第128話 ゴーレム化
腕関節を切り裂き、丸太の如き金属腕を大剣ごと彼方へ飛ばす。あまりにあっさりと両断できた事実に驚きたいところだが、心は乱さず冷静である事に徹する。隠密状態は敵に攻撃を与えた時点で切れてしまうからな、本当の戦いはここからだ。
「ギッ……」
大斧と金棒を持つ他二体から攻撃を貰う前に、返す刃で大剣ミノの頭部を飛ばして止め。また、それと同時に魔具をダリウスに切り替え、俺の死角側にホワイトを召喚&突撃。金棒を大きく振り上げ、攻撃を放つ寸前だった金棒ミノを大きく吹き飛ばさせる。でもって、ホワイトは直ぐに回収――っと
「ギギギッ……!」
大斧ミノの得物が黒煙を吹かし、結構なスピードで俺の頭をかち割ろうとしてきた。見た目からしてそんな感じだけど、初速から攻撃を最高速度にもっていく、所謂加速系の霊刻印を使っているのか? 斧が三つの得物で一番遅いと思っていたから、内心ちょっと冷や汗。但し、その時にはもうオルカへの切り替えは既に済んでいた。空蹴で何度か宙を蹴り、奴の背後に回るのと同時に攻撃を浴びせる。
「おー、繋ぎ目じゃなくても普通に斬れた。想像以上の切れ味になってんな」
大斧ミノも無事に倒し、残るはホワイトに吹き飛ばされ、トンネルの壁に激突した金棒ミノだけ――なのだが、こちらも勝負はもうついている。オルカの氷剣と飛剣を組み合わせて氷の斬撃を飛ばし、奴の胴体と壁がくっつくように凍らせたんだ。レベル5の魔法だけあって、いくら暴れようとしても無駄である。まあホワイト級の黒霊が相手なら、僅かな時間稼ぎにしかならないかもだが。
「ギ、ギギ……」
「体感、ハゼちゃんと同じくらいの強さだったな。となると、ここは血塗監獄と同程度の攻略難度か?」
「それよりもベクト、そいつは倒さないのか?」
「ああ、ノーマルハゼちゃんと融合できそうな気がしてさ」
ダリウスからハゼちゃんを出し、俺と握手! 更にもう一方の手で拘束状態の金棒ミノに触れ、あ、これ行けるわと確信。
「ウヴォ……」
予想通り、ハゼちゃんが眩い光を発し始めた。よしよし、俺の中に眠る探索者の勘さんは今日も絶好調のようだ。流石だぜ、勘さん!
「ふー、上手くいって良かったよ。融合が終わるまで少し待とうか」
「ゴーレムハゼちゃんになるんじゃろうか? にしても相棒よ、頗る絶好調のようじゃな。先の大黒霊戦での覚醒、今も相棒の中で活きていると見える。いつもの心配性も、危険察知と空間認識の能力として昇華されておるな!」
「ああ、それに身のこなしや霊刻印の使い方、全てが以前の比ではない。ベクト、私を糧にしてここまで成長してくれた事、とても嬉しく思うぞ……!」
「オルカ、その言い方は止めよう。糧とか俺のメンタルにブスリと来るからマジで。……けど、実際自分でも驚くほどに動けているよ。それにさ――」
そんな言葉を口にしながら、その場より大きく跳躍。次の瞬間、真下の砂場から尾のようなものが飛び出し、俺が元居た場所に向かって鋭い刺突を繰り出した。
「――やっぱ勘さんがやたらと冴え渡ってる。尖ってるわ」
足裏から伝わる微妙な振動を感じ取り、と言うか唐突に砂場から黒煙が放出されたから、攻撃される前に余裕で回避行動に移れたよ。砂の下に隠れていたのは……機械仕掛けの蠍か。ミノタウロスと同じく全身がゴーレム化しているが、流れからして元は違う黒霊だったんだろう。砂漠エリアで巨大ワームに飲み込まれた感じかな。
「ベクト、カンさんとは一体誰の事だ? よければ紹介してほしいんだが」
「あ、いや、そう言う意味じゃなくて……」
「などと言っている間に倒してしまったのう」
明らかに奇襲特化の黒霊だったし、初手をミスらなければ、ねえ? 回避先で空中を蹴り反転、即座にカウンターを放って撃破成功である。空蹴の霊刻印、ホント使い勝手が良いぜよ。っと、融合中とは言え、統率・屍の効果を切らすのは不味いな。魔具をまたダリウスに切り替えてっと。
