり、何らかの対策を立てる必要があるだろう」
「この際、完全に無視して先に進むのもアリじゃとワシは思うよ? ぶっちゃけ彼奴、相棒の覚醒とオルカの黄霊化を加味しても、まだまだ攻略するに適しておらん。めっちゃ格上。リベンジするにしても夢魔の森の更に先、そんなレベルで通用する実力を養ってからじゃ」
「そう、なるか……!」
ちなみにこの間も、俺は頑張ってブレスを躱し以下略。うん、妥当な判断だと俺も思う。幸いにも今は、魔法を何発か撃った程度の損失しか出ていない。元々機動力に欠け、今は凍結による拘束も効いている状態だ。進むにしても退くにしても、突破は十分に可能だろう。
「よし、フル無視で行っちゃうか!」
そうと決まれば即実行すべし。俺はブレスを回避しつつ、前に進み黒霊を置き去りにする事に――ッ!
「つ、杖ズミさん!」
唐突に目の前から、巨大な何かが叩きつけられた。敵のブレスにばかりに注意がいっていた俺は、ほんの僅かに反応が遅れてしまう。ブレス回避を前提にしていた動作の途中であった為、ここから更に回避を重ねるのは無理。そんな咄嗟の判断からダリウスに魔具を変更、からの杖ズミさんに魔法・結界を発動してもらう。
「ヂュ――」
杖ズミさんの結界は一秒にも満たない時間ではあったが、迫り来る何かから俺を守ってくれた。しかし、その代償に杖ズミさんは結界ごと薙ぎ払われ、そのまま肉片となって壁に叩きつけられてしまう。杖ズミさんの犠牲を無駄にしない為にも、俺はその一秒弱の時間をフルに使い、謎の攻撃を躱し切る。そして、それが何だったのかを知る事になった。
「こいつ、地面の下に尻尾を隠して……!」
先の攻撃の正体、それは地面の中から現れた奴の尻尾だった。図体がデカければ尻尾もまたそれ相応、その上で噴射の加速を最大活用したぶちかましは、不意打ちとして嫌になるくらいに機能していた。
「ギギギギ、ギギッ……!」
「ベクト、氷による拘束が解除された! 急げッ!」
「クッ……」
杖ズミさんを失ってしまうとは、と、悔やんでいる時間さえないようだ。今だけは感情を捨て置き、俺は逃げの一手に集中する――が、その時の事である。地面が、揺れた。
「これは……巨大ワームの消化!?」
唐突なるトンネルの横回転に、俺と三つ首は巻き込まれる。