「先の黒霊、無限砂漠に生息する『埋伏する毒蠍』に似ていたな。やはりこの場所、体内に取り込んだ黒霊をゴーレム化させていると見るべきだ」
「さっきの蠍、ゴーレム化する前と比べて強さはどう感じた?」
「砂に隠れて獲物を一突き、毒を食らわせ弱ったところを捕食する。その基本戦術は同じようだが、不意打ちの一撃が鋭くなっていたように思える。尤も煙と音で丸分かりではあったが……」
「加速するのは良いが、不意打ちとの相性が最悪じゃったよね~」
「まあまあ、蠍に罪はないんだから……ともあれ以前に持っていた霊刻印に加えて、煙を出して加速する力が加わっていそうだな。そして素の能力も向上するのがゴーレム化――っと、そうこうしているうちに融合が終わりそうだ」
ハゼちゃんから放たれていた光が弱まり、次第に新たな姿が明らかになっていく。ここで遭遇した黒霊達と同様、メタリックなゴーレムカラーを有し、背中や手足に黒煙を出す噴射口が取り付けられている。ミノタウロスの機械な金棒はそのまま武器に、外れた顎も……そのままだ! 何でそこを再現したままゴーレム化したんですかね!?
「ウヴァギ……!」
「おー、声は若干機械音声がかったものになったんだな。けど、うん、うん……普通に格好良くない!?」
「相棒、気が合うのう! ちょうどワシもそんな事を考えていたところじゃ! この心情を的確に言い表すのは難しいが、不思議と心が高ぶるぞい!」
「そうか? 私としては、以前の温かみが感じれた方がまだ……いや、個人の好みはそれぞれだからな。それよりも呼び名はどうする? よし、ハゼ金だな? 金属質で金棒を持っていて、見事なダブルミーニングだ!」
「う、うん?」
好みじゃない風な事を言いながら、ネーミングは率先して決めるオルカさん。ともあれ、ハゼちゃんはハゼ金に進化したのであった。これで元ハゼちゃんズ全員が融合により強化された訳だ。しかし、今でもホワイトがエースである事に変わりはない。いつかホワイトも融合で強化される時が来れば良いんだが、逆に言えばそれはホワイト並みに強く、更には適合する黒霊を探し出さないといけない訳で……ううむ、まだまだ道のりは遠そうである。
「アアーゥ……!」
「うんうん、ハゼ金も喜んでいるようだな!」
「よ、良かったね。とりあえず、ハゼ金は格納に戻すぞ?」
そのうち金属肌にも興味を持ち始めそうだな、オルカ……
「にしても、巨大ワームが飲み込んだ黒霊、そしてゴーレム化か。仮に巨大ワームが火山も通っていたとしたら、そのうち飛竜のゴーレムも出現するんじゃないか?」
「うん、可能性は高いだろう。飛竜の山は夢魔の森ほどではないが、攻略難度の高いエリアだ。原種よりも強化されていたら、先の黒霊達よりも手強い相手になるのは間違いない」
「まあ、そのくらいの相手が今の相棒にはちょうど良いじゃろ。楽な戦いばかりしていては、折角の覚醒も覚めてしまうからのう」
「おいおい、黒檻に来てからと言うもの、楽な戦いなんて滅多に経験していないぞ、俺。むしろ、毎回死にかけているって言うか……」
などと愚痴をこぼしつつ、探索再会。ダリウスからホワイトを出し、再び斥候役として先導させる。
「ゴオオォ!」
かと思ったんだが、早速何かを発見した様子だ。ホワイトは地面を指さし、いや、前足をさして何かを訴えかけていた。
「もしかして、罠か?」
「ゴオオン」
「首を振っておるのう」
「違うようだな。かと言ってホワイト自身が掘る様子もないから、アイテムと言う訳でも……ベクト、少し掘ってみてくれないか?」
「えっ、俺がか?」
「ベクトが、だ。心配するな、恐らく危険はない」
「えー、本当にぃ?」
「相棒、こういう時は普通に石橋を叩き始めるんじゃな……」
叩いて損をする事は何もないからな!




